あちこちの水を凍らせながら
きっと普通の人が洞窟を出る時間の
二倍も早く外に出た。
(かなり速く走っていたから)

外は闇に包まれていた。

昼間街から微かに聞こえた賑やかな声も聞こえなくなっていて
水の流れる音しか耳に入らない程、静かだった。


なまえは空を見上げた。

空には、織り姫も彦星もいなかったけれど、黒が見えないぐらい。

これをきっと

満天の空というんだろうと思った。


なまえは草の上に倒れた。


びっくりしてエイトが、近寄って来た。

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。」

エイトはなまえの目線を追うように空を見上げた。

「…すっごい綺麗な空だね。」

「うん。寝転がって見たほうが、ずっと凄い。」

エイトが、僕の横に寝転がった。

「うわー、本当だ。空が落ちてくるってこういうことなのかな。」

「そうかもしれないな。」

ヤンガスとトロデ王の声が向こうから聞こえた。

エイトが起き上がった。

「いこうか。」

エイトは手を差し出してきた。

「ありがとう、王子様?」
その手を差し出す姿は王子に見えた
思考回路が結構乙女化してるな自分。

「王子って」

エイトは笑った。


なまえは手を取った。





***






「………………」

やけになまえが静かになった。

下にあった水溜まりを踏んだ瞬間、エイト達は身構えたが、なまえは無言で1番前を歩いていた。
寝ながら歩いてるんなら器用だな…とエイトは思った時、

草陰からガサッという音と、耳が痛くなるような
「キーッ!!!!」
と高い声が聞こえた。

ドラキーの群れだった。

エイトとヤンガスが戦闘体制になる前に

物凄い音がした。

空気を切る音と何かが思いきり当たる音。

ドラキーは
地面にはらはらと落ちた。

「なまえ…?」

今の音はなんだった?

「……邪魔くさ。」

なまえはそれだけ呟くと、剣をしまった。

「ヤンガス…今何があったの?俺にはさっぱりわからなかった。」

「兄貴、あっしにはわかりやしたよ。」
自慢げに鼻をならす、ヤンガスに話を聞くと、

なまえは勢いよく剣を片手で抜き、地面を蹴って跳ね上がったと思ったら、剣で切り裂いた+激しい回し蹴りをしたという訳らしい。

それを見れたヤンガスも十分凄いが
なまえ…きっとヤンガスより、いや魔物より危険だ。

「エイト…」

思わず、背筋が跳ねた。

「なに?」

そう答えるとフラフラしながら腕にしがみついてきた。

「…ん?大丈夫?」
なまえは、にへらっと笑った。

「あったか…い……」

それだけ言うと寝息をたてはじめた。
フニャフニャしてるなまえにちょっとだけ、ドキッとした。

何も知らない人からみたら一見、細くて白くてか弱そうな女の子なんだ。

整った顔立ちに明るい茶髪、赤らんだ頬。

一般的には美人の部類に入るはず

「…やっぱ、なまえも女なんだよね。………あんなに強いけど…」


「そうでがすね。」

「俺じゃなかったら、一度戦闘を見たら見方変わるかも知れないけど、あはは」

「あっしはいろんな意味でショックでがしたよ。」

「…………男じゃな…い」

エイトは思わず吹いた。

「はいはい、お姫様。貴女の眠りを妨げないように努めますよ。」

そう言ってヤンガスと笑った。

もうトラペッタに着く。


明日は水晶玉を渡しに行くのだ。

割られたって知らないけどね…。







****



日付も変わった真夜中に、トラペッタに到着した。そしてそのまま宿屋に向かい、就寝した。(僕はとっくに寝ていたが。)


そして、朝。

思ったよりも早く目が覚めた。
毎朝の事だが、寝癖が酷い。
長い髪の毛の人が、髪の手入れが大変なように、短い髪の毛の人にも、寝癖がつきやすいという悩みがある。

いくら櫛でとかしても、跳ねていようとする髪の毛に苛々した。

「……きめた、こうなりゃシャワーだ。」

僕は部屋のシャワールームに入った。

蛇口を捻ると、最初冷たい水がでてきて不快だったが、だんだんと温かくなったので、(冷たくなければ水は平気。)跳ねた髪の毛をお湯で流した。



そういえば昨日風呂に入らず寝たのか、と思い出し、体もついでに洗った。

シャワールームから出て来て、髪を乾かし、荷物をまとめた。(といっても荷物なんて武器と盾だけなんだけど。)

今日会いに行くルイネロさんのことを考えた。

きっと怒鳴られるだろう。

………怒鳴られるのは嫌いだ。

………………−−−あの日を思い出してしまうから。

なまえは、ギュッと拳を握った。

…あの時こんなに力があれば……

拳をさらににぎりしめ、歯を噛み締めた。




−−−−あの場所には帰りたくない。


『−−−−−アナタハイラナイコナノ』





……コンコン

「…エイトだけど、なまえ起きてる?」

「………あ、あぁ起きてる。」

いきなり現実に戻され、反応が遅れた。

「入るよ?」

うん、と返事をするとエイトが入って来た。

「今日のことなんだけど、すぐルイネロさんの家に……って、凄く顔色悪いよ?平気?」

僕はすぐに鏡で自分の顔を見た。
顔は唇が変色するほど青く、びっくりするくらい汗をかいていた。

「……うわぁーー」
酷い顔…、汗に関しては風呂に入った時間が無駄になったとも思った。


「…熱が…あるね」

エイトがおでこを僕のおでこにくっつけてきた。


………っ…近い。恥ずかしい…馬鹿、鈍感ヤロー!!




エイトの事だから、何も考えちゃいないんだろうけど、時々考えなしに優しいのは反則だと思う。
こんなに、僕は………。

「今日は休んで、俺とヤンガスと水晶玉渡しに行ってくるから。」

「…ありがとう。」

優しいのは嬉しいんだ。
でも、ミーティア姫の事がちらつく。

「うん、行ってくる」

「いってらっしゃい。」



わたしは彼らを見送ると再び眠気に襲われた。



−−−−おばあちゃん。






***








「呪われた子供が私の娘に近付かないで。」


ねぇねぇ…どうして?


「キャア!!!触られたわ!!私も呪われてしまうわ!!!」


ねぇねぇ…どうしてなの?


「話しただけで呪われるらしいわよ。」


ボクハドウシテ


「近寄らないで気持ち悪い。」


……キラワレテイルノ…?


ボク、ワルイコナノ?


喋るだけで、誰もが立ち退き。
触るだけで悲鳴をあげられた。

物心ついた時には、身も心も傷だらけだった。

『家』と呼ばれる場所に帰っても『ご飯』も『寝床』も『名前』も『服』もなかった。

それが当たり前だと思っていた。
殴られるのは嫌いだった。でも抵抗は出来なかった。

さらに悪く言われてしまうからだ。

でも、母親がいた。

母親はいつもヒステリックに何か叫んでた。

『何でこんな子が生まれたの!!!!!!』


ねぇ、僕は悪い子だからこんなに嫌われているの?


僕は皆と違う瞳の色をしていた。

金色がかった紫色だった。
生まれてしばらくは髪も瞳と同じような色をしていたらしい。
そして、背中に鎖のような痣があった。焦げたように茶色くくっきりと。今でも残っている

それを見て、大人達は口々に『呪われた子供』と言った。

母親のもとに帰るまえはずっと祖母が育ててくれて、二人で暮らしていた。

祖母だけは、僕の味方だった。
「おばあちゃんは、なまえを呪われてるなんて思わないよ。なまえは−−−の加護を受けて生まれて来たのよ、瞳の色はそのせいなのよ。」


『−−−』の部分は覚えていない。
聞き取れなかったのだ


そんな祖母は、魔物に襲われて亡くなった。


そこから、また言われ方はどんどん酷くなっていった。

「あの子のせいであの子の祖母は魔物に襲われたのよ。」


「私もきをつけなきゃ。」


ある日、私は母親に聞いた。

「どうして僕は呪われているの?」

そう聞いた瞬間。

形相が変わった。

僕の顔にビンタが飛んだと思ったら次は拳が飛んだ。
足で蹴られ、腕も背中も踏まれた。
立ち上がるのも困難に成る程の痛み。

「……おかあさん…?」

見上げた瞬間。

僕は目の前にいる人間を自分の母親かどうかわからなくなった。


『あんたさえいなければ、私は幸せだったのよ!!!!!!!!!』


『あなたはいらない子なの!!!!!!!!』


−−−−アナタハイラナイコナノ



僕は、逃げ出していた。
遠いところまで、

「……っ」

僕は泣いた。

思いきり泣いた。


一般的に見れば、どちらがいけないとか悪いとか判断は簡単だと思う。


小さい時は、母親だけは……。
そんな淡い期待をしていた。


どんなにヒステリックに何かを叫んでいても

心のどこかで私を思ってくれているはずだと、信じていた。


それは、残酷に打ち砕かれた。



その場所がどこにあったのかはもう、わからない。


痛みが残っている。


生きる意味なんてないと、思えた世界。








わたしが、人間でない世界。








****


「……オイッ………」

だれかがぼくをよんでる?

「…………オイッ…」


でも、ぼくはだれにもなまえなんて
よばれたことないよ


呪われている子供だから。


「………なまえ」


なまえ……だれだっけ

僕の…………

「……っ、起きろッ言ってんだろ!!!!」



………そうかぼくは…。


その声に現実に戻された。

強い声が僕の身体中に響いた。

「…ごめん、口悪くなった。」
エイトは顔を下に向けたまま言った。
悪いと思ってるときのエイトの癖。

「大丈夫だよ。ありがとう。」

いつも、僕の弱い時に声をかけてくれる。
だから、ありがとう。

「…なまえは、呪われてなんかいないよ。」

背筋がぎゅっと痛くなった。

(知ってたんだ…。)

「なまえは呪われてなんかない。呪われているのは、むしろ…俺」

「…え?」

どういうことだ?頭の中が一瞬でぐちゃぐちゃになった。

エイトが呪われている?

訳がわからない。

「な、なにそれ…?」

喉の奥からでてきた言葉。
掠れて聞こえづらかったかもしれない。

「俺はやっぱり何か、「やめてよ!!!」


気付いたら叫んでいた。



エイトは俯いた。


「……ごめん。僕…エイト……今は…ごめん。ごめん……!!」


僕は布団を被った。

エイトの顔が歪むのを見たくなかった。

「…ゆっくり休んで。明日には、隣の村、リーザス村に行くから。」


僕は返事をしなかった。ううん、出来なかった。


やめてと叫んだのは、エイトを傷つけたかもしれないという後悔が押し寄せてきて

泣いている声を隠すのにいっぱいいっぱいだった。


ごめん…エイト


自分の事ばっかで。


扉が閉まる音がした。


「……ごめん…ごめんね」


久しぶりに泣いた。

僕は泣いた。

……でも泣きたいのはきっとエイトだろ…

僕は、涙を拭いて


武器を背負って宿屋から出た。


赤い目からは涙がまた一滴落ちたが、僕はそれを拭いた。



涙はあの日だけで十分だ。











prevnext





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -