その手にしたもの

透明な部分が無くなる程に、真っ赤な光が溢れる。
その光を見ていると、段々目蓋が重くなり、ゆっくりと目を閉じる。

『―――…!』

―――声が聞こえる。

『この子は…』
『前代未聞、だな。』
『…』
『光か…何故、ここに堕ちて来たか』
『ここに置いておくわけにはいかんだろう』
『そうだな…スリザリン家の元にこのような…一族を絶やしかねん』
『しかし!』
『―――陽の力を持ちすぎている、危険だ。処分する』
『でも、この子は!』
『―――…』

「う、わあ!」

急に戻ってきた意識にびくりと体を震わせ、思い出し玉を落とした。引き込まれ、夢を見ているかのように目が覚めなかった。
今の声は、服従の呪文をかけられた時に聞いた声だ。

サラザール・スリザリン?
片付けもそこそこに、急いで図書館へと向かった。スリザリン家の何か歴史について書かれたものはないだろうか。
何故私があの映像を見たのかわからない。思い出し玉にそんな機能は無い。
―――私は、スリザリンと関係がある?ヴォルデモートはスリザリンの直系だ。その血を受けた事が影響しているのだろうか。

図書館の膨大な量の中から一冊を探すのは時間がかかった。サラザール個人について載っている本など、伝説化された伝承以外に見当たらなかった。

「駄目だ…そんな都合よく見つかるわけ無いか…」

やはり、ヴォルデモート本人に聞くのが近道なのだろうか。一番の近道だが、最大の危険と紙一重だ。正直避けたい道である。

「コウキ?」
「わ」

振り向くと、そこにはリーマスがいた。

「図書館にいるなんて、珍しい」
「何か探し物は見つかったの?」
「あ、ううん。そう簡単に見つかるものじゃなくて…」
「そうか、早く見つかるといいね」

膨大な本を見回すリーマス。分類で言えばこの場所は魔法史で、スリザリンに関する所だ。

「…何を探しているか、聞かないの?」
「聞いて欲しかった?そうじゃない顔をしていたから、やめておいたのだけれど」
「あ…近々話すね、ごめん」
「何と言うか…コウキは素直というか、単純というか…」
「えっ!」
「簡単に言うと可愛いよ」
「なっ!?」

ここ図書館ですから!誰かに聞かれていないか焦り、辺りを見回すが今日の図書館は閑散としているようだった。
後見人という立場ではあるが、生徒に出回った話ではないのだから変な噂を立てられても困る。これ以上噂が一人歩きしてしまったら、それはもう一躍時の人だ。
そもそも、リーマスがそんなヘマをする人間では無いのだから、杞憂なのだが。
そのまま二人でリーマスの自室へと向かった。

「今日は休んでいなくて大丈夫なの?」
「ああ。調子が良くてね、明日から少し休みを取らせてもらう予定だよ」

明後日に満月を控えた状態でこの調子だと、薬と私の力が上手く作用しているのだろう。
それにしても、いつもより気分が良さそうだ。心なしかテンションも高めに見える。

「ねえリーマス、ちょっと、匂い、嗅いでみて」
「君の?」
「う、うん。試したいことが」
「うん?いいけれど」

私の腰を引き寄せ、首もとに顔を埋めすう、と息を吸うリーマス。いや、そんないやらしい感じを求めたつもりは無いのだが、ちょっとローブの先を嗅ぐくらいなつもりで言って、ちょ、おい、

「嗅ぎ過ぎ!」
「君が言ったんじゃないか」
「ちょっとって言った!」
「気分が良いから、」

そう言ってもう一度私の腰を引き、顔を擦り寄せる。その姿は飼い犬のようで、

「ひぁっ…!」
「コウキ…」
「おすわり!」

ポケットから杖を取りだしそう叫ぶと、リーマスはその場に崩れるように座り込んだ。

「お、おお…効いた…」
「やり過ぎた事は反省してるから、魔法を解いてくれないか…」
「もう嗅がないでね」

今リーマスに耳と尻尾が生えていたなら、しょんぼりと垂れている事だろう。

「それで?君は何を試したかったんだい?」
「この間、犬は飼い主の匂いが好きだって聞いて、狼もそうなのかなと…」
「それについては否定はしないけれど…」
「あ、私は飼い主のつもりじゃ無いよ!そうじゃなくて、ええと、流石に満月の日にやって猛烈にじゃれつかれたら大変な事になるから、」
「大丈夫だよ、わかってる。そして君が試したい気持ちになったのもわかった、わかったから…」
「から?」
「出来れば、学校では無い所で試して欲しかったかな…」

頭を抱え溜め息を付くリーマス。これは、効果覿面だったという事だろうか。…申し訳ない事をした。

「確かにそうだね。満月が近付くにつれ、君の匂いを鮮明に感じるようになる。今日もそれで図書館にいるのがわかった」
「え、私臭いの…?」
「はは、そうじゃないよ。そうだな、今までは満月が近付くにつれ憂鬱になっていたものだが、君と一緒にいるとどんどん興奮していく」
「あの、ルーピン先生?」
「ちゃんと理性を持って行動しているだろう?」
「今まさに狼以外の何物でも無い発言をしたけどね」
「だから、さっきみたいな事は注意してくれ」
「もう一生言わないから、大丈夫」

少し残念そうな顔で紅茶を出してくれた。これは余計な知識を与えてしまったかもしれない。

「この間、セブルスの授業で少しいざこざがあって、ちょっと苛々を抑えきれずに暴発しちゃったんだけど」
「君が?珍しい」
「その時、あの白い靄が体から溢れて、振り払おうとしたらそれが狼になったの。パトローナムみたいに動いて、セブルスの前で消えた。これってなんだろう?」
「怒っていたのなら、パトローナムでは無いだろうね。白い靄は、君のあの特殊な力だろう?それが形を持ったんだね?」
「うん。でも私はその形を作ろうと思った訳では無いの。狼って、私の中ではリーマスしか思い浮かばなくて」

あの時教室を駆けた狼。大きくて、逞しいのに目の優しい狼だった。私の与える力が形を持った時に、その姿を模したのならば。

「君の力の源」
「そう、思ったの」

目を細め、私の頭を優しく撫でた。
初めて会った時も、こうやって撫でてくれたリーマス。私はいつだって彼に生きる力を貰っているのだ。

「本当にそうなら、嬉しいな」
「ね、リーマス。私に力を頂戴。生き抜く力を」

抱き寄せられ、先程私が注意したばかりだと言うのに、リーマスの胸で大きく息を吸い込む。
大切な人に嘘を付くのは、悲しい事だと昔のアルバスが言っていた。私はもう、リーマスに嘘を付かず真っ直ぐ向かえているだろうか。

本当の、自分が知りたい。

教えて、リドル。
―――…私は何故ここにいるの。

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