夢のなかであいましょう

今日の午前授業は、グリフィンドールとスリザリンの魔法薬学合同授業だった。

「はぁ…朝っぱらからあいつらと顔合わせるのかよ…」
「朝食でもう顔合わせたじゃない」
「それとはまた違うんだよコウキ!魔法薬学は特にね…陰湿な雰囲気がぷんぷんするだろう?ま、僕らは優秀だからあんな奴らに負けることは無いんだけどね」

寮監は確かスラグホーンだったはず。私の記憶違いで無ければ、全寮生に平等な割といい先生だった覚えがある。

「はあ…」
「どうしたの?ピーター」
「あ、いや…もしペア組むことになったら…また、失敗して相手に迷惑かけちゃうなと思って…」

後方を歩くピーターが二度目の大きなため息をついた。その足取りも重く感じる。そんな哀愁漂う顔も結構可愛いと思うよ、うん。そして、そう答えるピーターにみんな複雑な顔を見せている。おーい友情崩れかけていませんかー?

「それなら、私と組もう?私も全然わからないし、それならお互い迷惑なんかじゃないでしょ?」
「え!?でも…もっとちゃんと出来る人と組んだ方が…」
「お互いわからないんだから、気が楽になると思わない?うん、我ながらいい考えだと思うよ!ね、みんな?」

ま、気楽に行こうじゃないか。私はここでただごく普通の女子高生を経験するつもりは無い。この人達と関わる事を望んだのだから、大いに騒いで行こうではないか。と、いうことで。早速…

「あれ、これっていつ入れるんだっけ?」
「ヘビの牙って切るんだっけ?」
「「「「…」」」」
「ピーター、落ちついて、私の羊皮紙にちゃんと書いてあるから、ね?」
「う、うん…」

ピーターを落ちつかせながら、ニガヨモギを大鍋に入れる。私にも自信は無いけれど、ピーターが記憶に残るネビルに見えて仕方ないので、自分が冷静にならねば。細かくピーターの動きを見つつ、鍋の中身を掻き混ぜる手も止めない。うん、悪くない。

「見て、このタイミングで入れるんだよ、OK?」
「そうなんだ…OK!」

羊皮紙と大鍋を見比べながら、必死に私の指示に付いてこようとしている。小動物のようでかわいい。実際小動物なんだけれど(ねずみ的な意味で)

「ちなみにヘビの牙は砕くんだよ。砕いたら頂戴、もうそろそろ入れるから」
「うん!すごい、コウキって予習してるの?」
「知識量は皆に劣るからね、羊皮紙に作り方くらいまとめておこうかと思って」

「へぇ…すっごくわかりやすいよ。これくらいでいい…?」
「うん、大丈夫じゃないかな?よーし、入れよう」
「う、うん…大丈夫かな…」
「失敗したら二人の責任なんだしそう重く考える事無いよ」

ばし、とピーターの背中をたたいた反動で、慎重に入れていたヘビの牙が一気に火に受けていない大鍋に入る。ちなみにゆっくり入れてしまうと溶ける速度が変わり効果が疎らになるようなのでこれでよし。

「わわっ!」
「うん、これで出来たはず」
「「「「…」」」」

本当に毎回ピーターはろくな薬を作った事が無いのか、私の声に驚いた皆が振り向いた。教授も驚いたような表情で私達の机に近付いてきた。

「え、コウキ達、もう出来たの?」
「うん?リーマスはまだ?」
「嘘だろ!はやくないか!?」
「本当だ…!」

教室中がザワザワとしだし、教授の一喝で静かになったものの、ちらちらと私達の方を見ている。教科書通りに、普通に作ったつもりなんだけど。

「コウキ、教えるの向いてるんじゃない?」
「そうかな?私も手探りだったんだけれど」
「すごくわかりやすかったし、僕も普通に作業ついていけたもん!」
「そう?なら、よかった」

出来あがった薬をビンに詰めながら、セブルスを探した。そういえば、合同なんだよね、どこに座っているんだろう。
あ、いた。前から3番目の端。なんだ、セブルスももう出来ている。今の様子からして、私達より幾分か早く終わっていたようだ。話し掛けに行こうかと思って見ていたら、くるりとセブルスが振り向いて、目が合った。

「あ」
「…」

にこりと微笑みかけたものの、返ってきたのは睨みの効いた表情だった。お前の視線が背中に突き刺さっているんだ、気持ち悪いから見るな。とばかりに。ううん、まだ仲良くなるには時間が掛かりそうだ。

「それにしても、ピーターが減点されないでちゃんと薬作れたなんて、初めてじゃねぇか?」
「うんうん、僕もびっくりしたよ!よかったね、ピーター」
「うん、本当に有難う!」
「そんな大した事はしてないよ。二人組の時は、また一緒にやろうね」
「うん!」
「「「「…」」」」






そんなこんなで思っていたより普通に生活する事が出来ています、コウキです。今日は宿題と、この世界の知識を付ける為、朝はやくから図書館に来ています。

皆との仲も順調に深め、楽しく魔法学園生活を送っています。ピーターのおろおろ具合が可愛くていじり倒したら、シリウスにいい加減にしろって怒られたり、女子なのを盾にリリーにべったりしていたら、ジェームズに嫉妬されたり。そんな様子を微笑みながら見ているリーマスは私のよき理解者です。


そんなリーマスは今日、体調不良で医務室に行ったみたいだけど…。そういえば、もう少しで満月になる。心配はしていても、何も知らないはずの私は行動に起こす事が出来ない。もどかしさに苛まれるが、まだ…私は何も出来ないのだ。

さて、と。セブルスくらいいるかなと思ったけれど、まだ図書館も開いたばかりということも手伝って生徒は一人も居なかった。羊皮紙を開いて、書き途中だった魔法の呪文を書くために羽ペンを走らせる。

既に3年分ともなると現知識だけで膨大な量だが、もっと多くの魔法を知りたい一心で本を読み漁る。私に何かが出来るのならば、知識はあるに越した事はないのだから。

「ふあ…」

…流石に無理して早起きした所為か、眠気が襲う。少しくらいならいいかと、インクの蓋を閉め、羊皮紙を横にずらしてから机に突っ伏す。…さして抵抗も無く、夢の世界に落ちて行った。



―――…



「   」
「…だれ?」
「なぜ、ここにいるのです」
「え?わからない、けど…」
「あなたはここにいてはいけない。必ず…お前は…」

白かった空間にノイズが入り、段々視界が暗くなっていく。目の前に立つ人が女性なのか、男性なのか、声色すらも窺えなくなった。

「待って、誰、なの?」
「        」
「え?何?聞き取れない―…」
「―――…お前には必要の無い事だ。もう一度言います、貴方は戻って」
「私の事知っているの?どうやって戻るのか、知ってるの!?」

戻れという女性の声、残れという男性の声。

「何れにせよ…お前は――――…」
「ちょっと、待って…どういうこと…!?」



―――…



「―――…おい」
「っ!!」
「…こんなところで寝るな」
「え、あ、セブルス…」
「…悪い夢でも見たのか。顔色が悪い。寝るなら、自室で寝ろ」
「あ、うん…」

ぼんやりしていたセブルスの声が鮮明になり、先ほどの出来事は夢だったと気付いた。ふと額に手をあてると、自分でも驚くほど冷汗をかいている。いやな、夢…。

「あの、セブルス…」
「なんだ?」
「いや、何でも無い…ごめんね、煩かったでしょう」
「別に。眠れていないのか?」
「ううん、そんな事ないけど…図書館のゴーストに怒られちゃったかな、こんなところで寝ていたから」
「フン、」
「起こしてくれて、有難う」
「礼をされる程の事でもないだろう。…ところで、何をしていたんだ?」

セブルスが私の羊皮紙を指刺し眉間に皺を寄せる。そりゃ、そうか。今私の羊皮紙に書かれているのは5、6年の授業でやる内容だ。

「ちょっと、背伸びしてみようかと思って。折角魔法学校に入れたんだから、沢山の事覚えて、ついでに頭も良くなろうみたいな…ね?」
「フン…成績優秀になるのはついでか。この間の魔法薬学の時も、初めてとは思えない様子だったからな」
「え、見てたの?」
「あれだけ騒がれれば耳にも入るだろう。予習していたのか」
「まあ…正確には4年だけど、みんなに3年遅れ取っている訳だから、やらなきゃと思って。それに、魔法って面白いから、勉強が嫌じゃないのよ」
「…お前、若しやマグルなのか?」

セブルスの眉間に深い皺が寄る。だがその表情は嫌悪では無かった。

「あーうーん…それは、今の私には知る術が無いと言うか。普通の生活をしていたから両親はマグルのはずなんだけど、それにしては私にこんな魔力があるのはおかしいってダンブルドアに言われて」
「…余計な事を聞いたみたいだな」
「え、や、ううん!気にしないで」

言い回しが神妙過ぎて、セブルスに勘違いさせてしまったようだ。嘘は付いていないし、事実私にもよくわからないのだからまあいいか。

「まさか、3年までの魔法や授業は既に把握してるのか?」
「本や教科書を読んだり、教授に教えてもらったりして一応覚えたよ。この間の休みの間に、3年分の授業をやったから」
「休み中で…3年分?」

呆気に取られた顔で恐る恐る伺い立てるセブルス。まさか信じられないと訴える目が正直だ。そんな顔もかっこいいと思うよ、プリンスくん。

「うん、まあこの歳で1年からやるのは気が引けるから、これで良かったと思うけれどね」
「なら、僕の出る幕は無いみたいだな。長く付き合わせてしまって、悪かった。」
「え?あ、待って待って」
「なんだ?」
「偉そうに言ったけど…わからないところ、沢山あるから、教えて…もらえない?」

多分、OKの合図、セブルスがニヤリと笑った。何て事だ、あのセブルスのこの表情、是非携帯で永久保存したかった。細められた流し目に、こちらは危うくノックアウト寸前だ。

静かな図書館で、机で二人並んでお勉強。正に青春の1ページに違いない。家庭教師セブルス・スネイプ…いや、それじゃあ昼ドラだ。いかんいかん。

「聞いてるか?」
「あ、はい、聞いてます!大鍋を火にかけて2分で飛びはね毒キノコの千切りを素早く入れる」
「…そうだ」
「ふふ…ふふふ」
「…(僕は身の危険を感じるんだが…)」

お勉強会は、図書館に生徒がぽつりぽつりと入ってくる少し前に終わった。否、身の危険を感じたセブルスが手早く宿題を終わらせた、とも言える。

「セブルス、本当に有難う」
「いや、お前は物分りが良くて教えやすかった」
「本当?なら良かった。…もし、またわからないところがあったら、聞いてもいい?」
「お前の周りの奴らが手に負えない程ならな」

不機嫌そうに言い放ったところを見ると、ジェームズ達の事を示しているのだろう。私自身もグリフィンドールで、ジェームズ達の友達であってもこうして接してくれるのは、セブルスの気紛れなのかもしれない。それならば、その気紛れがずっと続けばいいと思う。

「セブルス」
「なんだ」

図書館の入り口で、振り向くセブルスに笑い掛ける。に、と含んだ笑みになってしまったのだろう、訝しげな目を向けられる。

「コウキって呼んでよ、Mrスネイプ?」
「…フン」

いつの間にか、セブルスとファーストネームで呼ぶ事にも反応しなくなっていた自分に驚いたのだろう。鼻を鳴らし、さっさと踵を返してしまった。

――――…一人になって、忘れていた悪夢を思い出す。所詮、夢だと信じたい。妙にリアルに感じたその恐怖。



「――――…死、だ」

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