さいごの時まで

それからというもの、双方からの批判は酷かった。
まだ4年生のハリーが選ばれた事、4人目が選ばれた事。しかも、双方がグリフィンドールであった事。

レイブンクローは応援してくれているようだったが、ハッフルパフは微妙な心境だろう。内側からの攻撃は心に来る。

「ハリー、集中して。余計な事考えては駄目よ」
「わかってるさ…」

月曜日、妖精の魔法の授業でハリーは呼び寄せ呪文にかなり苦戦していた。先程教室に行くまでに浴びたハッフルパフの視線が効いているようだ。
私を狙っているのに、ハリーにまで火の粉がかかってしまい、回避しようにもお互い矢で攻撃し合うようなものだった。

「コウキ?ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ…気にしないで?」
「ありがとう、ハリー」

思いつめた顔をしてしまったのか、心配をかける始末。これでは…私が足手まといになってしまう。
結局、ハリーはアクシオを成功させる事が出来ないまま授業は終わってしまった。

「あー次は2時限続きの魔法薬学、か…気が滅入るよ」
「ごめんね、私の所為で皆にまでとばっちりが…」
「そんな事無いって、君がそんな顔していたら、僕らだって悲しくなるんだから!ね?」
「うん…よし。次何かされたら魔法の練習台にしてやるんだから!」
「コウキの練習台になんてなったら、聖マンゴ行きだ」

大広間に4人の笑い声が響く。私が強くなければ、支えにならなければと思い詰める程、彼等に支えられている事を実感する。強さとは、心の内に秘めるものだと思い知らされるのだ。

昼食を食べ終え、地下牢教室に向かった。
スリザリンの場合、私よりハリーに嫌がらせしようとはりきっている。地下牢の教室へ着くと既にスリザリン生が全員揃っていて、その中心から現れたマルフォイが笑い声を上げた。

「やあ、目立ちたがり屋の恥さらし君!」
「マルフォイ…」
「一人じゃ何も出来ないからって、その女まで?グリフィンドールは弱虫の寄せ集めか!」
「黙れよ、マルフォイ」
「スリザリンには、ハリーに勝てるやつがいなかったくせに、偉そうな口を叩くなよ!」
「あのお偉いゴブレットも、ハリー・ポッターの名前を知っていたんだろう!それに、その女はダンブルドアのご贔屓ときた!何を仕組んだんだ?」
「ふざけないでよ!」
「おっと、その汚らしい手で触ってくれるなよ?穢れた血でべっとりにされたくないからね」

私がポケットから杖を出す動きよりも、ハーマイオニーが私を止める動きの方が早かった。

「ハーマイオニー、」
「いいのよ、ハリーも、やめて!」

ハリーを見ると、その杖をマルフォイへ向け、今にも噛みつかんばかりの表情だった。

「やれよ。今回はムーディもいない。やれるものならやってみろ!」

ハリーとマルフォイから出た呪文の光線がぶつかり、こちらへ向かってくるのを確認した時には、ハーマイオニーが私を庇い、床に倒れこんでいた。

「ハーマイオニー!」

急いで駆け寄ると、デンソージオの呪いを受け、前歯がまるで化け鼠のように伸び出していた。

「私を庇う事なんかないのに!」
「医務室へ連れて行こう!」

その時、教室の扉が開き、セブルスが入ってきた。

「先生!ポッターがゴイルをやったんです、見てください!」
「…医務室へ」
「マルフォイがハーマイオニーをやったんです!」

嫌がるハーマイオニーをロンがセブルスの前へ連れて行った。しかし、予想通りセブルスはグリフィンドールを肯定はしなかった。

「いつもと変わりない」

その瞬間、ハーマイオニーは廊下へと駆けて行ってしまった。その目には、溢れんばかりの涙が溜まっていた。

「…最低」

その瞬間、教室中の机やイスがビシビシと鳴り、体中が燃えるように熱くなった。抑えきれなくなった怒りが靄として体表を漂い、振り払うように持っていた杖を勢いよく下ろせば白い狼が唸りながら教室を駆け、セブルスの前で消えた。

「体調が優れないので医務室へ行きます」

セブルスの返事を聞く前に扉から出て行き、ハーマイオニーの後を追った。
マダムのおかげでその歯は少し小さくなっていたけれど、心の傷はそう簡単に癒えるものでは無い。

「ハーマイオニー」
「コウキ…どうしてここへ…?」
「一発やって、逃げてきたの」
「殴ったの!?」
「ちょっと脅かしただけ。まあ私も久し振りにあんな苛々したから、無我夢中だったけど」
「ごめんなさい…心配かけて」
「ううん。私はいつでもハーマイオニーの味方だもの」

