これがわたし

「ポッター、ダンブルドア!代表選手は競技場へ、準備をしますよ」
「はい」

ロンとハーマイオニーが心配そうな顔で私達を見送る。ハーマイオニーは今にも泣き出しそうだ。

「コウキ、ハリー…頑張ってね!」
「応援してるから!」
「ありがとう」
「大丈夫だよ、見ていてね」

私達を呼びに来たマクゴナガル先生も表情が硬い。やはり、それほどまでにドラゴンは恐ろしいものだ。

大広間を出て、禁じられた森の縁を歩いた先に、テントが見えた。ここで、自分と戦うドラゴンを選ぶのだが、正直どのドラゴンに当たっても、怖いものは怖いし、強い事に変わりはない。

「さて、全員集まったな!諸君の課題は、金の卵を取る事だ!」

選手全員がごくりと喉を鳴らした。
皆、このテントの奥の競技場に何がいるのかわかっている。デラクールも、ビクトールも、もちろんハリーも私も、顔が真っ青になっている。死ぬかもしれない、そんな恐怖が全身から溢れ出ているのを感じる。

「ハリー、ヴォルデモートより怖いものなんか無いわ」

がちがちになっているハリーにそう耳打ちをした。
ハリーは複雑な顔をしていたけれど、笑顔を返す余裕は出来たみたいだ。

「さあ、諸君!この袋の中から、この先に待っているモノの模型を選ぶんだ!」

レディー・ファースト、とバグマンがこちらに袋を向けたので、順番をデラクールに譲り、私は二番目に引いた。
私の手に乗ったドラゴンは、グレーのスウェーデン・ショート−スナウト種。セドリックが当たるはずだったものだ。しかし、番号が違った。
4番、一番最後だ。

「コウキ…どれ?」
「私はこれ…うわ、ハンガリー・ホーンテール。頑張ってね」
「うん…最後なんだね。僕、3番だ…」
「落ちついて。絶対大丈夫だから!」
「うん、頑張る。コウキもね!」
「ええ勿論。負けないよ」

1番のデラクールを呼ぶホイッスルが鳴る。
大丈夫…そう言い聞かせて、私は柱に寄りかかった。
歓声や、悲鳴。珍しく自分が緊張し、不安に押しつぶされそうになっているのがわかった。ドラゴンなんてファンタジーの中の生き物だ。いや、既にファンタジーの世界にいるのだけれど。

その瞬間、地面が割れるかと思うほどの大歓声、バグマンの「やりました!」声が響いた。よかった。デラクールは成功した。

次はビクトールの番。
大きく深呼吸をして、ホイッスルの音に導かれ、テントから出て行った。
私もハリーも、声を発する事が困難になる程の緊張感に襲われ、口から何も出てこなかった。お互いに、励まし合う余裕も無かった。

「ああ!ミスター・ビクトール!やりました!卵を手にした!」

びくりと体が跳ねた。
次は、ハリーだ。あの強暴なホーンテール。
目が合ったハリーがこくりと頷き、ホイッスルの音と共にテントから姿を消した。

自分の心音が煩く聞こえる。外の歓声さえも、遠く思えた。
どうやって立ち向かうかは考えている。だが、その通りに出来るかどうか。
焼かれて死ぬなんて、絶対に嫌だ。ヴォルデモートより怖いものなんて無いと言ったが、奴が相手ならば勝敗は一瞬で決まる。
自分が焼けていくのを感じながら死ぬなんて―――ああ、駄目だった事ばかり考えるのはいけない。勝利はまず己のビジョンからだ。

4度目のホイッスル。
大歓声とその音に我を取り戻した。ハリーは大丈夫だった。上手くやったのだ。

次は私の番。しっかりと杖を握り直し、テントを出た。
薄暗いテントから明るい競技場に出た為、一瞬目が眩んだが、その存在感は嫌でも伝わった。
長く鋭い角を持ったドラゴンが、こちらを静かに見据えている。その表情は観客の声で高ぶっているようにも見えた。

