てのひらのうえ

楽しいクリスマス休暇も終え、新学期が始まってしまった。心無しか皆の表情も重い。

「ハリー、ホグズミードに行くの?」
「う、うん」
「卵の事、真剣に取り組むチャンスなのよ?」
「僕―――もう結構わかってるから、大丈夫」
「すごいわハリー!」
「私、まだ課題についてやりたい事があるから残るね。お土産よろしく!」
「そうなの?わかったわ」
「じゃあ、また後で」

ちり、と目の奥が傷んだ。
目蓋を閉じると浮かぶ情景。
私に杖を向け、不敵な笑みを見せる、ムーディ。

これからどうしようかと唸る。
絶対に、このチャンスを物にしなければならない。

今はムーディ―――クラウチ・ジュニアの近辺を探ろう。今彼はヴォルデモートと接触出来ていないはずだ。多少の無茶も何とかなるだろう。

どうしたら最悪の結果にならずに済む?
ハリーとヴォルデモートは切っても切れる事は無い。必ずどこかで出会う。二人の間にいずれ訪れる戦いは避けられない。

ハリーはまだ出会うべきではないのか?それとも、これ以上この世界を歪める事のないように、しなくてはいけないのか。
誰にも言わずして、この世界を変える事無く、誰の死も招くこと無く。そんなヒーローのような事を、私は出来るのだろうか?

「ふう」

何時の間にか、窓から見える景色は薄暗くなっていた。


「コウキ?」
「!」
「やっぱり。ごめんね、邪魔したかな?」
「―――セドリック」

にこりと笑って向かい側の席に座ったのは、セドリックだった。

「第2の課題について、かい?」
「あ、ええ。そんなところ。セドリックは?」
「宿題の事で調べ物さ。調子はどう?」
「うん、まあまあって所かな」
「そう―――「セドリック」―――チョウ」
「あ、初めまして?」
「初めまして、コウキ?遅くなったけれど、第1の課題クリアおめでとう」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、僕は失礼するよ。頑張ってね」

もう私が変えてしまった世界だ。
真っ直ぐ、自分の思う通りに進むしか無い。それがどんな道であっても。
だからせめて、彼がこの先幸せに生きていてくれたらいい。

二人を見送った私は、既に落書き帳と化していた羊皮紙を丸め、図書館を出た。向かう先はただ一つ。

「こんにちは、ムーディ先生」
「珍しい客人だな」
「先生の部屋には面白いものが沢山あるって聞いて。入ってもいいですか?」
「課題のヒントは無いぞ?」
「あは、そんなつもりじゃないですよ」
「下手に触るんじゃないぞ。危ないからな」

そういえば、今更だがムーディ先生用の部屋が作られてたんだな。本では、リーマスの部屋をムーディの部屋にしていたけれど。

この部屋もまた、何というか…不気味?
リーマスの部屋にも不思議な生物がうようよいるけれど、薄暗いこの部屋はお化け屋敷の様であまり長居はしたくない。
辺りを見回すと、見覚えのある宝箱のようなトランクが目に入った。
―――この中に。

「目の付け所がいいみたいだな?」
「え?…えーと、これは?」
「見たままだ。だが、少し面白い」
「そうなんですか…」

下手に自分から突っ込むと、墓穴を掘りそうだ。
このトランクの中にいる―――本物のムーディ先生を見過ごそうとしている私は、勇敢なグリフィンドールなどでは無いだろう。
ただひたすら心の中で謝罪を繰り返す。どうする事も出来ない。今目の前に立っている偽のムーディにこの目がついている限り、私は下手に動く事も出来ない。

「そういえば、ダンブルドア」
「はい?」
「日記を落したか?」
「え…?」
「ずいぶんと前だが、廊下で日記を拾ってな。今思い出したんだが」
「どんな、日記ですか?」
「ボロボロで、中々面白い事が書いてある―――これだ」

机の引出しから出てきたそれは、紛れも無いあのスリザリン家の日記だった。まさか、ムーディに拾われていたとは。

「ええと…」
「都合がよいものではなさそうだな?必要なんだろう」
「え、いいんですか?」
「わしには必要ない」

あっさりと返され、逆に不信感を呼ぶ。
私は今、何をしようとしている?確かめようと?本物かどうか?
まず私はムーディの所へ行こうと思った。それはヴォルデモートの存在を確認するため?

混乱してきた。私はどうしたらいい。
ムーディは、ヴォルデモートは、私の存在に、私の正体に気付いているのか?

「何を考えている?」
「え…?」
「何をそんなに抱えている?気になる事でもあるのか」
「い、いえ…別に…」

顔に出ていたのか、ムーディのあの目もまっすぐに私を見据えている。心を見透かすように。

一歩ずつ、私に向かって足が出され、思わず後ずさる。ムーディがフッと軽く鼻で笑い、くるりと振り向き奥の部屋へと消えた。

今日は、この日記が戻ってきただけでも十分な収穫かもしれない。

「っ…」

再び視界がぐるりと揺らいだ。
こんな敵の手中で倒れる訳にはいかない。力の入らない膝を叱咤し、ムーディの部屋を後にした。

ここから一番近くて、安心できる場所へ―――

「コウキ!」

壁伝いでずるずると床に落ちて行くのを感じた。
声の方へ振り向く前に、視界は闇へと落ちた。

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