振り向かないで

朝になってまた一通、アルバスからの手紙が届いた。
その手紙には、私とハリーの二人で校長室に来るように、とだけ書かれていた。

「失礼します」
「シリウス!」
「お前達よくやったな!ハリー、君があんなに飛べるとは…ジェームズに見せてやりたいよ」
「ありがとう!」
「コウキに至っては失神の呪文を一人でやってのけるとはな、本当に驚いたよ」
「ダンブルドアの名は伊達じゃないって事よ」
「二人とも本当によくやったの」

アルバスに拍手を送られ、ハリー共々照れ臭さに頭を掻く。

「今年だけになるが、シリウスにはハグリッドの手伝いをしてもらうことになった」
「と、いうことは…シリウスはホグワーツにいるっていう事?」
「そうじゃ」

ハリーの表情が嬉しさで一杯になるのがわかった。
今にもシリウスに飛びつきそうだ。よかった、シリウスが近くにいるのなら安心出来る。

「客人としてここにいてもよいと言ったんじゃがの」
「体を動かしたいからな、ハグリッドの手伝いを買って出たんだ。二人の近くにいられるしな」
「ありがとうおじさん!」
「あ、丁度良かった!ハリーにダンス教えてあげてよ」
「え?」

ハリーはダンスを踊れないと言っていた。教えるのにも、練習するのにもシリウスは最適だろう。

「ああ、今年はダンスパーティがあるのか。お前が教えればいいじゃないか。男同士もなんだろ」
「…私も踊れないんだよ」
「そうだったの!?僕、てっきりコウキは踊れるんだと…」
「今も昔もからっきしです」

と、言う訳で始まりました。リーマスの部屋で行われるダンス教室。
何だかんだで燃えているシリウスについて行けてないハリーの凸凹コンビ。あれではハリーが女役になっているでは無いか。
私は私でリーマスの動きに翻弄されっぱなしという不甲斐なさ。この二人で代表としてダンスをするのだから、講師の熱もヒートアップする一方だ。

「そう、ここは僕がリードするから、ついてきて―――うん、そんな感じ」
「こんがらがる…」
「先生もおじさんも、どうしてそんなに踊れるの…?」
「習ったしな。まあ、慣れか?」
「基本的に、パーティとかのダンスはそう激しく動くものじゃないからね。リラックスしてやれば大丈夫だよ」

足が疲れた私によりタイムが言い渡され、同時にソファへと倒れ込んだ。
だらしなかろうが不甲斐なかろうが知った事ではない。胸を張って言おう、やりたくない!

「それにしても、ハリーとコウキがパートナーとはな」
「僕は先に取られちゃって」
「私は仮病で休もうとして」
「結局一番注目されるペアになった訳だ」

一休みがお茶会になってしまいそうな勢いで、リーマスがお菓子やら紅茶やらをキッチンから運んできた。

「あの予言者新聞の記事の事か?どんどん話題を作るな、お前達」
「今更後には退けないでしょ…」
「君達を見ていると、昔のジェームズとコウキを思い出すね」
「だな。だが、もっとやんちゃでいいんだぞハリー?お前は少し大人しいな」
「僕は、あまり目立ちたくないから…」
「今まさに目立っているけどね」

墓穴を掘りまくる私達だが、それは自分が望んだ訳では無く周りに作られた物だ。こんな役回りはもう避けて通れないのだろう。

窓の外では雪がはらはらと降っていて、校庭を白く染め上げている。その中に足跡を残していく黒い人影が見えた。

「あ、セブルスだ」
「ああ?」
「バスケット持ってる。薬草でも摘みに行くのかな」

セブルスは真っ直ぐ禁じられた森へと入って行った。その姿を見送ったシリウスが溜め息を付く。

「大人になってもあいつの顔を見なきゃいけないとはな」
「それなら、お互い様だよ」
「本当、セブルスが可哀想に思えてくるよ。真面目に?仕事をしていたのに、リーマスだけじゃなくシリウスまで現れるとはね」
「はは、確かにね」
「それを言うならお前もだろ」
「私は少なくとも仲良かったもんね!勉強教えてくれたし、色々手助けしてくれたもの」
「今やスネイプに反抗出来る生徒として活躍してるしね」
「それはちょっとやり過ぎた感あります」

要らぬ所で名を売ってしまうのは私の性なのだろうか。

「あ、まずいハーマイオニーと約束あったんだった!ごめん、先に戻るね。ありがとうリーマス!」

言い終わらず廊下に飛び出した瞬間、目の前の光景に血気が引いた。最初は立ち眩みかと思ったが、視界に映る世界が赤く血塗られている。
心臓が早鐘を打つ。振り払うように目蓋を閉じると何かが流れ込んできた。

記憶。

フラッシュバックするように、何度も無惨な情景が浮かぶ。

『 私は 何度 これで 死んだ …? 』

がんがんと頭を打ち付つける誰かの声。
知っている、けれど、知らない。
確かに私を呼ぶ声は大きくなり、また違う誰かに呼び起こされる。

"甦れ、此処へ。私の元へ"

命の尊さを感じる事も無く。

「名も無き赤子よ」
「お前に罪があるとするならば」
「穢れ無きその魂。光を背負う大きな力よ」

其れは、遠い過去の記憶。
魂の記憶。

誰か、私を見付けて。

prev / next

戻る

[ 49/126 ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -