むかえうつ!
「ハリー、監督生の浴室へ行くんでしょ?」
「わ、コウキ!」
リーマスの部屋から談話室へ帰ると、ホグズミード
のお土産を抱えた三人が出迎えてくれた。
消灯時間を迎える前に別れたのだが、夜中寮を抜け出すハリーに着いて行こうと、こっそり談話室で待ち伏せていたのだ。
「ど、どうしてわかったの?」
「私に隠し事が出来るとでもお思いで?」
「確かに、コウキには逆らえないな」
「私も一緒に行っていい?」
「え!だってお風呂だよ?」
「や、私は入らないから安心して」
いつもの手順で寮を抜け出した私達は、透明マントを被りボケのボリスの像がある場所へと向かった。
ハリーは金の卵を持ってドアの中へ、私は透明マントを被り廊下でハリーを待った。
やはり夜中の校内を探検するのは楽しい。
怖くないのかと聞かれれば即答出来る程怖いが、好奇心とは何よりも強い感情だ。残念ながらそれには抵抗出来ない。
「コウキ?」
「あ、おかえり」
ハリーが、透明マントを被っている私を探るように小声で囁いた。
すぐにマントを捲り招き入れる。
「コウキ、見て!おかしいんだ。スネイプの部屋にクラウチさんがいるんだ!」
「え?クラウチ?」
忍びの地図を大きく開いて、ハリーはセブルスの部屋を指差す。
確かに、そこには部屋をうろうろとするクラウチ氏の名前があった。
「行って見ない?」
「そう―――だね」
「よし、行こう!」
こういう時のハリーの目はきらきらと輝き、ジェームズにそっくりだ。
タペストリーをくぐり、近道をしながらゆっくりとセブルスの部屋に向かう。
「ねえ、でも…あのクラウチさんがこんな時間に、こんなところにいるの、おかし―――っ!」
「ハリー!」
ハリーと私は地図に夢中になり、あの階段の事をすっかり忘れていた。
上手い具合にハリーとマントは階段にすっぽり填まり、マントに引っ張られた私は足を踏み外し、何段か下に体を打った。
痛みに唸る間も無く頭に固いものがぶつかり目が火花を散らす。
ガンガンと音を鳴らしながら段を落ちていくそれは―――卵だった。
衝撃で蓋が開いてしまう。それを防ぐ為に、私は階段から飛び降りた。
私より瞬き何回分か早く床に落ちた卵は、私に鷲掴みにされるまでの一瞬、あのキンキン声を上げた。
「っ…しっかりマントを被って!絶対に声をあげないで!」
「でも、コウキは!」
「誰だ!」
「っ…!」
壁一枚向こうでフィルチの声が響き、咄嗟に姿を変えた。
生徒の姿のまま、フィルチに見付かっては不都合だ。
「誰だ?」
「あ―――えーと」
「不審者め!何をしている!」
必死に言い訳を考える。卵を体の後ろに隠し、動かない足を庇いながら床に座り込んだ。
「その…アルバス―――ダンブルドアの知り合いで…」
「なんだと!?」
ああもう、こういう時に限って何も浮かばない。
誰か―――リーマスとか、セブルスとか来い!
「フィルチ―――?何をしている?」
「スネイプ教授!不審者です!」
「不審者だと?―――お前は」
「セ、セブルス!ああ、会いたかった!ええと、久しぶりのホグワーツを探検していたら、あの階段に足を取られて、落ちちゃって…はは」
「…」
酷い形相で私を見下ろすセブルス。
本当に現れた事は有り難いが、怖い。
随所の痛みに脂汗が出ているが、同時に恐怖からの冷や汗も出ている気がする。
「知り合いで?」
「…ああ。ダンブルドアの客人だ。ここは我輩が処理しよう」
「はあ」
その時、コツ、コツと床を鳴らすあの足音が聞こえた。
「何をしているんだ?」
「どこぞの大馬鹿者が一人で騒ぎを起こしただけの事だ」
「馬鹿って!…馬鹿だけど」
「誰だ?」
「ダンブルドアの客人だ」
「ほう」
「あの…お騒がせしてすいませんでした…」
ムーディを盗み見ると、階段の上―――ハリーのいる方へあの目が向いていた。
そうだ…私はどうにか言い逃れ出来たとしても、ハリーの事がムーディにばれてしまったらどう言えばいい?
