夏合宿って事分かってますか?1

 
※ 本誌内容捏造あり

体育館の中だというのにセミの声が聞こえる。
毎年恒例のグループ合宿。森然高校とはいえ暑い。締め切っていた体育館の扉が開き休憩の合図が出た。扉が開いたからといって涼しい風が来る訳でもなく少しマシなくらいだ。

「赤葦くん、はいボトル!」
「ありがとうございます」

笑顔で渡されたボトルを受け取り喉を潤す。
他の部員にも張り切ってボトルを渡す名字さんに、最初から飛ばして大丈夫か不安になる。

今回、外せない用で合宿に参加出来ない白福さんに代わって名字さんが来る事になった。別にマネージャーは他の高校にも何人も居るし、梟谷から1人でも良かったんだが木兎さんが名字さんを連れて行くと言ってきかなかった。
名字さんも名字さんで「いいよー!」と軽く返事をし今に至る。全体的に緩すぎる。まあ、監督も木兎さんが言い出したら聞かないし、めんどくさいのは分かっているからだろう。しかし体力のなさそうな名字さんが合宿についていけるか心配だが、本人は今の所大丈夫そうだ。変に俺が口を出してやる気を削ぐのは避けたい。

「あらあら赤葦くん。熱い視線飛ばし過ぎじゃないですか?」
「…笑顔が気持ち悪いですよ…黒尾さん」
「いやいや、爽やかな笑顔デショ」

そう言うもののニヤニヤと何か企んでそうな笑顔だ。変に絡まれる前に逃げたい所だが黒尾さんだ。簡単には逃してくれないだろう。それにこの人の事だ、大体の目星は付いてのあの笑顔だろう。今回の合宿は物凄く面倒臭い事になりそうでため息が出る。

「おいおい赤葦ー。ため息なんかしてどうしたの?名字ちゃんが可愛くて堪らないって?」
「暑さでやられたんですか?」
「赤葦、あーゆー子が好みなんだ。結構面食い?…ってその顔やめてくれない?」

黒尾さん曰く凄く冷たい目をしていたらしい。
黒尾さんとは去年の合宿から何かと助けてもらっている。他校で木兎さんの事をうまく扱えるのはこの人くらいだろう。だが、木兎さんとは別のめんどくささがあるのが黒尾さんだ。

現に今でもまだニヤニヤとした顔でこちらを見てくる。先輩じゃなければスルーするのだが、他校の人だとしても先輩だ。それに俺自身も何かとフォローもしてもらっているから頭が上がらない。さっさと認めた方が楽なのか、認めずに適当に返事をした方が楽なのか。どうしたのものかと悩んでいると名字さんと目があった。すると笑顔になりこちらに駆け寄ってくる。

「赤葦くんー!あのさー…って私邪魔だった?」
「いや、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
「今日の夜って何してるのかなーって思ったんだけどさ、」

ここまで言って俺の横に居る黒尾さんが気になるようだ。そりゃあそうだ。180越えというだけで威圧感があるのに、あの顔だ。当の本人は全く気にしておらず逆に名字さんに絡んでいた。

「あー、俺音駒で主将してる黒尾鉄朗。名字ちゃんの話は木兎から良く聞いてた。今回は会えて嬉しいわ」
「えー、木兎変な事言ってなかった?大丈夫?」
「すげぇいい奴って言ってた。あいつ馬鹿だからそれ以上の褒め言葉出ないみたいだったけど」
「あはは、木兎っぽい!」

サラリと嬉しいなんて言葉を言う黒尾さんは流石だと思った。しかも打ち解けるのが早い。まあ同い年なのでお互い気が楽なんだろう。

「多分…つーか確実に夜は木兎と自主練してると思うよ。合宿ん時はそれがお決まり。な、赤葦?」
「そうですね。木兎さんの集中が持つまではしてますね」
「へー!!それ私見ててもいい?」
「俺等は別にいいけど名字ちゃん暇じゃない?女の子は早めに寝ないと美容にも良くないし」
「大丈夫!いつも夜遅くまで起きてるから!それにこんなチャンス滅多にないしね!」
「チャンス?」
「うん!赤葦くんのプレー間近で見れるなんて合宿最高だよね!」
「ほぉー?」

物凄く腹が立つ顔で見てくる黒尾さんは無視だ。変に反応すると余計面倒臭い。こっちの気も知らないで名字さんは少し嬉しそうに話している。

「今日もまだ午前中だけどやばいね!もーやばいしか出てこない!!」
「ぷっ、名字ちゃんそれなかなかアホの子発言だけど大丈夫?」
「とても高校3年生の感想ではないですね」
「赤葦くんはそう思ってもフォローしてよ」
「やばいしか出てこないって、それこそやばいですね。やばいって意味自体あまり良くない印象ありますし」
「赤葦くんやばいって言い過ぎじゃない!?じゃねぇ…、やっぱり綺麗だった。真っ直ぐ綺麗な姿勢からボールが操られてる感じっていうのかな!?どこに上がるか分からないのが凄くてビックリした!いつもは遠くからしか見てなかったけど、間近で見るとやっぱり違うね!赤葦くんの綺麗さが分かるね」

黒尾さんと一緒に名字さんをからかっているつもりだったのに、ストレートな感想をいきなりぶつけられなんて言い返すべきか迷う。黒尾さんも少しビックリした表情だったがすぐにあの胡散臭い笑顔になって俺を見てくる。名字さんは名字さんで午後用に飲み物作ってくるね!と言ってその場を颯爽と去っていった。

「…….あのさ赤葦くん?君達付き合ってりするの?」
「…付き合ってませんよ」
「まじかー…。いやー、名字ちゃんって殺しにかかってくるよね。しかも爽やかに」
「…そうですね。いつも人の気も知らないで勝手に自分の感想言ってどっか行くんですよね、あの人」
「木兎をコントロール出来る赤葦くんは、好きな子はコントロールできないってか?」

ニヤニヤとしながら言う黒尾さんに言われっぱなしも負けた気がする。

「まあ、あの人なら振り回されてもいいですけどね」

黒尾さんにからかわれるのは目に見えていたのでその場をさっさと立ち去る事にした。案外声をかけてこなかったので助かったかと思っていたが、それは大間違いだったみたいで午後練の時には少しでも名字さんと喋っているとニヤニヤとした黒尾さんがこちらを見てきて、それはそれで面倒くさかった。




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