ここにいるから、

とにかく、眠りたかった。ふかふかのベッドで、時間を気にする事無くゆっくりと。
鈍器で殴られたかのように頭が痛む。其れほどまでに、受け止めるには衝撃的な光景だった。

まだ生まれたばかりの赤ん坊が、大人達に囲まれ殺されていた。一人だけでは無い。時代を移り何度もだ。

「誰か、私を見付けて…か」

死んで行った赤ん坊の言葉とは思え無いが、はっきりとした口調でその魂は言った。

私の見たこれが記憶ならば、確実に昔のスリザリン家では赤ん坊が殺されていたのだ。代々、その光を持つ子供は、生まれてすぐに。
もしかしたら、今もあるのだろうか?
血筋などあって無いような物で、今や純血の家系など数える程しかいない。
スリザリンの子孫に至ってはヴォルデモート以外にいるのだろうか?確か母親が純血で、サラザールの継承者だった覚えがある。

ベッドに潜り込みたい気持ちを抑え、図書館へ向かう事にした。
ヴォルデモートが関係するのなら、何か書き残しているかもしれない。

それから数時間、私はずっと端から端まで本棚を漁った。
そこで、前回は見付けられなかったが、今回は本棚の奥に埋もれている一冊の薄い日記を見つけた。
かなり古びていて、題名も、記した名前も読み取る事は出来ない。だが手に取った瞬間、何か嫌な物を感じたこれで、間違いないだろう。

恐る恐る表紙を捲る。外見の割りには中の紙は綺麗なままだった。
しかし、字が読めない。所々インクが滲み、破けているページもある。
何枚もページを捲り、やっと読める状態の物を見付けた。

―――災いをもたらす天使。サラザールの下に産まれてからと言うもの、何度もその運命を輪廻してきた。
彼女は何の為に生まれ、何の為に殺されていくのか。この子は後少しで、今天から授かったばかりの命を落すのだ。

読み進めるにつれ、手が震えてきた。
進んではいけない、読んではいけない。
私の中の何かがそう叫んでいる。

―――これは呪いだ。我が一族の血を絶やす訳にはいかない。我が闇の力を持って、光の輝きを奪おう。二度と地に生まれ落ちる事の無いように、我が命を掛け賭け、もう一度呪いを。

その後は白紙で、続きは無かった。
ずしりと、胃が重くなるのを感じる。
私は何故、この光景が見えてしまうのか。私に何を伝えたいのか?

『私は何度これで死んだ?』

アバダ ケダブラ。
ムーディの授業であの呪文を見た時、魂は叫んだ。
考えても考えても、まるで思考が停止してしまったかのように答えは出てこなかった。

ヴォルデモートは何故私をこの世界に連れてきたのか。何故私はここへ来る事が出来たのか。
ヴォルデモートの力から独立したはずの私は、どうして今ここに存在しているのか。

私は願った。
愛する者達が幸せに生きる世界を。

私は望んだ。
この世界で生きる事を。

「―――っ…!」

愛する人を救う事が出来なかった。出来そこないの何かが、そんな事出来る訳など無かった。
この世界の歯車を歪めているのは私だ。
既に狂った運命は、どこに向かっている?

私は、存在しては、いけない、
あの子と、同じように、
生まれては、いけない命

私の手中には強大な力がある。
それは、滅びの力。

頭が狂いそうだ。
今更私は何を言っているんだ。
それでも生きたい、力になりたい。

そう願う度に足元から闇が迫ってくる。
何かが私を引きずり込もうとする。
思い出してはいけない何かが、暗い闇の奥深くから溢れ出し、私の体を突き抜けそうだ。

「誰か、私を見付けて」

prev / next

戻る

[ 50/126 ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -