わたしとワルツを

「うわあ、雪が沢山積もってる!」
「本当、素敵なクリスマスになるわね」
「雪合戦…」
「え?」
「やらないの?」
「私はいいわ」
「ちえ…ハリーとロンならやるかな」

準備をして談話室に下りて行くと、既にハリー達が待ち構えていた。

「メリークリスマス!」

いつもより賑やかなクリスマス。
皆自分宛に届いたプレゼントを開け楽しんでいる。
それは私も例外では無く、沢山届いたプレゼントを一つ一つ確認しながら開けていく。その中で一番驚いたのは、リーマスからのプレゼントだった。
小振りの箱から出てきたのは、私がプレゼントした懐中時計の一回り小さい女性物だったのだ。色々な物を通り越し、感極まりで涙が出そうだ。

「あれ、何か降ってきた」
「手紙?」
「アルバスかな。だから教員用の連絡手段を私に使うなと言って―――」

私の目の前をヒラヒラ舞い落ちてきたのは羊皮紙の切れ端だった。
走り書きされたようでいて神経質な字が目に入る。

「誰から?」
「セブルスから呼び出しだ」
「え」
「『我輩の自室へ セブルス・スネイプ』うわあ…私何かしたかな…心当たりしかない」
「あら、プレゼントの事じゃないかしら?」
「え?ああ、プレゼントね」
「ほら、はやく行かないと怒られちゃうかもよ?」

昨夜、皆宛のプレゼントを整理している途中にハーマイオニーと話をしていたのだ。
"ダンブルドア"の私は可愛らしく"スネイプ先生"宛てにプレゼントを送っていた物だが、今年はまた違った趣向になる。
寧ろお前に何かを恵まれたくないな、とか言って突き返される恐れすらある。怖い。

「地下室寒っ…」

スリザリン生はこれでよく風邪をひかないでいられるものだ。
大きな扉をノックすると、耳障りな音を鳴らしながら勝手に開いた。

「お邪魔しますよ、お呼びで?」
「気を使わせたようで、悪かったな」
「へ?あ、プレゼント?」
「ああ」
「メリークリスマス!」

ソファに我が物顔でどっかりと座ると、奥からちゃかちゃと音を鳴らしティーセットが出てきた。

「我輩からだ」
「え!ありがとう!」

手渡されたそれはずっしりと重い。四角い包みは、重厚な本を何冊か重ねたような物だった。

「開けても?」
「構わない」
「あ、これ魔法薬学の本?」
「お前は根本から理解しなければならないタイプだからな。それなら解りやすい」
「おお、凄い詳しく書いてある!ありがとうセブルス!」

今も昔も、魔法薬学を教えてくれているのはセブルスだ。私の癖も知っている彼が選んでくれた物に間違いは無いだろう。
いつもこうだったら、嫌味な人ってだけで終わるのに全く損な人だ。

「ねえ、レギュラスって、どうなったの」
「闇の陣営に入り、脱却しようとした所を捕まり殺されたと聞いたが」
「…やっぱり、陣営入りしちゃったんだ」
「奴の酔狂ぶりは異常だった。ブラック家としては敷かれたレールに則った方では無いのかね」
「どうだろ。セブルスとシリウスを足して二で割ったような子だったよ」
「…不快以外の何物でも無いのだが」

脱却しようとしたのなら、やはりレギュラスはヴォルデモートと相容れない物があったのだ。あの時の私は、彼がそうなる事を知った上で止めようとしていた。
レギュラスは、何を思ってその命を散らせたのだろう。

「イベントがあると、毎度昔を思い出しちゃうんだよね。前はこうだったなとか」
「このご時世、思い出すのは良い事ばかりでは無かろう。過ぎ去った物は教訓にする他無い」
「そうだね、今出来る事をやらなきゃね」

後悔に襲われ、過去に囚われていたのはセブルスだろうか。互いに言い聞かせるように響いた言葉が胸を打つ。

「そう言えば、この私が昔の記憶を取り戻すまで、私の事どう思ってたの?」
「似ているとは思っていたが」
「やっぱりそうなんだ。可愛がってくれてたしね」
「ダンブルドアもあの年で子育てなど無茶をする」
「あれ、じゃあセブルスが私の事あやしたりしてたんだよね?うわ面白いね写真探そ」
「止めろ!」

そんな風に過去を振り返った事など無かった。これでは過去に縛られ身動き出来なくなってしまって当然だ。
失ってしまった物は還らない。ならば彼等が残した意思を引き継ぎ、導くのが遺された者の役目。
セブルスはそうやって己を奮い起たせ、今を生きているのだ。
まだ幼子の私を抱いた時、セブルスは私を思い出してくれただろうか。消えた私の遺した物だと気付き、大切にしてくれたのだろうか。

「やばい見てこれお腹痛い!セ、セブルスが!子育てしてる!」
「セブルスも本当に報われない人だ」

地下牢から出て直ぐに校長室へ行き、アルバムを抱えてリーマスの部屋へ直行した。
しんみりとセブルスの思い遣りに心を暖めていた自分は何処へやら、今はリーマスの部屋で転げ回っている。セブルスごめん、愛してるよ、本当に。

「あ、あは、笑い過ぎて、お腹痛い、」
「必死な形相で来るから、一体何があったのかと思ったよ」
「必死にもなるよこれは。あ、これ複製して飾ろう」
「今回ばかりはセブルスに同情するよ」
「ねえ、一緒に写真撮ろう。懐中時計の蓋に入れるやつ」
「そうだね。カメラを準備して置くよ」

二人でゆっくり過ごすクリスマスは、卒業してからのお楽しみだ。
一緒に死んでくれ等と物騒な物言いはしたが、平和な世界を作り、リーマスとゆっくり歩んでいきたい。今この時を楽しむ、その心持ちを私はいつの間にか忘れてしまっていたようだ。

昼食は言うまでもなく豪華。これから控えているダンスパーティの事を考えると、あまり調子に乗って食べられない事だけが残念である。
その後はハリー達の雪合戦を観戦しながら、ハーマイオニーとマグル式雪だるまを作り時間を潰した。

「よし、やりますか!」
「よろしく、コウキ」

ドレスに着替え、ハーマイオニーをメイクアップして行く。今や私も西洋寄りの顔ではあるが、やはりこの堀の深い美しい造型にはうっとりするものがある。
着飾った姿はその身一つだけで絵になるだろう。

「さ、行こうか?」
「ええ」

準備が終わり寮を出る頃には、談話室にはもうあまり人はいなかった。
ハリーとの待ち合わせは大広間へと繋がる玄関ホールの階段下。柄では無いが、緊張する。

「私、変じゃないかな…」
「何言ってるのよコウキ、貴女が一番綺麗だわ。自信を持って」
「いやそんな…こんな煌びやかな格好した事無いから…ハリーに笑われないかな」
「きっとハリーも魅入っちゃうわ。コウキったら、本当にハリーの恋人みたいね」
「完全に犯罪なんですが、それは」

待ち合わせ場所までの距離が凄く長く感じた。
レディとしてのたしなみよ、とマクゴナガル先生に教えを頂く事はあったが、元の性格が影響したのか、あまり女らしくないと言うか、大雑把と言うか、ヒールのある靴も慣れないし、とにかく晴れ舞台と言うものに弱い。

「あ、いたわよ」
「え!ど、どうしよう」
「落ち着いてコウキ…ハリー、こっちよ!」
「ハーマイオニー?コウキ?」
「そうよ」
「凄く綺麗だ、驚いたよ!」
「ハリーも素敵だよ」
「じゃあハリー、コウキの事よろしくね」

素敵な笑みを残し、ハーマイオニーは大広間へと向かって行った。ロンは、ハリーの後ろで呆気に取られたまま声にならない声を吐き、ハーマイオニーの後ろ姿を見ている。

「ラベンダーは?」
「多分、もうくると思うけど…あ、来た」

ラベンダーは未だ放心状態のロンを引っ張り大広間へと向かった。

「代表選手はこちらへ!」

マクゴナガル先生の声が響き、人混みの中からいつもとは違う姿の先生が現れた。
代表選手は、他の生徒が全員入場するまでに入り口で待機するようだ。
私の隣に立ったマクゴナガル先生がそっと耳打ちをする。

「綺麗ですよ。早くダンブルドアやルーピン先生に見せてあげないと」

今日は沢山の人のお陰で今の私があると実感する日だ。マクゴナガル先生にお礼を言い、ハリーと共に入り口に待機した。
生徒の入場が終わり、代表選手一同はマクゴナガル先生の誘導付きで大広間の職員席の前まで向かう。
ダンス・パーティの始まりだ。

職員席を見ると、先生全員がいつもとは違うパーティー用の服装になっている。
私達は審査員や他の先生方と同じテーブルで夕食を取るようで、ハリーがリーマスの横の席に誘導してくれた。

