寄り道もたまにはいいもの

 
パシャン、

そこまで大きくないが水溜りに足を入れてしまい靴から足へと水が染みてくるのが分かる。歩く度にあの独特な感触が気持ち悪い。

体育館の点検で部活が休みだ。
珍しく好きな漫画の発売日と被った。いつも部活がある為、その日に買えるのは少し嬉しかったりする。
靴の中まで染みて気持ち悪いが漫画だけは買おうと近くの本屋に向かった。

お目当の漫画を手にし、会計を済ませようとレジに向かう途中見覚えのある姿を見つけた。

名字さん?

あの人も本を読むんだと失礼な事を考えていると名字さんの背後に2人組の男が名字さんに指をさしながら何やら話している。おそらく名字さんに声をかけたいのだろう。黙っていれば可愛いもんなあの人。

少し気にはなるが、わざわざ口を出すのも変だろうか。持っていた漫画の支払いをしにレジに向かおうとするものの、やはり気になる。
もう一度名字さんが居た方を見ると、さっきの男達に案の定声をかけられていた。

まあ、名字さんなら上手いことかわすだろう。

そう思いレジに向かい会計を済ます。
早く買った漫画を読もうと出口に向かうが、気になる。もしかしたらあの人の事だ。ふら〜とついて行く事も考えられる。だがそれを俺が嫌だと理由で間に入るのもおかしな話だ。後、何より恥ずかしい。

そんな事を考えつつも足は無意識に名字さんの方へ向かっていた。
男達は頑張って名字さんに話しかけているが、明らかに嫌がっている名字さん。足早にその場を去ろうとする名字さんの腕を掴みひきとめている。

「お待たせしてすみません」

ワザといつもより低めの声で名字さんと男達の間に割り込む。何か言いたげな男達を睨むと気まずそうに本屋を出て行った。
変に絡んでこない相手で良かったな。男達の背中を見ながらそう思っていると袖を引っ張られているのに気が付いた。

「待ちくたびれました、あかーしくん」
「…余計な事してすみません」

まだ余裕があったのか平然と軽口をたたく名字さんをよく見ると少し震えていた。

「実はこの本屋来るたびに見てくるなーって思ってたんだけどさ、まさか声かけらると思ってなくて…。しかも中々しつこいし怖くて助かったんだ。ありがとう」

眉毛を下げ、珍しく弱々しい態度の名字さんを見て驚いた。この人にも苦手意識とかあるのか。学校では目立つせいか普段から色んな人に声をかけられてるのを見ていたので、勝手に平気だろうと思っていたが声をかけて良かったな。

「ほんとありがとう」
「…」
「あかーしくん?」
「さっきの人達、もしかしたら外で待ってるかも知れませんし駅まで一緒に行きませんか?」

自分でも驚く言葉が出てビックリするが、表情には出さないように顔の筋肉に意識を集中する。
恐る恐る名字さんの顔を見ると、先程とは違いつもの表情に戻っていた。

「ありがとう、赤葦くん」

いつものふざけた感じではなく柔らかい笑顔で言われたせいで、さっきの努力は無駄になった。

「耳赤いけどどうしたの?」
「…気にしないでください」

駅までの道なんて今まで何回も通って来たのに、なんだか輝いている気がした。




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