ちょっと黙っててくれ

 
この前の一件があって以来名字さんとの距離は近くなっている気がする。

「赤葦くん、その唐揚げ1つちょーだい」

バレー部のメンバーと屋上で昼ご飯を食べていると、何故か最近木兎さんと一緒に来る名字さん。
それは別にいい。だが、距離が近くなったというかこの人の距離感はどうなっているのだろうか。最近では有り難い事に横に座ってくれる。それどころか肩と肩が当たるのではないかという距離感。そして先程の言葉に返事をする前に俺の弁当箱から唐揚げを取って食べている。

これは只の集りなのか。前よりも心を開いてくれているのか分からない。分からないが木葉さんの視線が痛い。

「お前等そんなに仲良かったか?」
「えー元々赤葦くんとは仲良しだし」
「いや…距離感どうなってんの?」

木葉さんのストレートな質問に聞こえていないフリをしていたが思わず手が止まる。
そんな事こっちが聞きたい。名字さんの肩が当たって俺だけが意識している。何故なら平然と「いいでしょ」と答えている名字さん。いや、良くない。変に意識している事を悟られたくない。めんどくさい木葉さんにもバレたくない。いじられるのが目に見えている。

「あかーしと名字は元から仲良しだったけど?」
「いや、それは知ってるけどよ」

明らかに何か疑っている木葉さん。だが残念ながら疑われるような関係ではない。ただ、この前からちょっとした違いだが名字さんが名前をちゃんと呼んでくれている。前のように少し冗談ぽい感じではなくちゃんと。別に大した事ではないが、ちゃんと俺を見てくれているような気がする。そんな些細な事が嬉しくて、名字さんに名前を呼ばれる度に少し嬉しかったりする。

「赤葦くん唐揚げのお返しにトマトあげるー」
「…それ名字さんが嫌いなだけですよね」
「まあまあ、体にいいからお食べ」
「それなら美容にトマトいいですから名字さんどうぞ」
「お前等俺の目の前でイチャつくんじゃねぇよ!!」

両手で顔を覆い大声で言う木葉さんに、心底やめてくれと思った。屋上で食べていた他の人にも注目される。

別に普通のやり取りだ。多分。きっと。
自分にそう思いこませてたのに、木葉さんの言葉で変に意識してしまう。少し横にズレ名字さんと距離を取る。だけども直ぐに距離を詰められる。たまたまかと思いもう一度動くがまた距離を詰められる。驚いでいる俺とは裏腹に名字さんは何もないように普通に木兎さんと話している。

なんなんだこの人…!!

恥ずかしいとかより名字さんの行動に訳が分からず、取り敢えず無心で弁当を食べていると「赤葦くんご飯粒ついてる」と教えてくれた。教えてくれたのはいいが、やはり距離が近い。しかもこちらを向いているせいか距離が一段と近い気がする。ありがとうございます。とお礼を言い思わず視線を逸らすとニヤニヤと笑っている木葉さんと目が合った。

「赤葦ぃ、今日はあっちぃなあ」
「…本当ですね。」

この人絶対面白がっている…。だが、変に否定すると余計からかわれるのは目に見えている。例え顔が赤くなっているとしても平然としろ。そうしたらこの人はこれ以上は何も言ってこない筈だ。そう、このまま平然と何もないように。

「あかーし!何赤くなってんの!?」

無駄に大きな声でこちらを指で刺しながら言ってくる木兎さん。
一番めんどくさい人の絡まれた…!いや、木兎さんなら何とか丸め込めるか?

「何言って言うるんですか木兎さん。光の加減じゃないですか?」
「いや!耳まで赤いぞ!もしかして熱でもある!?」

この人は本当…。悪気がないのも先輩だっていう事も分かっている。だけど今程黙っていろと思った事はない。こっちの気持ちは知らず慌てる木兎さん。後輩思いで良い人なのは分かっているが、本当黙っていて欲しい。
残りの弁当の中身をかき込むように食べ「そういえば先生に呼ばれていたので失礼します」と言ってその場を去った。あれ以上騒がれると木葉さんも悪ノリしかねない。
はあ、とため息をつきながら階段を降りていると後ろから名前を呼ばれた。振り返ると名字さんが居て少し慌てているようだった。

「赤葦くん、本当大丈夫?」
「熱の件ですか?木兎さんの勘違いなので大丈夫ですよ。」
「ほんと?」

そこで気が付いた。いつもは自分より下にあるはずの顔が階段のおかげで同じ高さにあるのを。さっきよりもはるかに近い距離。確実にさっきよりあかくなっているであろう顔。そう自覚した瞬間に名字さんから顔をそらすと「赤葦くんほんとに大丈夫!?」と心配してくれている。ただ距離が近い。この人の事だから無意識なんだろう。

「大丈夫なんで。…失礼します」
「あ、待って!!」

なんとかその場を去ろうとしたら名字さんが何やら自分のポケットをあさりだした。はい!と笑顔で渡されたのはアメだった。

「もしかしたら風邪のひき始めかも知れやないから、これあげる!美味しいよ!」
「ありがとうございます」

満足したのか屋上へ戻っていく名字さん。普段なら滅多に食べない甘そうなアメを頬張りながら階段を降りる。自分の教室の手前で思わず頭を抱え込んで座り込んでいるとクラスメイトに「赤葦なにしてんの?腹でも痛えの?」と言われ急に冷静に戻れた。だがその日やたら絡んでる木葉さんが少し鬱陶しくて、木兎さんに「今日は木葉さんが自主練付き合ってくれるそうですよ」と言って木兎さんを押し付けた。




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