お菓子はいかが?

あれから、皆に大変迷惑をおかけ致しました。具合が悪いと言い残し、次の日の昼まで部屋に引き籠っていた為、心配したジェームズ達が女子寮に入ってこようとするわ、マダム・ポンフリーを呼ぼうとするわで大変だったらしい。昼を過ぎて何とか精神的に立ち直り、談話室に出ていった時の皆の顔を思い出すと非常に申し訳ない事をしたと思う。

「コウキ、本当に無理しちゃ駄目だよ」
「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」

見回りを終え、みんなが寮に戻った夜の談話室でリーマスと暖炉の前で体を休める。そろそろ寒さが厳しくなってくる時期。見回りで冷えた体を温めてから戻ろうと提案した所だ。

「そうだ、これあげるよ」
「うん?キャンディ?」
「疲れた体には糖分だよ。沢山あげるから、一気に食べちゃ駄目だよ」
「ありがとうリーマス」

両手にいっぱい渡されたキャンディをローブのポケットに突っ込む。明日から1つずつゆっくり食べる事にしよう。部屋に戻り、数個空きビンに入れ月夜に照らす。きらきらと光って宝石のように綺麗だ。折角リーマスがくれた物だから、こうやって少しだけ取っておこう。ビンをベッドサイドに置き、ゆっくりと体をベッドに沈めた。

…そして、今日はホグワーツがとてもかぼちゃ臭い。早朝に起きてしまった為、校内散歩を極め込んでいたのだが…どこへ行ってもかぼちゃの匂いがする。ええと、今日は何の日だったか…。談話室に戻って誰かに聞けばいいと思い、踵を返しグリフィンドール寮へ戻ると談話室にはリリーがいた。

「リリー、おはよう!」
「あら、コウキおはよう。どこへ行っていたの?こんなはやくに」
「早く目が覚めたから散歩していたの。ねえ、今日って何の「「Trick or Treat!!」」―――うわあ」

背中に衝撃を感じ、振り返ろうとした瞬間がっちり両腕を捕まれた。ぐえ、と瞑れた蛙のような声を出した私を拘束したのは勿論悪戯仕掛け人。

「やあ、リリー、コウキ!Trick or Treat!」
「朝から騒がしいのよ、もう」

何の事だか今だ理解していない私を尻目に、リリーはジェームズとシリウスにお菓子の袋詰を渡していた。……ええと……………あっ!

「あああ!今日ハロウィンだ!」
「なんだい、コウキ。今気付いたの?」
「じゃあ、お菓子は用意してないって事だよな?」

ニヤリとシリウスが笑い、ジェームズと顔を見合わせた。悪戯仕掛け人の為の日とも言える今日を忘れていたなんて一生の不覚。だって!私!日本人ですし!

「トリックー?オアー?」
「わああ、あるよ、あるってば!」

ローブのポケットに入っていたキャンディを二人に渡す

「なーんだ、おもしろくねーの」
「面白くなくていいよ…ジェームズとシリウスに悪戯されるなんて、まっぴらごめん」
「それは、誉め言葉かな?」

間一髪、昨日リーマスがくれたキャンディを一粒ずつ渡す。ケチ臭いがお菓子に変わりは無い。ああもう、まだ私は一粒も食べていないのにと溜息をつくが、悪戯されるよりはリーマスのお助けだったと思う方がいいだろう。もしかしたら、私が忘れている事を考慮して沢山くれたのかもしれない。

「さ、はやく朝食を食べに行きましょう」
「リーマスとピーターを呼んで来るよ」

朝から魔の台詞をぶつけられ、リーマスのキャンディで対抗する私。そんな図が各所で見られた1日だったが、そんな事よりも本日の最終授業にして最大の難関、魔法史。授業中が唯一の心休まる場だったのだが、如何せんこの授業は休まり過ぎてしまう。

