望んだちから

ね、眠い…

「これは…まず、い…」

監督生の特権とダンブルドアの名前を最大級に利用し、魔法薬学の空き教室をリフォームした研究所のような部屋の使用許可を貰えた。そこで、脱狼薬もとい強力な睡眠薬の研究を始めた。…始めたんだけれど、も!

「トリカブトか…」

確か、大人になったセブルスが作っていた脱狼薬は、トリカブトよりもう少し優しいものが材料だった気がするのだけれど…これでも手元に揃えた本は、何冊かしか出版されなかった世にも珍しい脱狼薬の調合の仕方が載っている本。その内容がこれでは、まだこの時代では脱狼薬の発展は望めない。というより、セブルスが開発したんだったか?

「まいったな…」

材料は準備出来るが、素人の私が作るトリカブト入りの薬をリーマスに飲ませるという行為が既に恐怖でしかない。もう少し、自分でも知識をつけないと本当に危険だ。消去法で先に睡眠薬の調合を始める事にした。それこそ、魔法薬学を十二分に習得した者にしか出来ないような、とても都合の良い睡眠薬を作る気だ。

鍋のグツグツと言う音と、本のページをめくる音ばかりが響いていたこの部屋に、大きな衝撃音が鳴り響いた。強い眠気に襲われ、なす術もなく床へと倒れ込む。決して調合は間違ってはいない。鍋の中身も、本に載っているようなきつい青緑の見た目の割には水のようにさらりとした液体が入っている。

一つ忘れていた事。ページで言えば目次の次。毒々しいアテンション文字の下で注意躍起されている”この睡眠薬を調合するときは、必ず防護マスクをする事”の字列。初歩中の初歩であるにも関わらず、私はマスクをしていなかった。

―――…

「ん…」
「もう来ないんじゃなかったのか?」
「!…リドル…」

気がつくと(というのはおかしいかもしれないが)あの闇に浮かぶ夢の中にいた。リドルは不敵な笑みを浮かべ、倒れ込んだままの私を見下ろしていた。

「…丁度良かった、あなたに、聞きたい事があるの」
「俺に答えられる範囲なら、聞こうか」
「貴方は分霊箱なの?」
「違う。俺はお前で、お前は俺だ」
「私は、ヴォルデモート、なの?」
「俺がヴォルデモートなら、そうなるな」
「この力は、私の物なの…?」
「お前の物でもあり、違う物でもある」
「…あなたは、ここで誰を待っているの」
「もう十分だろう」

方向感覚など存在しない場ではあるが、リドルが向こう側へと歩いて行く。数歩進んだ所で姿は見えなくなってしまったが、振り向いたのだろう。闇の中で光の無い目が私を捉えた。

「もう一つだけ教えてやろうか」
「なに…?」
「もうここには、甘ったれた考えの半身はいない。お前を、闇に引きずり込むのみだ」
「…私は絶対に闇に屈しない」
「お前は、俺の思うがままに動いている。精々肥えておけ」
「私は…!」

―――…

「っう!?」

頭に激痛が走り一気に覚醒する。わかった。わかってしまった。私の存在する意味を。私はやはり、ヴォルデモートに作られた傀儡…嫌だ、嫌だ!私が、闇に属しているなんて…いや…!

私は、ヴォルデモートの使いだ。私がここに呼ばれた本当の意味はわからないが、肉体と引き離された私の魂は確実にヴォルデモートに引き寄せられ、体と、魔力を与えられた。ホグワーツに落ちたのは、偶然だったかもしれない。だが、幸か不幸かヴォルデモートの最大の敵であるダンブルドアがいるホグワーツに入学してしまった。

どうしたらいい?私はここで自害するべきか?ここにある大量の睡眠薬に少し違った材料を混ぜれば間違い無く猛毒へと変化する。でも、私が人間じゃなかったとしたら?実体はあるが、魔法で作られた傀儡、ただの器かもしれない。もしそうならば、私は魂を殺さなければならない。

いや、落ち着け。自害するばかりではない。このままホグワーツにいて、もっと沢山の力をつけて、ヴォルデモートをも超越する力で奴を倒せばいい。とにかく、このままでいるわけにはいかない。今出来る事をしよう。ヴォルデモートが近くにいるわけではない。

夢を見ていたのは一瞬のようで、鍋の中身が変化している様子は無かった。魔法をかけた防護マスクをつけ、空き瓶に中身を詰めた。密封さえしてしまえば、いつまでも効果を発揮する薬だ。…私がいつまでこの薬を作っていられるか、わからないから。

今日はもう何も考えたくなかった。大鍋を綺麗にし、本を整頓してから重い足取りで部屋を出る。早々に寮へ戻り、具合が悪いとリリーに伝え直ぐに眠る事にした。目蓋を閉じてからは何の夢を見る事も無く、深い眠りへと落ちていった。


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