課題へむけて
談話室へと続く女子寮のドアの入り口で、何も無い所からトントンと肩を叩かれた。これは合図。
「コウキ、入って」
景色が裂け、ハリーの手が私を招く。時刻は23時半、約束の時間だ。
透明マントを被って談話室を通り抜け肖像画の穴での前で待機していると、太った婦人の絵が開き、ハーマイオニーが入ってきた。
「ありがとう!」
足音をたてないように、息を殺しながら城を出た。
「はあ…緊張した」
「何回やっても慣れるものじゃないよね」
ざくざくと芝生を踏み歩き、ハグリッドの小屋へと足を進めた。ハグリッドの小屋だけでなく、ボーバトンの馬車も明かりが灯っている。
「ハリー、コウキ?」
「うん」
「よく来たな。見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「マントを被ったままでついてくるんだ。いいな?」
ハグリッドはボーバトンの馬車へと向かい、マダム・マクシームを連れ出した。
二人は禁じられた森へと歩き出し、少し距離を置きながらその後ろを着いて行く。
「ハグリッドは、何を見せたいんだと思う?」
「多分…第1の課題のヒントだと思う」
「え!?ハグリッドが?」
「この先に、何かがいるんでしょうね…」
「知ってるんでしょ」
「な、なんで…」
「顔に書いてあるって」
「…本当に?」
「嘘」
「え」
ハリーが意地悪な笑顔を浮かべた。
おかしいな…ハリーの掌で転がされるような年齢ではないと言うのに。そんなに私はわかりやすいだろうか。
「あ、あれ」
「うん?」
ハリーが指した方向から、怒声が聞こえた。
何やら、キャンプファイアーのような火も見える。
「ドラゴン…」
「…お、大きい…」
4匹いる。
第1の課題はドラゴンの卵を奪う事。溜め息を付き、脳裏をかすった記憶を引っ張り出す。
「あ、見て!チャーリーがいる!」
ハグリッドへ駆け寄った一人が、何やら叫んでいる。その場にいたドラゴン使い全員が、杖をドラゴンに向け失神の呪文をかけた。
「あれを、一人で…」
「何か言った?」
「ううん、何でも無いわ」
再びドラゴンに目をやったハリーの顔には、戸惑いと焦りの色が見えた。この巨大な相手に、私達は確実に対面しなければならないのだ。
その時、後ろからカサリと音が聞こえ、驚いて振り返る。
―――カルカロフだ。
ゆっくりと、私たちの方へ向かって歩いてくる。
「ハリー」
慎重になっているカルカロフの前で、物音をたてるわけにはいかない。しかし、ここは森の中。歩けば足音を鳴らしてしまう。
あと少しでぶつかってしまう、という距離まできた時、何かがカルカロフにぶつかり、バランスを崩した。今しかない。私はハリーの手とマントをしっかり掴み、一気に森の外へと走った。
「はあ、はあ…なにが起きたの?」
「わからない、何かが…カルカロフに…」
「ハリー!コウキ!」
「!」
後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「うそ…シリウス!」
「おじさん!」
「久しぶりだなハリー!いいタイミングだった」
「もしかして、さっきのは犬で…シリウスだったの?」
「ああ。二人の名前を見つけたからそこに行ったんだが、姿が見えないのでもしや、と思ってな」
「名前?」
ニヤと笑い、ボロになった羊皮紙をポケットから取り出した。
「忍びの地図!」
「あんなところで身動き取れなくなって、何してたんだ?」
「ハグリッドに呼び出されたんだよ」
「あのドラゴンが課題か…」
「ええ。それで、シリウスはいつここへ?」
「さっきだ。真っ直ぐダンブルドアのところへ向かうつもりだったんだが、ホグワーツについたら地図の事を思い出してな。見てみたら―――ってとこだ」
「どうしておじさんがその地図を?」
「去年リーマスに没収されたんだろう?返そうとしたんだろうが、あいつも教員だからな。そうもいかなかったんだろ」
「それで、シリウスがハリーに渡す事を予想してシリウスに渡したのね…」
「だろうな」
そう言いながら、忍びの地図をハリーに手渡した。