「ふあ…」

眠気を少しでも覚まそうと周囲を見渡すが、視界に映る殆どの人は机や羊皮紙に突っ伏し眠りこけている。私も非常に眠い。いつもならその欲求に従うのだが、たまには起きていようと無駄な努力を実行している。ふと隣を見ると、リーマスも起きていて、細めた目で黒板を見つめていた。

「リーマス」

小さな声で話しかける。

「なんだい?」
「昨日、ありがとう。キャンディくれたのって、私が今日ハロウィンだって事忘れていると思ったからでしょ?」
「そうだよ。ジェームズ達が狙っていたからね」

にっこり笑ってリーマスは教科書を1ページ捲った。それなら、明日ハロウィンだよと教えてくれてもいいのではと思ったのだが、リーマスも悪戯仕掛け人の一員なのだ。こうやってちょっとしたジャブを挟んでくる。

「ハロウィンってあまり関係の深い物じゃなくて」
「そうなの?日本とイギリスでは行事が違うんだね」
「うん、こっちは楽しい行事は多くて素敵ね。去年は驚いたもの」
「付いていくので精いっぱいで、あまり楽しめなかったんじゃないかい?今年はうんと楽しめばいい」

にこりと笑ったリーマスにありがとうと返し、結局私も机に突っ伏した。

今日の夕食は、やはりパンプキン料理が多かった。天井には、コウモリが沢山飛んでいるし、ろうそくがいつも以上に怪しく揺れている。さまざまな顔のランタンも浮いていて大広間はハロウィン一色に染まっている。これでもかと夕食を鱈腹食べ、立ち上がって早々に後悔をしつつ大広間を出たところでリリーが声を上げた。

「どうしたの?」
「私、マクゴナガル先生に用事があったの!先に寮へ戻っていて?」
「一緒に行く?」
「ううん、大丈夫よ。少し時間がかかると思うから」
「わかった」

満腹になったお腹をさすりながら廊下を歩き、必死の思いで階段を上がる。後少しでグリフィンドール寮…という所で聞き慣れた声に呼びとめられた。

「コウキ」
「リーマス、どうしたの?」
「こんな時間に一人でいるなんて珍しい」
「確かに。リーマスも珍しいね?」
「君に言い忘れていた事があって」
「うん?」
「…Trick or Treat」
「え」

急な発言に驚き思考が停止してしまう。はっと我に返ってローブのポケットを探る…が、お菓子が見当たらない。…そうだ、みんな寄って集ってそのセリフを言うものだから、沢山あったはずのキャンディの在庫はもう無い。

「ええと…お菓子、無い…かも」

恐る恐るリーマスの顔を伺うと、ニコリと笑った。まずい、この顔は良からぬ事を考える者の顔だ。思わず後退りしたが、寮を目前としたこの廊下は狭い。すぐに行き止まりにぶつかってしまった。

「じゃあ、悪戯決定だね」
「え、ちょ、まっ…!」

ゆっくりと近付いてきたリーマスの手が振り上げられ、反射的に目を瞑った。すぐ傍に感じるリーマスの気配に体を固くしていると、頬に暖かな感触。耳元でふ、と笑う呼吸を感じ、体がだんだん熱くなる。

「ごちそうさま」
「リっ…リーマス!」
「さ、寮へ戻ろう」

リーマスは心なしか軽い足取りで寮を目指す。…例え頬であっても、リーマスにそんな事をされてしまったら動けるはずが無い。ずるずると壁伝いに腰を落し、遂には情けなくへたり込んでしまった。

「リーマスのばかー!」
「ほら置いていくよ」

抱えるように私を立ち上がらせるリーマスの腹部に鉄拳を埋め込む。うぐ、と呻いたがそんなの気にしている場合ではない。やられてばかりでたまるかと、しゃがみ込んだリーマスを見下ろすように立ち上がり、息を吸う。

「っ…とりっくおあとりーと!」
「はい、お菓子」
「なっ…!」

私は一生彼に勝てないのだろうと悟った。


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