バグマンの声をきっかけに、私はドラゴンに向かい走り出した。
最初の一発は、初歩的な魔法。
効く効かないでは無い。まずは苛立たせる事から始める。ドラゴンが私を威嚇し、距離が50メートルと迫った時、その大きな口から炎を吐いた。

「―――アグアメンティ!」

杖をドラゴンの口に向け、最大威力で水を放出する。火が左右に裂け、更にドラゴンの口内にまで達した為それ以上炎を吐くことが出来なくなったようだ。

「おおっと!あのドラゴンの炎さえも凌ぐ威力でまさかの消火だ!」

飛ぶ直前、体勢を低くした時がチャンスだ。飛び立たれては意味がない。あと10メートルと迫るこの至近距離を保ったまま、奴が口を開いた瞬間に勝負は決まる。

「どうした、ミス,ダンブルドア!その距離で何か策があるのか!?」

そして、その口が開き、炎が喉の奥にちらりと見えた瞬間

「ステューピファイ!」

―――炎は放たれる事なく、ズンとその場に大きな振動が起こった。

…効いた。私の放った失神呪文は、大口を開けたドラゴンの体内に入り、守りなき内部を攻撃した。
すぐさま金の卵を奪い、テント側へ走る。所詮、私一人の魔法だ。いつ効果が切れるかなんてわからない。

「や…やった…!ミス,ダンブルドア!なんとドラゴン使いが何人も必要な失神呪文でドラゴンを倒した!何と言う力…!これが小さな彼女に秘める力だ!」
「小さいは余計だって」

ずっと歓声を送り続けてくれていた声はいつの間にか収まっていたが、皆、バグマンの声で我を取り戻したかのように叫び、大歓声をくれた。

よかった。私も、ハリーも、生き残った。
結局ドラゴンは起き上がる事無く、私は無事テントの入り口まで辿り着いた。が、足元がぶれる感覚に襲われ視界が白む。

「コウキ!」

倒れそうになった所を、テントから飛び出してきたリーマスに抱き留められた。

「力、使ったから…眠たい…かも―――」
「ああ。もう休んで良い。よくやったよ、君は頑張った」

その場に沢山の人が集まってくるのがわかった。薄れ行く意識の中で、リーマスの香りを感じながら私は眠りへと落ちていった。



――――…



哀れな 光

一人は 寂しい だろう

"甦れ、此処へ。私の元へ"

私を呼ぶのは誰。
やめて、起こさないで

もう、

死にたくない。



―――…



「コウキ!」
「ひっ…は、あ…はあ…」
「大丈夫かい?」
「リーマス…?」

そっと額に触れた手がひんやりとしていて気持ち良い。再び目を閉じ、深く息を吸った。

「あれ…私、どうなったんだっけ…」
「課題で力を使ったからね、体がもたなくて眠ってしまったんだろう」
「結果…点数は!?」
「1位だよ。文句無しで1位だ。よく頑張った」
「本当…?よかった…」
「全く怪我しなかったのも君だけだ。流石としか言いようがない」

窓から外の様子を見ると、もう日は暮れ、夜を迎えていた。周りには誰もいない。医務室にはリーマスと私だけのようだ。
サイドテーブルに沢山のお菓子と金の卵が置いてある。みんなお見舞いに来てくれたのだろう。

「今日はここで眠るといい。第2の課題については、明日連絡されると思うよ」
「うん…リーマス、体調は?」
「大丈夫だよ。昨日、私に力を分けただろう?」
「う、」
「駄目じゃないか、試合前だというのに…」
「ごめん。でも後悔してないから、許して?」
「全く…無事だったから良かったけれど。でも、そのおかげで今日の試合も見れたからね。ありがとう」

一晩寝て体力を取り戻した私は、朝を迎えてすぐ、迎えに来てくれたハリー達と大広間へ向かった。

二人で手にした金の卵。
手にしても未だ解き方を思い出せないのだが、きっとなんとかなる。前向きに考え、私達は朝食を掻き込んだ。

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