もう少し考えて行動してくれ

 
さっきまで晴天だったのに、空気が変わったなと思ったら急な豪雨。しかも雷のおまけ付きだ。
傘持ってきていない為、部活が終わるまでにはやむといいなと思っていると廊下に座り込んでいる2人を見つけた。

「何してるんですか」
「んー?木兎が雷怖いって言うから慰めてる!」

そう言う名字さんの横には180は超えている男が小さくなって頭からブレザーをかぶっている。

「木兎さん、デカイ男がそんな事をしても可愛くないですよ」
「赤葦酷くない?」
「一般的には名字さんがしている方が納得できますよ」
「確かにー!そうかも知れない!」
「んな事言ってもこえーもんは仕方がないだろ!」

ごめん、ごめんと言いながら名字さんが拗ねている木兎さんの頭を撫でている。
思わずその光景に目を疑った。
いや、元々2人の距離感の近さは周りがビックリするくらいだ。今でも全校生徒の半分以上は2人が付き合っていると勘違いしていてもおかしくない。

どうしたものかと考えていると、一段とデカイ雷が落ちる。その音に思わず俺も名字さんもビックリする。

「結構近くに落ちましたね」
「ねー、結構音大きくてビックリした!」

なんて呑気に話していると、木兎さんが我慢の限界だったみたいだ。
下心とかそんなのではなく、ただ本当に怖かったんだろう。近くに居る名字さんに抱きつこうとしていた。

あ、間に合わない。

木兎さんと名字さんの間に割って入ろうと手を伸ばすが、木兎さんの方が動きが早くて間に合いそうにない。いくら自分の先輩とはいえ、自分が気になる人相手に抱きつこうとしているのは腹が立つ。例え下心が無かったとしても。

「木兎、それはダメー」
「ぐへっ」

華麗に木兎さんから逃げた名字さん。
木兎さんは目を開けていなかった為、そのまま廊下へ顔面から滑り落ちた。

「ひでぇ!ちょっとぐらいいいじゃん!変な意味じゃねぇんだしっ!」
「木兎さん、180超えてる男性が女性に抱きつこうとするのはダメですよ。警察呼ばれますよ」
「軽くセクハラだよねー?」
「じゃあ、赤葦でいいから俺を雷から守ってくれ!」

そう言って俺の方に向かって飛んでくる木兎さん。
勿論避けた。何が悲しくて自分よりもゴツい男に抱きつかれなくてはならないのだ。

「ぐへっ…あかーしたまにはいいじゃんか!」
「たまにはって今までに一度も木兎さんに抱き付かれるのを許した事ないですよ」
「ぷぷ、木兎あかーしくんに振られてやんのぉ」

やーいやーいと子供のように騒いでる名字さんに、少しいつもの調子を戻した木兎さん。
もう大丈夫そうだなと安心して、軽く言葉を交わしその場を立ち去ろうとすると誰かに引っ張られる。

「あかーしくん、」

名字さんに腕を引っ張られ、体勢が少し崩れる。

あ、顔が近い

「あかーしくんなら抱きつかれてもいいよ?」
「……は?」

悪戯っ子のような顔でとんでもない事を言う名字さんに何も言い返せずにいると、こっちの気も知らないで「木兎教室戻ろう!」と木兎さんに声をかけていた。

「あかーしくん、またね」

ひらひらと手を振り、なかなか立とうとしない木兎さんに軽くパンチを入れている名字さんにため息が出る。

「あかーしくん、幸せ逃げるからため息はダメだよ」
「…それは嫌ですね」

じゃあね、とまだ立たない木兎さんを引きずりながら歩いていく名字さんの後ろ姿を見送る。

あの人は本当もう少し考えて行動してくれないのか。
あの人の行動1つ1つに簡単に乱される自分が嫌になる。




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