「こういうの、緊張して駄目。私」
「君にも苦手なものはあるんだね」
「そりゃあ勿論…」
「―――コウキ、綺麗だよ」

急に音量を落して囁かれた。
一気に顔が真っ赤になるのを感じ俯く。緩みそうになる口元を隠すのに必死だ。
二人きりの時に言ってくれればいいのに、わざとこういう事をするのは本当に変わってない。

「ハリーに渡すのが、少し悔しいな」
「代表のダンスが、」
「待った。お誘いは私からさせてくれ、コウキ」

リーマスのウインクを受け、今完全に私の脳内はショートした。これが漫画やアニメなら、頭の上から煙が出ている事だろう。

「さあ、時間じゃ!」

アルバスがそう言うと、テーブルが消え、真ん中に広いスペースが出来た。
正面にはステージが出来あがり、楽器と共に『妖女シスターズ』が出て来る。一面銀世界とも言えるような、美しく飾られた大広間は、いつもの雰囲気を全く感じ無い。

「コウキ」
「うん、」

大広間に灯りを燈していたランタンが一斉に消え、銀世界は瞬く間に美しいダンスフロアへと変わった。代表選手が演奏に合わせて踊る時間だ。

「意外と出来るもの、だね」
「僕、リードできてる、よね?」
「大丈夫。練習の成果ね」

スローテンポな演奏に合わせて足を運んでいく。
踊っている内に緊張も解れ、いつもの調子で会話をするだけの余裕が生まれた。
しかし、ハリーと私は二曲で断念。飲み物を手にだらりと椅子に座り込んだ。

「慣れない事はするものじゃない…」
「同感だよ。でもコウキ、君は先生方とも踊らないと」
「リーマスだけでお願いしたい…」

先生方と話をしていたリーマスと目が合い、こちらへゆっくりと歩いてくる。
どきどきと胸が高鳴るにつれ、周りの風景にノイズがかかり、リーマスだけがはっきりと見えた。

「一曲、如何かな?」
「喜んで」

差し出した片手を優しく包み、腰を引き寄せる仕草はまるでお伽噺で見た王子様。そのままふわりと抱き上げられてしまいそうだ。

「夢のようだ。君とこうして過ごす事が出来るなんて」
「夢でだって、こんな幸せ無かった」
「そうだね。だけど、もっと幸せになれる」
「うん…ありがとう、リーマス。王子様みたい」
「紛れもなく君はお姫様だよ」

少しぎこちなさもある生徒達のダンスの中、リーマスのリードは完璧だった。座って見ていた生徒達が拍手を送ってくれる程だ。
リーマスはそのまま私をアルバスへと渡し、職員席へと戻った。
途中、リーマスを誘おうとする生徒がいたのだが、断るのではなく自然と上手くかわしている。その行動は確実に私の為だろう。
いや、確かにもやっとしてしまうかもしれないけれど、年甲斐も無く嫉妬とかしてしまいそうだけど!

「愛されているのう」
「完璧過ぎて私が子供のよう…」
「そんな無邪気で優しいお前がいいのじゃろう。子供であり大人であるコウキは女性としても魅力的じゃ」
「愛想を尽かされないように気を付けるわ」

アルバスとのダンスを終え、ハリーと別れたテーブルに向かうと相変わらず呆けたロンがいた。

「あれ、ロン?ラベンダーは?」

ロンが口をつぐんだまま一点を見つめているその視線を辿ると、そこにはハーマイオニーとクラムがいた。

「ロン、嫉妬してるの?」
「嫉妬?僕が?そんなわけない!」
「嫉妬って?」
「えーと、クラムに」
「ハーマイオニーの事?」
「そうそう」
「だから違うって!」

これも青春。甘酸っぱいものだ。
そんな時にまた演奏が終わり、フロアからハーマイオニーがやってきた。

「皆休憩?あら、ロン。ラベンダーはどうしたの?」
「…」
「あの、ハッフルパフの人と踊りに」
「そうなの?ロン?どうかしたの?」
「別に。わからないなら教えるつもりはない」

ロンの言葉に思わず私とハリーは目を合わせた。
どちらも素直では無いが、完全にへそを曲げたロンに折れるつもりは無いのだろう。

「ロン?何が言いたいの?」
「あいつはダームストラングだ!敵なんだ!なのに、君ってやつは!」
「敵ですって?貴方が一番ビクトールのファンだったじゃない!」
「ホグワーツの敵だ!ハリーとコウキの対戦相手なんだ!」
「ロン、駄目よ!それ以上言わないで。頭を冷やしたら?」
「そうだよ、僕も、コウキも、ハーマイオニーとクラムが一緒にいる事を何とも思ってなんかいないんだ」
「さっさと行けよ。あいつが君の事探してるだろうさ」