この地図を使い、ホグワーツを自由に動き回るハリーを見てジェームズはどんな顔で喜ぶのだろう。
シリウスも同じ気持ちなのか、嬉しそうにその姿を見守っている。
「ありがとう!」
「どうってことないさ」
「おじさんはこれからずっとホグワーツに?」
「いや、ホグズミードにいる。試合の日にまた来るさ。それとハリー、箒だ。アクシオは習っただろう?ドラゴンをそれで出し抜くんだ」
「え?」
「コウキは大丈夫だろう?」
「ええ、まあ」
「それと、だ」
シリウスは声を低くして言った。
「カルカロフ、あいつはデスイーターだった。ダンブルドアが今年、闇払いのムーディを教員にしたのはその事を考えての事だろう」
「え…デスイーター?」
「アルバスはカルカロフを監視するためにムーディを呼んだって事?」
「そうだ。あいつはムーディにアズカバンへぶち込まれた。だが、他の仲間を売って釈放されたんだ。魔法省と取引をしてね」
「そんな…!」
「それに、最近デスイーターの動きが活発になっているらしい。ワールドカップの時に見ただろう?闇の印を打ち上げて…それと」
そこでシリウスは考え込むように言葉を切った。
言葉を選んでいるのか、深く息を吸ってから溜め息を吐く。
「魔法省の、魔女職員が消えた話は知っているだろう?あいつは…バーサ・ジョーキンズはこの対抗試合が行われる事を知っていたはずだ」
「ヴォルデモートが、ジョーキンズを利用した?」
「ああ…きっと」
「でも、その魔女が、ヴォルデモートにばったり会うなんて…?」
「とにかく愚かな女だ。バーサが消えたといわれる場所は、ヴォルデモートが最後にそこにいたと噂される場所だったんだ。頭が空っぽなくせに、知りたがりや。バーサなら、簡単に罠にはまるだろう」
あまり関わった事は無いが、私達の3学年上だった魔女だ。シリウスは言葉が悪いが、否定は出来ない。ヴォルデモートを探り、そのまま。
「ねえ…ヴォルデモートとカルカロフは今も繋がっているという情報はあるの?」
「わからない。しかしあの男は、自分を守ってくれるという確信を持たないかぎり、ヴォルデモートの下には戻らないだろう」
「でも、他のデスイーターを裏切ってる。きっと、ヴォルデモートはカルカロフを再び自分の下に置こうとはしないわね」
「ああ。しかし、何かが繋がる。コウキ、誰がお前を四人目として選ばれるようにしたかはわからないが、確実に理由があってそうした。誰かに仕組まれたんだろう」
「事故にみせかけて殺すためでしょう」
「ああ…それにハリーも同じだ。ハリーとコウキ、お前達二人が選ばれるように仕組まれたんだ」
「いったい誰が…」
「俺も色々探ってみよう。お前達は課題をこなすことだけを考えるんだ。絶対に死ぬな、いいな?」
シリウスとはそこで別れた。
何事も無く寮へ戻り、談話室のソファに座り込んだ時、一気に力が抜けた。
「シリウスに心配かけまいとしたけど…やはり情報は簡単にまわるものね」
「コウキ…」
「うん?」
「シリウス、箒でドラゴンを出し抜けって、言ってたよね?」
「うん。アクシオでファイアボルトを呼び寄せろって事でしょう?」
「僕…アクシオがうまく使えない」
「あ」
そうだった。ハリーはアクシオをマスター出来ていなかったのだ。
「あーそうね、練習しましょう?私が一緒にやるわ」
「でも…コウキも、アクシオを使う?」
「私は違う方法を使うつもり。なら、ハーマイオニーとロンに手伝ってもらおうか」
「ああ、そうする。ありがとう」
「いいえ。今日は寝て、明日からね。明後日の午後までに覚えなくちゃ」
ハリーと談話室で別れ、自室へ戻るとハーマイオニーが迎えてくれた。
今日見たもの、シリウスに会った事。そして、これから私達がどうしなければならないのか。話終えた頃にはお互いに睡魔に負けそうになる所だった。
明後日、ドラゴンに立ち向かい、そして卵を奪わなければならない。
私は、私自身の力を知り、そしてどんな敵でも迎え撃つ。その為の一歩、ここで踏み出さなければ。
prev /
next
戻る
[ 44/126 ]