授業が終わったのか、コリンとハリーが医務室に私を呼びに来た。代表選手の写真撮影と、日刊予言者新聞の記事を書く人が来てるらしい。
ああ、偽記事をかく奴って、おじさんが言ってたっけ。

「来たな!さ、他の審査員が来たら杖調べの儀式をするぞ!」
「杖調べ?」
「杖に異常が無いか、調べるのよ」
「そっか、これから一番使うんだもんね」
「二人とも、この方がこれから対抗試合の事を日刊予言者新聞の記事に書く、リータ・スキーターさんだ」
「儀式が始まる前に、ちょっとお二人にお話聞いても良いかしら?」
「いいとも!」
「え、ちょっとバグマンさん…」
「さ、静かなところでお話いたしましょ!」

近くにあった手近な扉を開き、中に押し込められる。狭いし暗い…ここは箒置き場だ。押し込められた私とハリーはぴったり引っ付くしかなかった。

「さあ、お二人はどうして対抗試合に参加しようとしたの?」
「えーと…」
「…」

ハリーが何か言おうとして口籠りしていたら、スキーターの持つ自動速記羽根ペンは勝手に羊皮紙に文章を書き始めた。

―――惨劇の中、一人生き残ったハリー・ポッター。そして、ダンブルドアに育てられた親を持たない少女、コウキ・ダンブルドア。その二人の過去は暗く、孤独であった―――

「ちょっと」
「コウキ、羽根ペンは気にしないでよろしいざんすよ」

様々な質問を一方的に受けては、答えを言わずとも羽根ペンはその羊皮紙を字で埋めていった。

―――二人は今は亡き両親の話に移ると、お互いを励まし合うように手を取った。その姿はまるで恋人同士のようで―――

「おいこらふざけるな!」
「コウキ!」

スキーターの羊皮紙を破り捨てようと立ち上がった時、外側から扉が開いた。

「ダンブルドア、」

やっと助かったと思い、ハリーの手を取りスキーターを無理やり避け、外へ出た。

「見た?あの文章」
「見たよ、嘘ばっかり書いて!」
「あんなの記事にされたらたまらないわ…あの馬鹿女、いつか絶対潰す」
「こ、怖いよコウキ」
「コウキ、ハリー。杖調べの儀式を始める、オリバンダーさんを紹介しておこうかの」

窓際に立つオリバンダーさんがフラー・デラクールから順番に杖を調べていた。
…そういえば、私は入学時に杖を買っていない。何気なくこの杖を使っていたのだが、もしかしてこれは以前の私が使っていた杖では無いだろうか?

「マドモアゼル・ダンブルドア?」
「は、はい」
「ふーむ…この杖は…樫の木、心材はユニコーンの毛、25センチ。スリザリン向き…むむ、この杖は何十年も前に売ったものだったのう?」

やはりそうだ。

「うむ、杖も貴女が良いと言っておる。最高の相性じゃ」
「あ、ありがとうございます」
「しかし、昔に売った時も、グリフィンドールの少女が手にした。不思議な事もあるものじゃ」

その後、個人写真やら集合写真やらで、開放されたのは夕食の時間を半分程過ぎたあたりだった。

「ハリー、ちょっと待って、私アルバスに用事があるの、一緒に追いかけない?」
「いいよ」

アルバスはすぐ近くにいたものの、多くの人が周りを取り囲んでいた。無理矢理輪に入り、手招きをする。

「あの、ダンブルドア校長…少しいいですか?」
「どうした、コウキ?」
「ちょっと…」

廊下の端へ寄り、3人で輪を作りこそこそと話を始める。

「あの、私の杖って、昔使ってたやつでしょう?どうして今私が持っているの?」
「ふむ、言うのを忘れておったの。コウキが居なくなってしばらくして、この杖だけ私の元に届いたのじゃ」
「え、そうだったんだ。杖はあの場に落としたと思ったのに」
「ダンブルドア!」
「おっと、すまない、この話はまた次回しよう」

残された私とハリーは、大人しく大広間へと向かった。
杖が意思を持ち、動くはずは無い。ならばどうやってアルバスの元へ届いたのだろう。
あの場で誰か、好意を持ってアルバスに届けるような事をした人間がいるとは思わない。
他にいるとするならば、

「私のふくろう、」

prev / next

戻る

[ 41/126 ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -