わすれてはいけないこと

「コウキ」
「…っ、あ、」
「…ごめん、気付いてあげられなくて。今も、昔も…」
「リーマス、」
「眠れるかい?休んだ方がいい」
「眠りたく、ない。一人になりたくない」

どうやら私は眠っていたようだ。呼吸を整え辺りを見回すと、図書館ではなくリーマスの自室だった。無意識の内にここへ辿り着いたのだろう。
リーマスが私の額を撫で、前髪を整えてくれた。随分汗をかいたようで、ずっしりと体が重い。

「ここに来たって事は…私が必要とされていると思っていいのかな?」

にこりと笑いかけてくれる彼を見ると、簡単に胃の重みが消える。
傍迷惑な話だが、リーマスがいてくれて良かった。

「この間話した子供の事を調べていたの。図書館にスリザリン家の日記を見つけて…読んでいたら、何か暗い、恐ろしいものが降りかかった感じがして」
「その日記は?」
「あ…どうしたんだろう…どこかに落してきたのかな…」
「後で私が探しに行こう。それで?」
「気持ち悪かった…今まで抑えてきた自分の弱い部分が全部溢れてくるような…負の感情に襲われた気がする」
「スリザリン家の日記と言ったね。やはり、何か呪文がかかっているかもしれないな。気に病む事は無いよ」

はあ、と大きく溜め息をついてソファに深く座り直した。
じくじくと無い傷が痛む感覚に、胸を押さえる。

「リーマス、ごめんなさい」
「何に対してだい?」
「いつも心配かけたり、迷惑かけたり…何かってあったらすぐリーマスリーマスって、負担になるよね」
「確かに心配はするさ、君が好きだからね。けれど、それを迷惑や負担だなんて思っていないし、寧ろ他の人を頼られる方が辛い」
「…リーマスは優し過ぎる」
「そうかな?君に比べたらちっぽけだ」

リーマスの膝に頭を任せ、大きく深呼吸した。こうやってリーマスに寄り添うと、私の中をぐるぐる渦巻く暗闇が飛んで行ってしまう。

私も、リーマスの中でそんな存在になりたい。それだけで、私は存在している意味になるのだから。

「助けて、あげられるんだろうか。私が母親の代わりに、その子達に幸せを教えてあげられるかな」
「君らしいね。その気持ちがあれば、君の中にいるその子も救われるんじゃないかな?」
「え?」
「きっと、君の中にその子がいるんだ。君に何かを訴えているから、声が聞こえる。いつかその子の気持ちがちゃんと伝わる時が来るよ」
「そう、なのかな」
「だからこうやって悩み苦しむんだ。その優しさと思いやりが、君自身を苦しめる。でも、きっとそれは君の助けになるから…」
「…リーマスは何でもわかってくれる」
「コウキの事ならね」

ポンポンと赤ん坊をあやすような手付きで背中を軽くたたかれている内に、自然と夢の中に落ちた。

クリスマスはもう少しだなとか、ダンスパーティ恥ずかしいなとか、プレゼント買いに行かなきゃとか、色んな楽しい事が夢になり、駆け抜けた。

「コウキ?起きた?」
「ん、ハーマイオニー…?えっ、あれっ!」
「落ち着いて、ルーピン先生はダンブルドア校長に呼ばれて出ていってるの」

目が覚めると、ソファを覗き込むようにしているハーマイオニーと目が合った。
そうだ、ハーマイオニーと約束があったんだ。リーマスの部屋を出た時におかしな事になって、図書館に行き更におかしな事に…ああ、自分の事ばかりですっかり忘れていた。

「ごめん、ハーマイオニー…」
「時間になっても談話室に来ないから、心配したのよ?そしたら、ルーピン先生が私を呼びに来て、事情を話してくれたわ」

罪悪感と共に、怒っていないハーマイオニーの言葉に安心してしまう。
起き上がり、すっかり冷めた紅茶で喉を潤した。いいだけ汗を流した後だ、体に水分が染み渡る。

「本当にごめん。何て説明したらいいかわからないのだけど…色々な事に頭がパンクしそうになって」
「人間は一人では生きていけないのよ?コウキは、色んな事と戦っているのだから、沢山頼らないと。貴女は優し過ぎるの!」
「ありがとう、ハーマイオニー…力強いよ、本当に」
「一人じゃないんだから、皆で助け合うって決めたんだから。ちゃんと言ってよ、ね?」
「うん。約束すっぽかして、ごめんね」

安心したような、呆れたような。
そんな溜め息をついて私の手を握った。

「いいのよ。コウキが何かあった時に、真っ先にルーピン先生のところに行くのはわかってるもの」
「言い返す言葉も御座いません」

グリフィンドール寮に戻ると、ハリーとロンがチェスをやっていた。私とハーマイオニーの姿を見て、おかえりと声をかけてくれる事が、今はとても幸せに思えた。

彼らに話そう。
私は、今自分が向き合っている問題について話を始めた。

「日記?」
「うん。そこには、サラザール・スリザリンの血筋に関する子供の事が書いてあるの」
「その、さっき言ってた、コウキが見た事や聞いた事があるっていう子供の事よね?」
「多分そう。それを読み終わった時、何かが私の中に入ってくる感じがして…今までの後悔だとか負の感情に襲われたの」
「そんなものが…」
「でも、生きたい気持ちが上回った挙げ句ぐちゃぐちゃになって、気が付いたらリーマスの所にいて」
「それ、何か呪文がかかっているんじゃない?その日記はどこに?」
「わからないの、気付いたら持っていなくて、さっきハーマイオニーと探したんだけど、見当たらなくて」

一同が唸るが、答えは出ず。
とりあえずこの話は保留となり、日記を探すことを優先する事となった。

「ねえコウキ、こう言うと語弊があるかもしれないんだけど…」
「なあに?」
「身の回りで変な事が起きたり、よくない事ばかりに巻き込まれるのが、僕だけじゃないって思ったら…何だかほっとしちゃったよ」
「確かにそうね。変人同士、仲間がいると心強い」
「何言ってるのよ二人とも…」

ここ数日、ホグワーツ全体にクリスマスムードが続いていた。私の知るホグワーツのクリスマスは大体数名で過ごすものだった為、嫌な事も忘れ何だか浮き足立ってしまう。

「クリスマスパーティー、楽しみだね。ダンスの練習ちゃんとやらなきゃ」
「コウキとハリーのダンス、楽しみにしてるわ」
「私、ハーマイオニーとロンが一緒に行くかなって思ってたんだよ」
「…ロンが、はやくしないからよ」
「はは、そうだね」

楽しい事を考えなければ、パトローナムも応えてはくれない。
闇にのまれそうな私を救い上げたのは生きたいという気持ちだ。決して忘れないように、心に刻み込もう。

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