三匹の獣

「セブルス・スネイプ君」
「…何だ」
「鰓昆布はお好きかな?」
「好きな奴などいるのか」
「欲しい人ならここにいるけどね」
「そう容易く手に入ると思うな」
「えっと…身売りすればいい?」
「もう一度死にたいか?」

ばこんと大きな音を立て、分厚い教科書で頭を殴られた。女の子に手をあげるなんて何て最低な奴だ!
禁じられた森の小さな池に生えているけれど、出来れば寒く怖い思いをして禁じられた森に行くより、セブルスの研究室から拝借できる方が気楽だ。

「ケチ」
「誰に物を言っている」
「敬愛なるスネイプ教授に…いや、待って。生徒に魔法は駄目だって。そうほいほい杖を翳すのはよくないよ」
「生徒だと?ならばこんな時間にベッドから抜け出し騒ぎを起こしたお前は減点されなければならんな?」
「わかった、わかったからその杖をしまって下さい」

次の満月は5日後だ。その時にリーマスと禁じられた森に行ってあるかどうかを確認しよう。
直前になってもハリーが水中で息をする方法を見つける事が出来なかったら、それとなくその鰓昆布を一緒に採りに行けばいい。

その後、文句と嫌味を散々言いながらセブルスがグリフィンドール寮の入り口まで送り届けてくれた。

「コウキ!無事でよかった!」
「あんまり無事じゃないけどね…ハリーも、何もなかった?」
「大丈夫だよ。本当にごめん、僕の所為で…」
「ううん、私の注意も足りてなかったから。ま、楽しい思い出として残しておこう」

次の日から、ハリー達は図書館に入り浸りになり、私は変身を失敗しないように練習を重ねていた。

「君は変身術が使えていいな…」
「変身術と言えるかわからないけど。元の姿に戻るのを応用してるの」
「その力は何なの?」
「うーんなんだろう?ヴォルデモートの力だとは思っていたんだけど、それも違うような気がして」
「どうして?」
「多少はヴォルデモートの力も残っているけど、今の私は魂化した時の力で作っているじゃない?」
「コウキにも魔力で肉体を作る力があるって事?そんな魔法、聞いた事は無いけれど…」
「元々持っていた素質、とか?ヴォルデモートだって簡単に傀儡を作れる訳じゃ無いだろ?」
「まあその辺はいずれわかるんじゃないかな」

今の私は完全にヴォルデモートから独立したと思っていたが、奴がハリーを殺す計画を立てている夢を見た。そしてついこの間はリドルが出てきた。これはきっと、奴との繋がりが切れていない事を現しているのだろう。

姿形を変えても、切れる事の無い物。血の結束によって結ばれているのだろうか?
それは、以前私の身体を作った時の物?それとも、スリザリンの…血塗られた歴史に関わる物、なのだろうか。

「コウキ?」
「あ、ごめん何だっけ?」
「どうしたの、すごく怖い顔で固まってたわよ?」
「ああいや、何でもないよ」
「そう?」
「ねえ、コウキは何に変身するんだい?」
「えーとね…いや、やっぱり当日のお楽しみ」
「えー!」
「大したものじゃないよ。杖を持てる手があって、あまり変身に負担がかからないものの予定」
「なんだいそれ…?」

その日の夜、リーマスには禁じられた森に居てもらった。今日は雲一つ無い満月の夜。

他校が城外にいるから、カルカロフや生徒達に私の姿を見られては困る。城の入口付近で身を潜め、狼に変身してから森へと向かった。
因みに私が狼の姿をしていると、リーマスが人狼化していても会話が出来る。非常に便利。

