しめすもの

「ひゃ―――!」

叫び声が響いたグリフィンドール寮の談話室。
まだ寝癖が付いた寝巻き姿で立ち尽くす私、その手には日刊予言者新聞。

私の叫び声で何人かが何事かと談話室に降りてきた。

「コウキ!何かあったの!?」
「ハ、ハーマイオニー…」
「何か出たのか!?」
「ロン、ハリー…みんな…」

わなわな震えている私が手にしていた新聞に目を止めたロンが、それを奪い問題の部分を読み上げた。
第一声を発したのは、フレッドとジョージ。

「コウキと」
「ハリーって」
「いつからできてたの!?」
「できてない!」

へなへなとその場に膝を落とす。
別にいい、別にいいよハリーと噂される程度ならば。
けれど、これでまた様々な視線が私達を攻撃してくるのだろう。争いの種を上手く蒔いてくれたものだ。

「スキーター、絶対許さない!」
「そんなにハリーとの熱愛報道が気に食わなかったの?」
「百歩譲って別にそれはいい。それよりも、このでっち上げの記事!」
「僕達は取材を受けた時、何も喋っていないんだ」

内容は対抗試合に向けての意気込みと、ハリーと私のでっち上げ熱愛報道。そして、過去の悲しみを抱え生きる今の生活について。

『時々夜になると、両親を想って涙がでます…いまここに両親がいれば、どれだけ僕は幸せなのか…』
『ダンブルドアに育てて頂いた事は感謝しています。でも、やはり両親が恋しくなる時があるんです、もう一度、会いたい…』
「闇に閉ざされた過去を持つ二人は自然と惹かれ合い、そして愛を知った…とな」
「何で私は暗い過去を持つ人物になってるわけ?」
「年齢差を考えれば養子だって事はわかるでしょう?コウキには両親がいない、かの有名なダンブルドアに育てられた少女…何かありそうじゃない、それだけで」
「ええたっぷりありますとも…」

その記事のお陰で、また他寮生にいじられる毎日を迎える事となった。
殆どの生徒は、私とハリーの熱愛を信じ込んでいたし、スリザリン生はハリーの涙に的を絞り攻撃をしてきた。

「我らがヒーロー、ヒロインのお出ましだ!今日も心の傷を舐め合っているのかい?」
「マルフォイ…」
「それで、何か問題でも?貴方には心の傷を癒してくれる素敵な相手がいるのかしら。人の心配をしている場合?」
「っ…」

嫌がらせにも飽き飽きし、否定よりもカウンターで返す術を覚え始めていた。

「何よ、容姿端麗だなんて書かれていたけれど、まずその性格をどうにかした方がいいんじゃない!?」

珍しくパンジー・パーキンソンがマルフォイの横からキンキン声で言い返してきた。

「あら、マルフォイ!貴方にも可愛いお相手がいるんじゃない!女を前に出すなんて、紳士らしくないわよ?」
「なっ!余計な口出しをするなパンジー!勝手な勘違いをするな、こんな奴!」
「ドラコ…!ひどい!」
「確信犯でしょ、コウキ…」
「ふっ…」

これはジェームズやシリウスの真似だ。きっとリーマスが見れば笑ってくれるだろう。

それからの日々は目まぐるしい物だった。ハリーとハーマイオニーは図書館に通い、呼び寄せ呪文を習得する為に理論から学んでいるらしい。
私もそれに習い呪文の理論を勉強し始め、ロンは仕方なく図書館で宿題をこなしていた。

「ほら、また来たわよ…」
「ああ、クラム。何でこうも毎日図書館にくるんだろう?」
「こっちは良い迷惑よ。取り巻きの所為で集中も出来ないわ!」
「ま、クィディッチで有名だからね」
「僕、サインもらおうかな…」
「ロン!」
「何だよ、わかったってば…」

言い争いをする3人の輪から外れ、クラムをじっと観察する。

「コウキ?もしかして君までクラムに惚れたの?」
「いやいや。何か…こっちを見てる気がするんだよね…」
「ええ?」

今度は4人でばれない様、こっそりクラムを観察する。…絶対見ている。

「本当だ、何か目が合う回数が多い気が…」
「でしょ?私ね、クラムがハーマイオニーを狙ってると思うんだけど…」
「ええ?勘弁してよ、それはないわ。それなら、貴女の方が可能性あるでしょ?」
「ううん、代表で集まった時に何度か話したり、一緒にいる事あったけど、そんな素振りは見せなかったもの」
「あのクラムがハーマイオニーを?それは無いよ!」
「ふーん…とか何とか言っちゃって、クラムにハーマイオニーを取られるのが嫌なんじゃないの?」
「え」
「何言ってるんだよ!僕はハーマイオニーが誰と付き合おうと関係ないね!」
「わわ、わかったから、ここ図書館だから…静かに!」

奥の方からマダム・ピンスのコホン!という咳払いが聞こえた。



遂に第1課題まであと1週間と迫り、今回のホグズミードは3年生以上の生徒は全員行く事を許可された。

「あ、チョコレートの新作が出てる。リーマスに買っていってあげよう」
「こっちにもあるわよ」
「うっわクモ!何それそんな形しておいてチョコレートとか食べて貰う気あるの?無いよね。本当そのセンスどうにかしてる。ムーディのお土産にしたいけど触りたくないから無理」
「面白いくらい苦手なのね、クモ」

人で溢れ返ったハニーデュークスを抜け、これまた人で溢れ返った三本の箒に向かった。何とか席を確保し、一息付く。

「あ!スキーターだ」
「え!どこ、殴る!」
「コウキ、駄目だってば!」
「あの人、ここに泊まってるんだ。きっと第一の課題を見に来るんだよ…」

ハリーがそう口にし、私たちの間に沈黙が流れた。
何だかんだ言って、やっぱり多くの死人が出ている試合だ。底知れない恐怖はある。

そういえば、すっかり忘れていたが、第一課題は何だっただろう。どうして忘れているのか、それも調べようと思っていたのに、宿題の多さと呪文の練習に時間をかけすっかり忘れていた。

「コウキ、どうしたの?」
「え?ああいや。何か、頭がもやもやと…」

アルバスが皆に私の話をした時、未来を知っている事は言わなかったそうだ。言うべきは私の口からと思っての事だろう。

「それだったら、思い出し玉えを使えば?」
「え?」
「何か、忘れている事があるんじゃない?」
「ああ、そうだね…やってみるよ」
「お、聞いた声だと思ったら、おめぇらこんなとこにいたのか!」
「ハグリットに、ムーディ先生!こんにちは」

私達の声が聞こえたらしく、ハグリットとムーディが近寄ってきた。

「ハリー、コウキ、今晩、真夜中にあのマントを着て俺の小屋に来いや」
「どうして?」
「いいものを見せちゃる、誰にも言うなよ」

ハグリットはウインクをしてそのまま二人は店から出て行った。

「真夜中に用なんて、なんだろう?」
「ハリーと私って事は、何か試合に関係ある事なんじゃない?」

えーと…なんだっただろうか。思い出しそうで思い出せないのが苛々する。それとも私は元々知らないのかもしれないという気さえしてくる。真夜中にハリーがマントを着てハグリットの小屋に行って…その後は?

「…私、思いだし玉買って来る」
「あ、うん、行ってらっしゃい!」

思い出し玉はダービッシュ・アンド・バングズ魔法用具店にあった。忘れている内容までは教えてくれないが、何かのきっかけにはなるかもしれないという藁にもすがる思いで握った。
思い出し玉は、まるであのゴブレットの炎のように、赤く光った。玉が真っ赤に光り過ぎ、割れてしまうのでは無いかというくらいに。この光り方は異常だ。半端なものでは無い。

「何をそんなに忘れている?」
「わ、ムーディ先生」

何か目蓋の裏で映像が流れかけた時、声を掛けられ玉を落してしまったが、ムーディが間一髪のところでキャッチしてくれた。
その玉は光る事を忘れたかのように収まり、光ることを止めた思い出し玉をムーディはじっと見つめていた。

「―――」
「え?」
「気になる事でもあるのか」
「何だか最近、忘れっぽくて…」
「そうか、気を付けろよ」

そう言って、私に思い出し玉を手渡し、人ごみの中に消えて行った。一体、何だったのだろうか。

また誰かに声をかけられ中断されるのは嫌なので、ホグワーツに帰ってからゆっくり向き合う事にしよう。

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