差し出された手

第2の課題は2月24日。
それまでに金の卵の中からヒントを解き、課題への準備を整えておく。それがバグマンから言われた次の指令。
あと3ヶ月の間に、やっておかなければならない事が沢山ある。

私はまだあまり触れていなかったのだが、ハリーがそのまま金の卵を開けた時、とんでもない金切り声が響き渡ったそうだ。
その話を聞き、手にしていた卵をそっとサイドテーブルに置き直したのは言うまでもない。

「これなんだけど…」

今私は、リーマスの自室で思い出し玉を見てもらっている。リーマスはまじまじと玉を見つめ、杖で何回かつつくとパンっと明るい爆発音が鳴った。

「わ、なに?」
「うーん…」

思い出し玉を手の上でコロコロと転がしながら唸るリーマス。何か腑に落ちない事でもあったのだろうか。

「何だろう…呪文がかけられているのは確かなんだけれど、何かおかしいな」
「そもそも思い出し玉の効果って、何かを忘れている時に光るだけよね」
「そうだね。これは凄く複雑な呪文だ。私には効果を見せないし、呪文を解く糸口も無い」

私はサラザール・スリザリンに会った事も、見た事も無い。あの映像は一体何だったのだろうか。

「ちょっと、使ってみてくれないか?」
「わかった」

私の手に移った思い出し玉は少しずつ光り出し、遂には真っ赤に染まり溢れんばかりの光を漏らす。
脳裏に、映像が―――

"しにたくない"

「…っ!」

頭に響いた声に驚き、思わず手から玉を落としてしまった。
もう何度も聞いた声だ。リドルが出てくる夢の中、ヴォルデモートと対峙した時、そして昨日。

「大丈夫かい?」
「う、うん…」

転がった玉を拾おうと触れた瞬間、ぱきりと小気味良い音と共に玉にヒビが入った。

「えっ、」
「コウキ、触るな!」

割れた玉からじわりと赤い液体が溢れだし、床を侵食する。

「なに、これ…血?」
「離れるんだ」

リーマスが杖を振ると、確かにそこに広がった液体は消え、ヒビの入った思い出し玉はリーマスの手に落ちた。

「ねえ、もしかして、ヴォルデモートの血、なんじゃ」
「どうして、そう思うんだい?」
「その玉を使った時、聞こえたの。サラザール・スリザリンを呼ぶ声や、死にたくないって声を。リーマスには反応しないのに、私には反応するのよ?他に、ある?」
「どこで、そんな物になったのか…とりあえず、これは私が預かっていてもいいかい?」
「駄目、今ここで壊そう。リーマスに何かあったら嫌だもの」
「…わかった」

杖を振り、球体であった事など微塵も感じさせない程粉々になったそれは、リーマスの手によって処分された。

「私がヴォルデモートの血を介して何かを見ることは不思議ではないから…それは、ハリーもそう」
「君達は、繋がってしまっているんだったね」
「うん…やっぱり、ここに私を陥れようとしている人が、いるんだ」
「コウキ」

リーマスが私の手を引き、その胸へと抱き寄せた。その手から、苦しさや辛さ、悲しみを感じる。そうさせているのは、私だ。

「人間は欲張りだよね。最初は近くにいるだけで幸せだった。それが、自分を知ってもらいたくなって、もっと一緒にいたいと思うようになって。それだけじゃ足りない、触れているだけでも足りない」
「リーマス…」

心配しないで、なんて言えた立場では無い。私がその当の本人である限り、リーマスの心の安らぎなど、到底得られる物では無いのだろう。

「君のいる幸せが、いつか奪われてしまうかもしれない。私は君を、守る事が出来ずに失ってしまうかもしれないと、怖いんだ」
「…ねえリーマス、見て」

抱き締め返したまま杖を大きく振ると、1匹の白い狼が部屋を駆けた。

「これは、パトローナム…?」
「私の守護霊はリーマスだよ。前に話した、私の力の源もそう。リーマスはいつでも私の傍にいてくれる。だから、安心出来る」
「コウキ…」
「私も、いつかリーマスを失うんじゃないかって、怖いよ。きっとみんなそう。でも…そうだなあ…」

リーマスから離れ、くるりと背を向ける。

「すごく無責任な事、言って良い?」
「ああ、なんだい?」
「私が死ぬときは、リーマスも一緒に死んで!」
「へ…?」

あまりの物騒な物言いに驚いたのか、ぽかんとしたまま言葉を失うリーマス。

「あ、あれ…やっぱり駄目?いや、駄目なのは重々承知なんだけど…」
「いや、駄目じゃない、駄目じゃないさ。そうさせてくれ」
「普通はね、私の分まで生きてとか言う所だけど、まあ、そういうのもいいかなって。私も置いていかれたくないし」
「そうだね、そうしよう」

楽しそうに笑い声を上げ、腹を抱えるリーマス。いや今私全然楽しい話してないけどね!

「確かに厄介なのに狙われてるけど、狙われるだけの力があるって事だし、無謀では無いよ。怖いけど、私には一緒にいてくれる人と、守ってくれる力がある」
「一人でドラゴンを失神させてしまうくらいだからね」
「それは正直やり過ぎたと思っています」

やはりリーマスには笑っていて欲しい。いつだってその笑顔に助けられてきたのだから。
私は欲張りだから、多くを望む。手一杯になっても、まだ足りない。

「私が帰る場所は、いつだってここだよ」

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