「今日ハリー達と私の力について話したの。どうして自由に体を変えられるようになったのかって」
「ヴォルデモートは傀儡を作る方法を知り、君の身体を作った。君がこの世界に帰って来た時は、その方法に則った物では無さそうなんだね?」
「うん。私はただ帰りたい、帰るための身体が欲しいってがむしゃらに願っただけだから」
「ならば、元々君が持つ特殊能力と考えるのが妥当な気がするけれどね…君という魂が入る為の箱を自由に作る事が出来る、みたいな」
「私が魔法を知らずに生きていた間には気付かなかっただけで、ヴォルデモートに切っ掛けを与えられたのかな」

―――思い出せ。お前の魂に与えられた使命、本当の力を。
確かにヴォルデモートはそう言った。私には与えられた使命があり、私の知らない力がある。

「考えてもきっと答えは簡単には見つからないだろうね」
「そうなんだよね」

やはり、ヴォルデモートに直接聞くしかない。
どう考えても、結局はこの答えに行き着いてしまうのだ。

人狼の存在を感じ取っているのか、禁じられた森はいつもより殺気立っていて、静かだ。
誰も出てこようとはしない。

「鰓昆布があるのはあそこじゃないか?」
「あ、本当だ!」

月明かりに照らされた小さな池があった。
近付くと、灰緑色のぬるぬるとした鰓昆布を確認出来る。必要になればここに来よう。

「ねえコウキ。こうは考えられないかい?」
「なあに?」
「君は元々魔女の、しかも素晴らしい素質があった。にも関わらず魔法の世界には生まれ落ちなかったんだ。もしかしたら…ヴォルデモートは偶然見つけたのでは無く、君の魂を探していたのかもしれない」
「え…?」
「どこかで語り継がれていた力。自らの身体を作り、自在に変化させられる力。だけどそれは先天的な力であり、その能力者を取り込む事でしか得られない物だとしたら?」
「私が、ヴォルデモートに呼ばれた、理由…?」
「ただ…それだけなら奴自身の力で補完出来そうな気がするんだ。まあ、あくまでも私の想像だから、深く考えないで」

私の中で浮かんでいる一つの仮説。きっとリーマスの中でもそれは選択肢になっているのだろう。
ただそれを肯定してしまうと、あまりにも辛く重たい使命を背負う事になる。
無責任ではあるが、だから口には出せないのだ。

「ねえ、リーマスとハリー達、アルバスや大人組以外で、私の特別大切な人って誰だろう」
「どうしてだい?」
「第2の課題、一番失いたくないものなの。私は、リーマスを失いたくない。でも大っぴらにはしないだろうし。なら、他に誰を使うっていうのかなって」
「有力なのはマクゴナガル先生じゃないかな?色んな辻褄が合う」
「確かにそうだね。でもアルバスの事だから、とんでも無い事やりそうで…」
「楽しみだね」
「…う、うん」

静かな森を見渡し、大きく息を吸った。
ジェームズ達とリーマスは、満月の度にこうして一緒に過ごしたのだ。危険な事だとわかっていてもやってしまう辺りがこの人達だよね。

大丈夫だよジェームズ。
今私はリーマスの傍にいるから。
心配しないでリリー。
ハリーの事、必ず私が守るから。

「お?…リーマスとコウキか?」
「ん?もしかしてシリウス?」
「やあ、久し振りだね」
「今日は満月だから、リーマスがこの辺にいるかと思ってよ。何だ、お前が一緒にいるなら無駄足だったか?」
「そんな事無いよ、たまには三人でいるのもいいじゃない」
「そうだよ。ありがとうシリウス」
「いいや、昨日…あの頃の夢を見てな。懐かしくなってきやがった」

人狼と狼と大きな黒犬。
並んで芝生に寝転がり、月を見上げる。
楽しそうに会話をしている姿は、端から見れば奇妙な光景だろう。

人狼に鹿に犬に鼠。
それも変な組み合わせだよね、ジェームズ。

もう一度貴方達に会えるのなら、私は何でもしたいのに。
いくら肉体を作ろうとも、貴方達の魂は戻ってこない。

死んだのでも、生き返ったのではない。
私は有るべき姿に戻り、再び許されざる姿に戻ったのだ。

私の、使命は何?

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