「お前に用がある」
「え?」
「我輩の研究室へ来い」
「え、ちょっと、待ってよ!」
セブルスはローブを翻して暗闇の中へ消えた。これは激怒間違いない。
セブルスと共にフィルチも消え、この場に残ったのはムーディとハリー。
「そして?貴方はハリー・ポッターとも知り合いなのか?」
「あー…はい。一応」
「そうか」
気まずい沈黙が流れる。
足の痛みが少し収まり、ハリーを助けようと騙し階段の填まっていそうな当たりを探った。
「えーと、ハリー?」
「こ、ここ―――です…」
「大丈夫?」
ぐいとハリーを引き上げ、そっと「どうにか言い逃れよう」と囁いた。
「どうしてこうなった?」
「少し前にハリーと知り合って、今日は偶然会ったんです」
「僕、卵のヒントを解こうとしてて、それで、廊下を歩いているコウキさんを見つけて、一緒に話をしてて―――」
とにかくこれで言い逃れるしかない。
「夜の散歩ほど頭の冴える事は無いからな、ポッター。ところで、どこかでお会いした事があったかな?」
「え?いえ、無いと思いますが…」
「そうか。その名前には色々と縁があってな。人違いなら悪かった」
「いえ…」
「それと、ポッター。これはお前のか?」
「あ」
ムーディが階段の下で手にしていたのは、忍びの地図だった。あんな所に落ちていたのか。
「これは?」
「ホグワーツの…地図、です」
「ほう…お前は、これで何か見たか?」
「え?」
首を傾げたハリーと目が合った。
何かとは、きっとセブルスの部屋にいたクラウチ氏の名前の事だ。
「あの…クラウチさんを―――スネイプ先生の研究室にいるのを」
「クラウチ?それは―――ふ、面白い、面白いぞ!」
「先生…?」
「ハリー、この地図を少し借りてもいいか?」
「え、ええ、いいですよ」
「いい子だ。さあ、塔に戻るぞポッター」
「あ、コウキ―――さん」
「私はセブルスの所に行かなくちゃいけないから。またね、ハリー」
そう言って、ムーディとハリーは階段を上っていった。
私は逆方向、セブルスの研究室へと向かった。
「セ、セブルス…?」
「何をやっているんだ貴様は!」
「すみませんでした」
部屋に入るなり相変わらずの形相で怒鳴られた。
思わず手を上げ降参のポーズを取る。
「こんな時間に何をしていた!しかも、そんな姿で!」
「えーと―――ピーブスに卵を盗まれて…ハリーが抜け出したら危ないし、いや、私も危ないけど…」
「それで?その姿なら言い逃れできると?」
「う、うん…」
「馬鹿者!そう易々とその姿を現していいと思っているのか?ここには今、ヴォルデモートと繋がりのある奴がいるかもしれないのだろう!」
「ご、ごめんなさい…」
「あれ以上騒ぎにならなかったからよかったものの、もしあの場に我輩が居なかったらどうなっていたかわかるか!」
「うん…ありがとう…」
私の珍しく反省した態度に怒りが収まってきたのか、はたまた呆れただけか。
溜め息を吐いたセブルスがソファに座るよう促した。
「…足を見せろ」
「え?」
無理矢理ソファに沈められ、奥から怪しい色のビンを取り出すセブルス。
訝しげな表情で動向を見ていると、私のズボンの裾を捲り、再び溜め息を吐かれた。
「うわ、凄い血」
「遂に頭も沸いたか?またこんな事をしてみろ、ホグワーツから追放するぞ!」
「ありがとうセブルス。やっぱり優しいね?」
「煩い!」
「ぎゃーっ!」
傷口に思いきり薬を塗りつけられ、電流が身体を走ったかのような感覚に悶絶する。
「セ…セブルスの…ばかー!」
「貴様に言われたくなど無い」
―――その名前には縁があってな。
それは、どの『コウキ』を示している?
クラウチJr.は昔の私を知らないはずだ。
私はいつか、今日の行動を後悔するのだろうか。
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