はじまりの声

シリウスからの手紙が届き、返事を書く幸せそうなハリーを見ているとこちらまで嬉しくなる。シリウスの無罪が証明されて本当に良かった。

あの禁じられた呪文を目の前にしてから、ハリーは何か深く考えている素振りを見せていたが、シリウスに相談しているのか、日に日に笑顔が戻ってきていた。

そしてまた、闇の魔術に対する防衛術の授業が始まる。

「今日は一人一人に『服従の呪文』をかける」
「え!?」
「お前たちがこの呪文に抵抗する力を持っているかどうかを試す」

その場にいる全員が、何を言っているのか理解できない、といった表情を見せる。勿論、私も同じだ。
その中で一人、ハーマイオニーが冷静に意見したが、ムーディに反対する術を持ってはいなかった。

「コウキ…」
「なんて授業なの、」

当然と言ってしまえば当然だが、クラスメイトたちがムーディの服従に対抗する事等出来ず、おかしな行動を繰り返している。誰一人として、抵抗できないのだ。

「ダンブルドア」
「…はい」

ムーディに呼ばれ、教室の中央に立つ。
計り知れない何かが、圧し掛かってくるように感じた。

「インペリオ!服従せよ!」

先程まで心身に嫌と言うほど溢れていた靄が消えた。ただ、出先のない幸福感に包まれる。視界もはっきりとはせず、不思議な世界を漂っている気分だ。
どこか遠くの方から、ムーディの声が聞こえた。

『踊れ』

確かにそう言われた。
しかし、そのまた奥から違う声が聞こえる。聞いた事の無い声だ。

「―――の元に、このような―――一族の恥となる」
「サラザール…しかし―――」
「この―――は力を持ち過ぎている、危険だ―――」
「―――この子は…!」
「―――――…!」

"コウキ!"

名前を呼ばれ、ぼやけていた視界が明確になる。
サラザール…?確かその名はスリザリン寮を作った創成者の名前だ。

「ダンブルドア?」
「…私に服従の呪文は、効かないみたいですね」
「…!見たか、お前達!ダンブルドアは、この呪文を破った!ここまで効かなかったやつは初めて見た!」

呪文が効かなかったというよりも、あの会話に意識を持って行かれていた、という方が正しいだろう。
男性の声は、確かにサラザールと言っていた。何故、そんな人の名が?

「次の授業で磔の呪文を受けなきゃいいけどね…」
「もう、僕フラフラだよ…」
「結局抵抗できたのはハリーとコウキだけだったな。どうやってやったんだ?」
「僕は、ムーディじゃない声が、多分、僕だけど…その声がやめろって」
「そうなの?私はムーディの声しか聞こえなくって…ああ、もう嫌だわ!コウキは?」
「私はそうだなあ…多分、体に直接作用するような魔法じゃなきゃ、効かないんじゃ無いかと思うよ。憶測だけど」
「どうやったって貴女の真似は出来ないって事ね…」

不安にさせてはいけない。まだ、彼等には言うべきではない。確信を持ちたいのだ。
ふと、組分け帽の言葉を思い出す。彼もスリザリンを推し、スリザリンに適した杖もまた私を選んだ。ヴォルデモートの血肉で作られたからという理由だけで無く、何かもっと深い部分。私がスリザリンに籍をおける理由があるはずだ。

リーマスかセブルスに頼み、もう一度服従の呪文をかけてもらおうか。また何か聞けるかもしれない。

「見て!」

ロンの声につられ、大勢の生徒が集まっている玄関ホールの掲示板に目を向ける。しかし、生徒が多すぎて何が書いてあるのかどころか、貼ってある物が何なのかすら確認すら出来ない。

「えーと…」

一番背の高いロンが背伸びをして掲示板に貼ってある紙を読み上げた。

「三大魔法学校対抗試合…ボーバトンとダームストラングの代表団が10月30日、金曜日、午後6時に到着する。授業は30分早く終了し―――!?」
「わ、あと1週間じゃない!」
「どんな人達なんだろうね?」



それから1週間、大量の宿題に頭を悩ませながらも、どこへ行っても皆対抗試合の話に華を咲かせていた。
城の中も至る所がピカピカになり、そこまで見栄を張らなくてもと苦笑する。

10月29日、校内の興奮はピークを迎え、消灯時間になるまであと少しという所でも、談話室に人が残っていた。

「あー…もう寝れないよ、目が冴えちゃって」
「ロンは子供ね」
「コウキだってはしゃいでるじゃないか!」
「嫌だね、ムキになっちゃって」
「ロンをからかうなんて事、滅多にしないのに。明日が楽しみなんでしょう?」
「ふふ、バレた?」
「あ、ヘドウィグ!」

ハリーが窓を開けると、手紙を持ったヘドウィグが入ってきた。急いで封を切ると、満面の笑みでハリーが読み上げる。

「シリウスが、対抗試合を見に来るんだって!ダンブルドアに招かれたって書いてある…やった!」

ハリーははやく対抗試合の日が来るようにと、男子寮へと駆けて行った。
それから間も無く監督生がやってきて、談話室に残った全員、強制的に自室へと入って行った。

遂にその日が来る。
杞憂であって欲しい、私の記憶違いであれと。
そう願いながら、深い眠りに落ちた。

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