ハーマイオニーは怒りを露にしたまま人混みの中へ消えた。
ロンはハリーに任せ、私はハーマイオニーの後を追う。大広間から出て行ってしまったのは確かだが―――

「コウキ、」

振り向くと、大広間の扉の横にしゃがみこんでいるハーマイオニーがいた。人目に付かないよう、扉に隠れるようにして隣に座り込む。

「ロンは―――馬鹿よ」
「あは、そうだね」
「私に当たられたって、困るわ」
「男の子は子供だから。仕方無いよ」
「もう!腹が立つったら!」
「ね、きっとクラムが探してると思うよ?」
「…そうね。ありがとう、コウキ」

ハーマイオニーを見送り、とりあえず私も戻ろうと立ちあがった時、丁度大広間からハリーとロンが出て来た。散歩をするとの事で、もう踊る気の無かった私も一緒に着いて行く事にした。

「うわ、すごいカップル」
「本当だ…こんなにいたんだね」

少し歩いた所で、思わぬ遭遇を果たす。
聞きなれた低い声がぼそぼそと聞こえた。

「イゴール。我輩には何も騒ぐ必要など無いと思うが」
「しかしセブルス!何も起こっていないなどと言っていられる状態ではないだろう!?」

あれはセブルスとカルカロフだ。
小道を狭しと二人で並んで歩いている。荒んだようなその声だが他人に聞かれたく無い話なのだろう、小声で話す二人。

こんな所で話すなど、セブルスらしからぬ行為だ。きっとカルカロフが連れ出したんだろう。

「この数ヶ月の間に、ますますはっきりとしているんだ!」
「なら、逃げればいい」
「セブルスは―――」
「我輩はホグワーツに残る」

そう言った瞬間、セブルスが杖を取りだし、脇に生えているバラの茂みを吹き飛ばした。隠れていたのか、辺りの茂みから悲鳴と人影が現れた。

「ハッフルパフ!レイブンクロー!共に10点減点だ!」

セブルス達の脇を走って逃げた二人が減点され、次にその矛先はこちらへと向けられた。

「何をしている?」
「散歩を」
「ならば続けろ!」

セブルスの横を通り抜ける間、ずっと目は合っていたが、そこから何かを読み取る事は出来なかった。

「カルカロフは何に怯えているんだ?」
「さあ…」
「それに、あの二人いつから名前を呼び合う仲になった?」
「そういえば、そうだよね」

一つ、ベンチが空いていたので3人でそこに腰かけた。
そうだ。カルカロフは何にあれほど怯えていた?あの二人の関係は?リーマスの事だって名前で呼んだりしないのに。

―――セブルスは元デスイーターで、カルカロフもそうだ。
ハリーはこの事に気付いてる?いや、セブルスがデスイーターだった事は知らないはず。

「ごめん、私ちょっと用事を思い出した。城に戻るんだったら、先に戻っていてね!」

この数ヶ月の間に、ますますはっきりしているだって?
―――あの印が。

「スネイプ先生!」
「…なんだ」
「少しお話が」
「君、今は私が話を―――」
「聞かれたくないお話なら誰にも聞かれる心配の無いところですべきでは?」
「…カルカロフ、もういいだろう」

私を一睨みし、カルカロフは城へと戻って行った。

「一体何だ」
「さっきの話、ヴォルデモートの事よね?」
「聞かれたくない話は、聞かれる心配の無いところですべきではなかったのかね」
「ここなら大丈夫」

小道を抜け、見晴らしのよい校庭に出ていた。
冷たい風と、さくさくと鳴る雪の絨毯が私達に居場所を伝える。

「お前には関係無い」
「ある。一番わかってるくせに」
「…」
「あの印が反応しているんでしょう?」
「ヴォルデモートの存在を、存分に感じているという事だ」
「完全復活はしていない。だけど、存在を示すだけの力は戻ってきている…か」
「どうするのだ」
「私もここにいる。ハリーと一緒にいないと」
「お前自身は?ヴォルデモートに知られているかもしれないのだろう」
「わからない。でも知られるのも時間の問題だと思う。その印と一緒で、繋がりがあるから」
「…カルカロフには、できるだけ関わるな」
「うん、わかった。ありがとう」

ヴォルデモートはどうやって完全復活するのだった?
セドリックが死んだのは、ヴォルデモートの手にかかったからだろう。ならば、どうやって。

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