用意された道

今日の大広間はいつも以上に賑わっていた。
世界中の魔法使いと魔女が顔を合わせる一生に一度味わえるかどうか、そんな場所に私達はいる

「ようこそ、ホグワーツへ!」

アルバスの声と共に歓声が上がった。

「三大対抗試合は、この宴が終わった後、正式に開始する。さあ、大いに楽しんでくだされ!」

目の前のテーブルに、見た事も無いようなの種類の料理が沢山並べられた。色とりどりの料理、そしていつもの黒いローブだけではなく、他校の色が混ざり、視界にも賑わいがある。

「あのー、ブイヤベース食べなーいのでーすか?」
「え」

声の主を探し後ろを振り向くと、ボーバトンの女子学生が立っていた。
確か、ハーマイオニーが毛嫌いした子だ。女の私から見ても、とても魅力のある美少女だと思う。

「どうぞ」

ハリーが皿を押しやった横で、ロンが言葉を失ったまま顔を真っ赤にしている。
その子はハリーの手から皿を受け取り、レイブンクローの席へと戻って行った。

「ヴィーラ?」
「やっぱり、コウキもそう思った?」
「ロンの反応と…あれを見て思った」

私が視線で示した方向では、あの子が大広間を横切る間に沢山の男子生徒が振り向き、ロンのように口を開けたまま硬直し、動けなくなっている生徒もいた。

「あんな綺麗な子、ホグワーツじゃお目にかかれないよ!」
「そんなことない!」

反論したハリーの目線の先には、勿論チョウ・チャン。あらあらいつの間にやら事が進んでいた。やはりハリーはチャンが好きになるようだ。

「ねえ、あの人。ルード・バグマンだよね?」
「本当だ」
「あの二人がきっと組織したんだわ」

物珍しさに周囲を見渡している内に、テーブルの上の料理は変わりデザートが現れた。もう散々食べた後だが、デザートは別腹。
ハーマイオニーと共にあれも美味しいこれも美味しいとどんどんお腹を膨らませていった。

「時は来た」

空気が変わった。アルバスがにっこりとみんなに笑いかけ、バグマンとクラウチ氏の紹介をした。

「参加三校から各一名ずつの代表選手。その選手は課題をどうこなすかによって採点され、三つの課題の総合点が最も高い者が優勝杯を獲得できる。代表選手を選ぶのは…」

アルバスが杖を取りだし、綺麗な木箱の蓋を三回叩いた。
中から現れたのは、青白い炎が溢れんばかりに踊っている木のゴブレット。

「炎のゴブレットじゃ」

あと24時間の間に、名前と学校名を書いた羊皮紙をあのゴブレットに入れる。それだけの行為だが、とても重圧を感じる。

夕食を終えた大広間の入り口で、ダームストラングの生徒を先導したカルカロフとかち合った。

「ありがとう」

道を譲った所でお礼を言われ、カルカロフが何気なくハリーの顔を見た時、カルカロフの動きが止まった。

ダームストラングの生徒たちも足を止め、カルカロフの目線を追い、ハリーを見つめる。その内の一人がハリーの傷痕を発見し、はっと何かに気付いた表情を見せた。

「ハリー・ポッターだ」

ダームストラング一行の後ろからムーディの声が響いた。

「お前は!」
「ポッターに用がないなら退いたらどうだ。道を塞いでいる」

そういえばムーディは元闇祓いで、カルカロフは元死食い人。カルカロフをアズカバン送りにしたのはムーディではなかっただろうか。

先日セブルスが言っていたが、詳しくは話さなかったとは言え、ピーターは昔の私について何か知っているような雰囲気だった。カルカロフも例外では無い。
子供の格好をしている時は人相も違う為そう簡単に見付け出される事は無いだろうが、名前もあまり知られない方が身の為かもしれない。



次の日、普段はゆっくりと起きる土曜日だったが、私達はいつもよりずっと早く起きた。同じような生徒は他にも沢山いて、玄関ホールにあるゴブレットを囲んでいた。

「名前書いた羊皮紙、持ってきた?」
「もちろん!」
「コウキ、本当に入れないの?」
「ええ、私はあなた達の中から選ばれる事を願っているわ」

ハリーとロンがゴブレットに羊皮紙を入れると、真っ赤な炎を吹き出し火花を散らした。
きっと、大丈夫。何かあってもアルバスやシリウス、リーマスに私だっているのだから。

朝食を食べた後、私はそのままリーマスの部屋へと向かった。

「やあコウキ、久し振り」
「ひ、久し振りって言わないで…」
「どうしてだい?」
「だって…全然会いに来れなかったから…」
「気にする事は無いよ、お互い忙しいんだから」
「そうだけど…昔だったら、毎日一緒だったのにね」
「そうだね。でも、同じ場所に君がいるだけで私は安心して毎日を過ごせるよ」
「ありがとう、リーマス。私もよ」

紅茶を飲んでソファで寛ぐ。相変わらず変な生き物が部屋を占領していたが、リーマスの傍にいるだけで色んな悩みが遠くなっていくのだから、やはり彼は私のコントローラーか何かなのかもしれない。

「さっきハリー達がゴブレットに名前を入れてきたの」
「誰が選ばれるだろうね。君の予想は?」
「ううん…ハリーか、セドリックかな。そこに私が影響しないように参加はしなかったのだけど」
「もう君の知っている対抗試合じゃないんだったね」
「そう。だから…うん、何事も無く進んでくれればいいのだけれど」

ソファから足をだらりと投げ出し、チョコレートを摘まんだ。何か忘れている気がして、水槽に浮かぶ不思議な生き物を見る。変な顔だ。

「…あ!」
「うん?」
「リーマス、お菓子まだある?」
「今の手持ちはこれだけだけど…何か食べたかった?」
「うん、食べたいもの、ある」

皆対抗試合の事ですっかり忘れているのだろう。私は今日使うべき魔法の言葉を思い出した。

「trick or treat」
「…参ったな、忘れていた」

思わずガッツポーズで立ち上がる。今年こそ、勝てる!
前回、と言ってもリーマスからすれば何十年も昔の話だが、あの日の出来事を一矢報いる日が来たのだ。

「じゃあ勿論、悪戯だよね!」
「恐ろしいな」

隣に座っていたリーマスにのし掛かり、にひひ、
と下衆い笑みを漏らした。引きつった笑顔を貼り付けたリーマスの唇に、噛み付くような口付けをする。

「…君の悪戯は甘いな」
「チョコレート食べたから」
「仕返しをしたい所だけれど、私にとってお菓子は君だからね。君の悪戯を甘んじて受けようか」
「い、いや、も、終わり。終わりだから、離して?」
「嫌だと言ったら?」
「アクシオでセブルスを呼ぶかな」
「はは、狡いな」

腰を撫で始めたリーマスを小突き、膝から降りる。
リーマスが驚いたのは一瞬で、何だか結局翻弄されたのは私だ。いつか、リーマスを翻弄出来る日が来るのだろうか。

今年のハロウィン・パーティはいつも以上に豪華な物だった。ここ毎日料理も濃く、これだと見ているだけで胃が凭れそうだ。
そろそろ質素な料理が並ぶ机を一角に作って欲しい頃合いだ。

「さて」

アルバスが立ちあがり、声を発する。
興奮状態の生徒が頂点へと達しそうだ。

「名前を呼ばれた選手は、大広間の一番前へ、そして隣の部屋へ入るように」

アルバスは職員テーブルの横にある扉を指さし「そこで指示がある」と言った。
杖を一振りすると、かぼちゃの蝋燭以外が全て消え、ほぼ真っ暗な状態となった。そんな中、炎のゴブレットはひときわ輝き、踊るように炎を吹いている。

「来る」

誰かがそう言った瞬間、ゴブレットの炎は真っ赤に燃え―――一切れの羊皮紙を吐いた。

「ダームストラングの代表選手は―――…ビクトール・クラム」

大広間に割れんばかりの拍手と歓声が響いた。スリザリンの席から立ちあがったクラムは、中央に立った後、隣の部屋へと消えた。
再びゴブレットの炎が赤く燃える。

「ボーバトンの代表選手は―――…フラー・デラクール!」

あのヴィーラのような美少女は、席を立ち、結う様に席の間を抜けて同じく隣の部屋へ消えた。
…そして、今までにない沈黙、まるで部屋中静電気が起きているかのようにビリビリとする雰囲気。
次は―――ホグワーツ代表だ。

「ホグワーツ代表選手は…」

皆のごくりと唾を飲み込む音が聞こえるようだった。ぎゅっと、ハーマイオニーと繋いだ手を握り合う。

「ハリー・ポッター!」

どっとグリフィンドール席が動くほどの歓声が轟いた。皆でハリーを押し潰す。これまでに無い騒ぎ様だ。
ハリーが何とか攻撃とも言える祝福から抜け、職員テーブルの横を過ぎた時だった。
―――…ゴブレットからもう1枚、羊皮紙が吐き出されたのだ。
全員が静まった。
何が起こったのか、と。

アルバスがその羊皮紙を掴み、何度も読み返したように見えた。

長い長い沈黙の後、
アルバスと目が合った。

…嘘でしょう?

「コウキ・ダンブルドア!」

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