盃を交わす

第2の課題まであと1日と迫った日。

私は一つ頭を悩ませていた。
高度な変身術は、6年生で習うものであり、本来ならばたかだか4年の中盤に差し掛かった程度の私が使えるものでは無い。
如何にして皆の目を誤魔化そうかという問題だったのだが、簡単に出来るものではないと言えば、第1の課題で披露した失神術も同じだ。大人が数人掛かりで抑えるドラゴンを一人でのした。
全ては"ダンブルドア"の名で納得されるのだから問題では無いかもしれない。

「こんなところで何をしている?」
「!…ム、ムーディ先生」
「ダンブルドアか。明日の予習か?」
「まあ、そんなところです。ここ、まずかったですか?」
「いや構わん。ところで、次は高度な変身術でも使う気か?」
「あ、はい。まあ」

あの魔法の目で見据えられると、血の気が引くような変な感覚に襲われる。
いつもは誰も入ってこないし、この隠し教室を知っている人物も極少数…いや、いないかもしれない。
そんな所にムーディ…否、クラウチと二人でいるとは。

「わしが怖いか?」
「え?」
「それか、珍しいか」
「いえ…すいません、じろじろと見てしまって」

そのまま、ムーディは空き教室から出て行った。
最近なんとも言えない視線を感じているのだが…ムーディが私を監視しているのだろうか?
ゴブレットをハリーと私の名前が選ばれるように細工し、ヴォルデモートの元へ送られるように?
ヴォルデモートは私の存在に気付いていて、再び取り込むチャンスを探しているのだろうか。もしそうだとしたら、私にとっては好都合、か?

リドルはあの時私に何を伝えたかったのか。

『全ては、君が知っているんだよ』

私が知っている事とは?無くした記憶がまだあるのだろうか。
無意識にポケットへ差し入れた手に何かが当たった。

「これ、は」

手に収まっていたのは、あの日記だった。
ムーディの部屋に行った時渡されたもの。彼はあの時、確実に私に渡そうとして持っていたのだろう。
この日記を図書室に忍ばせたのは、ムーディ?これを私に読ませる必要があったのか。

その時だった。
足の裏だけ地面にぴたりと引っ付き、体全体が上に引っ張られるような感覚に陥った。
息が、出来ない。力が抜けて行くような脱力感に襲われた。

「段々近付いているようだな」
「!」
「何を驚く?」
「え、ど、どうして?」
「どうして?お前の力が本物に近付いて来ているからだろう」

空気がやっと体に入り、咳き込みながら声の主をしっかりと確認するが、目の前に起こっている現実を簡単に理解する事が出来ない。

「お前は傀儡、入れ物を作る力がある。これは無意識か?」
「私が、作った?」
「そうだ」
「でも、リドルの魂は!」
「魂?それもお前の中にある。俺と話したあの空間はお前の心の中だ。理解していなかったのか?」

今まさに、私の目の前にリドルがいる。

「マグルに感化されたのか?頭が悪いな」
「し、失礼な!いつもはっきり答えてくれなかったのはそっちじゃない!」
「それはお前自身が答えを望まなかったからだろう。何度も言うが、あそこはお前の精神世界だ。受け入れるだけ答えは見付かったはず」
「え…ええ?」

先程の何かに引っ張られる感覚は、私の中からリドルの魂と、肉体を作るための魔力が抜けたものだったのか?所謂MP消費的なあれか。益々、自分が理解出来なくなってきた。

「何で私の中にリドルがいるの」
「俺がお前の魂に刻んだからだ。血の盃を交わしている。俺がお前であり、お前が俺である理由だ」
「は?何それ、普通の人ではないって事?」
「当たり前だろう?お前、自分が何者かわかっていないのか?」
「わかってないわよ。今まさに探している内容だもの」

はあ、と大きな溜め息を吐かれた。
何だろうこの私の知識として記憶しているリドルでは無い、非常にフランクなリドルは。

「血の盃って何?」
「離れても互いの魂が引き寄せ合う一種の呪いだ」
「いつの間にそんな、」

一瞬目眩がしたかと思ったが、足はしっかりしている。目の前に立つリドルがノイズの様にぶれたのだ。

「所詮記憶の魂などこんなものか。どうだ?答えは見付かったか。ここは心の中では無いからな、お前の否定に干渉される事も無い」
「急激に与えられた情報に頭が処理しきれて無い。私の使命って、力って何?傀儡を作れるから何なの!?」
「お前自身、自分は何なのか知らないといけないようだな。まずは受け入れろ」
「待って、一からちゃんと、」
「時間だ、実体化する事で魂が削られた。何度も言うが、答えはお前の中にある。見極めろ」
「リドル!」

目の前が真っ白になった。
正確には、眩い光が放たれ目が眩んだのだろう。視界に色彩が戻ってきた時には、もうリドルは居なかった。

記憶の魂…それは誰の記憶なのだろう。
私の魂に刻まれたリドル。彼は私を見ていただろうか?

「っ―――」

頭が痛む。
日に日に増える、自分自身の謎。その謎を解決する為に、私はヴォルデモートに向き合おうとしている。

このままだと、疲労に負けこのまま寝てしまいそうだと思い教室を出た。

「コウキ?」
「あれ、ハーマイオニーとロンだけ?ハリーは?」
「マクゴナガル先生に呼び出されたのよ。私とロンが」
「ハリー、まだ方法を見つけてないんだ」
「あ…そっか。じゃあ私ハリーの所に行ってくるよ」
「よろしくね、コウキ」

二人はこれから魔法をかけられ水中人の元へと連れて行かれるのか。結局私の助け出す人は誰なのだろう。

「ハリー、大丈夫?」
「全然駄目なんだ。見付からない」
「そうね…どんな本を読んだらいいかな」

鰓昆布の載っている本はなんだったか。
特殊な不可抗力とは言え、私だけ課題を盗み見し、ハリーには何もヒントを与えないと言うのも嫌な話だ。

「意外性を求めて違う欄を見て来るね」
「わかった」

鰓昆布だから、植物の本だったはずだ。
昔セブルスに教えてもらった事がある気が、

「いっ!?」
「コウキ!?」
「いたた…」
「どうしたの?大丈夫?」

思いもよらぬ障害物に脛を強打した。
本が本棚から飛び出ているなど、この整理整頓された図書館では通常あまり考えられない事だ。
この空間に不釣合いな、一番下の本棚から顔を覗かせている本を手に取り、パラパラとページを捲る。

「あった、あったよハリー」
「え?」
「鰓昆布。これを食べれば、鰓とかが生えてきて水中を自由に泳いだり、もちろん呼吸だって出来るの」
「本当!?それ、どこにあるの!?」
「禁じられた森の中の池に生えてる」
「禁じられた森…取りに行ってくる!」
「あ、待ってハリー!今行くと消灯時間に間に合わないわ」
「じゃあ…夜中に抜け出す方がいいかな?」
「うん。作戦を練ろう」

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