日は西に傾き、空は赤色に染まりつつあった。


僕は町の外にこっそりと出た。


門を開けると強い風に思わず身体がのけ反った。

行くなとでもいっているのだろうか。

僕は荷物の中からせいすいを取出し
自分の身体と周りにまいた。

辺りの魔物の気配が消えた。

ブーツのベルトをきつめに直し、走りだした。

旅を始めてからきっと体力が上がったと思う。
かなりの距離を走ってもさほど息は上がらない。

滝の洞窟の道には行かず恐らく所あるだろう場所に走った。

関所が見えてきたところで僕は足を止めた。

「……焦げた臭いがする…」

近付くと関所はひどい有様だった。

強引に破られた鉄の門。黒く焦げている橋

「…なにこれ。」

人が倒れていたので、すぐに近くに寄った。

ひどい傷だったので、ホイミを唱えて傷を癒した。


「大丈夫ですか?」


「……見ず知らずのかた申し訳ない。貴女のおかげで、痛みから解放されました。ありがとうございます。」


その人は男性で、変な道化師に関所を突破されたと言った。
道化師と聞いて、僕はすぐにドルマゲスが頭に浮かんだので、彼に聞くとすぐに彼は頷いた。

「……あいつか…。」

怒りが込み上げてくる。
城のみんなを思い出すと余計に。


ドルマゲスへの怒りを吐き出しそうになったとそのとき、

彼は、いきなり立ち上がり

「貴女を村に案内したいのですが。恩返しをしたいので。」


私は彼の提言について、
首を横に振った。


そのかわりにあることをたのんだ。

「あの、塔に連れてって」

彼は悩んだが、頷いた。

「わかりました。ついて来て下さい。」


僕は素直についていった。

ドルマゲス…最低な奴だ。
城のみんなを茨にした上に、何の罪もない彼にも傷を負わせた。
あんな奴を野放しにしておけない。

「あの…名前はなんというんですか?」

「あ、なまえと呼んで下さい。そちらは?」

「えっと、クランクと申します」

彼の顔をみると、かなり顔が赤色に染まっていた。

「………熱でもあるんですか?」

僕は彼のおでこに手を置いた。

すると、彼はビクンッと身体が固まった

「……あぁあぁぁぁ!えっとその!熱とかそういうんじゃなくて…えっと……ハハハ…なんでもないんです」

彼の慌てように僕は驚いた。

「嫌だった?」

「……あぁあぁぁぁぁ!!!!ちっちがいます!!そのあの!!!嫌な訳がな……わわっ…むしろ嫌じゃなかったです!!!ハイ!!!」

「…ぶっ…クランクって面白い奴だねっ」

思わず吹き出してしまった。

「…あぁあぁりがとうございますっ!」

「うん、とりあえず落ち着こう」

「…あぁあぁぁぁぁ「落ち着こう」

そうこうしてるに
村の前に着いた。





村の前にいた青年が
こちらに気付き、近づいてきた。

「クランク、お前関所は?」

「……決壊されました。」

「………そうか…傷は?」

クランクはこちらを向いて、この方に直していただいたのですよ。
と言った。


「……お前は夜番の奴と代わって休んだほうがいいな。」


「でもこの方をリーザス塔に案内しようと……」
「あぁ、では、俺が案内するからお前は休みなさい。」


その人は笑顔でクランクに言った。

「…わかりました。お願いします。」


クランクが村に入っていくのを見届けると
青年がこちらに向き直った。




「お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい、なまえと言います。そちらは?」


「ああ、これは失礼した、俺は、サーベルト・アルバート」

サーベルトと呼んでくれと言った。

だから、僕もなまえと呼んでくれと言った。

「なまえ、お前は何の用で、塔に行くのだ?」



「………それは…えっと…」
僕は言葉に詰まった。直感で言っていたのだ。

「…まさか、盗賊…「違います。」

「………あそこに引き寄せられるんです」

リーザス塔と口に出したのは自分でも驚きだった。
全く知らない場所なのに、どうしてか行きたくなった。

「……なまえを信じていいんですか?」

「…疑わないで下さい。」

あぁ一つ聞きたいといわれたので、どうぞと言った。

「失礼だとわかっているが、性別はどっちだ。女にしては胸が…「それ以上言ったらその顔見せものにならねぇぐれぇにぐしゃぐしゃにしてやんぞ。」


真っ黒いオーラを背負い目が怪しく光っていた。

「……女だな。…余計に怪しくなったが」


日は気付いたら完全に落ちていて辺りは暗く怪しく魔物の目が光っていた。



「今宵はもう遅い、家に来たらどうだ?」

「……ありがとう。御礼はどうしたら。」

……サーベルトは考えて、手をぽんっと叩いた。

「これでいいな。」

………ぎゅっ

「……?…おぉ?……あん?」



突然の事でびっくりした。

首と腰にがっちりとした腕が絡み付く

抱きしめられたのだ。

「御礼はこれでいい。」
すっと離れると手を取られた
「……は…は?」
顔が真っ赤になったのが見なくてもわかってしまった。

「それのほうが女らしいな。」


そしてサーベルトの顎にアッパーが決まった。








「…お邪魔します。」

連れて来られたのはサーベルトの自宅という屋敷。

……屋敷って…お坊ちゃまだったのね。

「ただいまーー!!!」

サーベルトが声をあげた

使用人達が集まり彼を迎えた。

「お帰りなさいませ、サーベルトお坊ちゃま!」


私は居にくくなって、一歩後ろに下がった。

「サーベルトお坊ちゃま、その方は?」
コックがこっちを見て言った。

「あぁ、彼女は、俺の恋人だ」

………ん?

「サーベルト…?ちょっとそれは」


あまりにサーベルトが笑顔なので
言えなかった。

周りの反応は喜び一色だった。

……確かに泊まるなら恋人のほうが
都合がいいのかも知れない。
ただ、そう言われてもこういうとき、どんな顔をすればいいかわからない。

「では、一人分追加して、食事をご用意させていただきますね!!!」


「あぁ、頼む。」

「お邪魔させていただきます」

小さな声でサーベルトが
女らしくも出来るのだなと、
ぼそぼそ言ったので、
さりげなく足を踏んだ。

「冗談だ、冗談」

彼は笑った。



階段をあがると、思わず、目にいってしまうほどの、胸の大きな女性がいた。

自分の胸に視線も向けてまな板具合に泣きたくなった。

「兄さん!!」その女性は、サーベルトに抱き着いた。


「ただいまゼシカ。」

どうやら妹らしかった。

オレンジ色のツインテールを
揺らし、こちらを向いて言った。

「貴女、兄さんの恋人?」

「え、あ、……」

ちょっと困って、サーベルト顔をみると

「恋人。可愛いだろ?」

可愛いなんて凄い久しぶりに聞いたきがする。


若干鳥肌が立つ。

「兄さんの恋人なら、歓迎するわ!!
私は、ゼシカ、ゼシカ・アルバート、ゼシカって呼んで!」

そういうとゼシカは僕に抱き着いた。

「こちらこそ、僕はなまえよろしくね」

「母さんは?」
ゼシカは不機嫌そうな顔をした
「自室にいるわよ。」

「なまえ、しばらくゼシカと話をするといい、俺は母親と少し話があるから」

「あぁ、そうしたい。」

彼は、さらに階段を上がった。








****




口走った言葉は

”なまえは呪われてなんかない。呪われているのは、むしろ…俺”

どうしてあんなことをいったんだろう?

勝手に口が動いて、勝手に喋ったような感覚だった。
どうしたんだ俺?俺は呪われてるのか?
僕は物心ついたころから、トロデーン城で厄介になっていたし、なまえみたいに、虐待されてきたわけじゃない。
誰かに”呪われてる”というような、事もなかった。

俺となまえの違いは明らかなのに、どうして、口走り困惑してるのだろう。



身体中で、全力で、泣き叫ぶように。


イキテイルノニ、ミテモラエナイ


君はこんな思いでずっとトロデーン城にくるまでは、生きていたんだろう
虐待されるのが当たり前のように。当たり前じゃないくらい、もっと小さな子供だってわかるのに

トロデーンに来たばかりの頃は、大人が嫌いで王の前でさえも、怯えていた。兵士の剣をもった兵士の側に寄るなんてこともなかった。

ただ僕の手を握りしめて、大人が怖くて怯えていた。


慰めるなんてもう必要はないかも知れない。
必要なのは彼女を護っていくことだと思う。

彼女の事だから、もうさっきの出来事を気にし過ぎて、勝手に開き直ってるか、どんどん自己嫌悪に飲まれるか、するだろう

どんどん次の行動に移すに違いない…と思う……


(……次の行動?)


彼女なら一人でほっつき回ってていても可笑しくない。
寧ろ、大人しいほうがおかしい。

さすがに出ていかないよな?
うん、大丈夫だ、大丈夫…大丈夫か?



「兄貴ィ!!!!!姉貴がいないでガス!!!!!!」

乱暴に扉を開けて大声で叫ばれた言葉。

すこしだけ驚いて息をひとつ吐き出した。


…………期待を裏切ってくれないのがなまえだな、たまには、裏切ってほしい


さぁ…そろそろ、出るか。


「ヤンガス落ち着いて、なまえなら多分大丈夫だから。」

あわてふためくヤンガスに言葉をかけた。


「姉貴のことだから多分大丈夫でガス」


「絶対に大丈夫だろう。」

言い切ると、ヤンガスと笑った


今から、じゃじゃ馬姫を捕まえに行く














***


「…………なまえ」


突然だったので、後ろからの声に驚いた。


「……なっ、なに!なんでございましょうかぁぁあ!!!!!」

「あ、うん、まず落ち着け。」

冷ややかなその声に、固まる。

「うん、うん、…うん」

うん、しか言ってないぞ、一言

「何?」と一言聞くと

サーベルトは頭を思いきり下げた。

「悪いが………一日…いや三日間くらい…恋人のフリをして欲しい。」


…………ん?は?え?

りぴーとぷりーず


「な、ななななな………なんでだぁぁあ!!!!!!!」


僕の声は小さな村には十分な声だった。



サーベルトは膝をついてなまえの手を取った。

「俺には大嫌いな婚約者がいる。」


やつなのだろうか。


「あいつはな、あいつはな………

例えるなら…………

豚+リップス=あいつだ!!!!!!」


…………

…………………


そんな人種がいるなんてびっくりするわ。

一目みてみたいものですなぁ…


「お前、今”そんな人見てみたい”とか思ってるだろ…」


「サーベルトさん、もしかして心を読む能力が!!!「いや、ないから。」


「…とにかく、この通りだ。」


深く頭を下げようとしたので僕は慌てて止めた

「大の男が女に頭を下げるなんてみてらんない」

しかたない、引き受けるか。
泊めて貰う恩返しという事で

「僕でいいなら、使ってくれ」


そういうと、後ろからギュッと抱きしめられた。

………!

「ありがとう…なまえ」

心臓が驚きで速く鼓動を打つ。

……………エイトは姫が好きだから、もし、本当に恋人になっちゃったら、僕は少しでも楽になるだろうか。

抱きしめられた腕の中で、一瞬だけ、そんな事を考えてしまった。


「………そんなに嫌な相手なの?」



「お前な…豚+リップス+性格ヤバイ=あいつだぞ?」

「ひとつ増えたぞ。」

サーベルトは笑い出す

「……あ、…よく見たらお前随分顔が赤い」

「なっ!!!」

優しい声で耳元でそういうから余計赤くなる。

「違わないだろ?」
いじわるな顔で見つめてくるから

視線を合わせないようにそっぽを向くと
さらに抱き寄せられた。

心臓の鼓動がまた、どんどん速くなる。

「恋人ごっこに、こんなのいらないだろ!」

「いいだろ、恋人なんだから」


「……っ!」

サーベルトには口で勝てないだろう、勿論肉体的に勝てるとも思えないが、

「……君が嫌がるのは凄く悲しい」

僕は黙った。

この人は、どこか…エイトに似てる気がする。

全部全部全力で、優しくて、強くて、心配性で……



「…さっきから、すごく恥ずかしい!!…てかなんで、大切な奴がいるって…!!!!」


さらに顔が染まる。


「やっぱりな、しかもそいつは俺に似てる。じゃなかったら、そんな切ない顔なんかしない。」

そんな顔って……。
サーベルトも切ない顔で僕を見る。

一瞬だけ心臓がはねあがる。


「なぁ、嘘じゃない。…正直にいえば、一目惚れしたんだよ。」

………それって、世にいう告白って。

「冗談きついぞ。」

わざとらしく笑うと


サーベルトは、あまりに、真剣な顔で
僕は思わず下を見た。


「目を見て、なまえ」

顔をあげると
一瞬、エイトがいたように見えた。


余計に目をはなせない


「お前みたいに、自然に接してくれる奴は初めてなんだ。だから…男らしくても、胸がなくても、こんなに背中は小さくて、女だ。短い時間しか触れていないが。例え、周りに……お前に幻想だと言われたとしても、これは本気だ。」


速まる鼓動が痛くて堪らない。


どうしても、目が離せなくなる。


手を思いきり握る。


−−−−−−−僕は………





「…っ………恋人のふりはする。でもその返事は考えさせて欲しい。」


サーベルトは頷くと黙って借りた部屋まで案内してくれた。

お互い黙ったまま夜遅い暗い廊下を並んで歩いた。

その沈黙は僕にはすごく辛くて仕方なかったが、もっと辛いのはきっとサーベルト。


部屋につくと、サーベルトは小さい声で「おやすみ、なまえ」と言った。

一瞬見えたその顔は初めて会ったその時笑顔は消えていて、
代わりに見ているこっちまで切なくなるような、
そんな苦しい顔だった。

「……おやすみ、サーベルト」

そういった瞬間、優しく抱きしめられ、サーベルトの胸に顔を埋めた。
男の人の腕、息、顔、首。抱きしめられて改めて感じるサーベルトの心臓の音。
身体中が脈をうつように音を立てた。身体も熱くなってクラクラする。

いきなりサーベルトの腕が離れて、ふらっとして、半歩前に出てしまった。

「おわっ」
どうやら、知らぬまによりかかってしまっていたようだ。

そう思うと物凄く何故か恥ずかしくなり、

「………ーーっ!!お…おっおやすみ!!」

頭の中でパニックが起こって、
言葉にならない音を出したあとに、離れて勢いでドアを閉めようと試みたが、
サーベルトの顔がずいっと眼の前にきて、僕は怯んでしまった。


「……寄り掛かってくれてたのは嬉しいけど、あからさまに、不自然」
と呟くとサーベルトは笑いながら、自室へ戻って言った。

僕はへなへなとその場に座りこんだ。

まだ、熱い顔
まだ、脈が速い心臓

「反則じゃねぇ…?」

エイトがしないことを、サーベルトは僕にする。

抱きしめられてこんなにドキドキする

それは彼が好きになったから?

やっぱり僕は、きっと彼を選んだほうが、幸せになれる。



ダッテ、エイトは、ヒメノコトがスキダカラ。



わかっているのになかなか決められない僕がいた。


明日になったら、きっとちゃんと答えが出せると思う。

今日はもう、寝よう。

そう思いベットに入った時、ドアがノックされた。

僕は起きていって、ドアを開けると
ゼシカがたっていた。

「…ゼシカ?」

キッと睨まれたかと思うと
急に笑い出した。

「あんな、顔の兄さん初めて見たわ」

顔が赤いのが直らない。

「…なまえは、兄さんのこと好き?」


「……わからないよ。」

ゼシカは首を傾げる。

「…どうして?」

僕はちょっと考えてみた。

「………ゼシカ、恋ってしたことある?」

「…まだだけど、何で聞くのよ」


「いつからか、僕は、男のように振る舞ってきたけど、やっぱり女だと思う瞬間ってこんな時。抱きしめられれば反射的に恥ずかしくなるし、赤くなる。でもこれは恋じゃないってなんとなく頭のどっかでわかってる。僕はサーベルトのこと好きだよ、
でも気持ちに答えることは出来そうにないかもしれない、頭ん中ぐるぐるしてんだわ」

一気に話した


おどけたように頭を指す。

そう、私が好きなのは
あの鈍感な奴だ。

迷うことはない。

「なまえが義姉さんなら許せたかもしれないわ。」

「ありがとう、そんでごめんな。」

ゼシカは優しく微笑んだ。

「ねぇ、なまえよかったら友達になってくれない?」

「もちろん。こちらこそよろしく」

「今日は一緒に寝ましょうよ!なまえのことをたくさん教えてほしいわ」

「あぁ」


二人は見合って笑った。











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