過ぎ去りしおもいで

リリーに打ち明けよう。
覚悟を決めて、私はリリーが潜っているベッドの端に腰掛けた。視線がやたらに泳ぎ、落ち着かない。そんな私を見兼ねたのか、リリーが私の手を取り優しく握った。それから暫く、中々言葉を発さない私の手を優しく包み、何も言わずにただ待っていてくれた。

「リリー」
「なあに?」
「…今まで、黙っていてごめん」
「あら、別に私たちもコウキの秘密を聞いたりしなかったんだもの、謝る事じゃないわ」

きっと、みんな違和感に気付いているのだろう。鋭い人達だ、私なんかが騙し続けられるはずなど無かった。腹を括り、一息で言ってしまおう。

「あのね、私…この世界の人間じゃ無いの」
「それは、どういう意味?」
「私は、もっとずっと未来の世界から来たの。時代を、時空を…越えてここにいる」
「なんだか…想像も付かないわね」
「信じられない事だと思う」
「あなたが本当だと言うなら、信じるわよ?もちろん」
「私が、変だとか、怖いとか…思わないの?」
「…そうね。人より魔力がとても強くて、勉強も出来る。苦手な事といえば古代ルーン文字くらいで、誰とでもすぐに親しくなれる。誰もが羨む存在で、それなのに誰からも恨まれない。どこか遠くを見据えるような素振りは、まるで遠い誰かを想っているみたいで―――…そうね、普通とはかけ離れた存在だったわ」

どくどくと胸が早鐘を打つ。続く言葉に期待と不安とが混ざり合い、冷や汗が背筋を流れた。リリーは視線を外さずしっかりと私の目を見ながら、両手で強く私の手を握った。

「でも、誰よりも勉強して、努力している。遠くにいると思ったら、目の前にいるリーマスに告白も出来ないで恥ずかしがっているただの女の子よ」
「え…?」
「どこから来ても一緒よ。マグルの世界で育った私には、魔法っていう存在が既に異世界だもの。言い方が悪いかもしれないけれど、私にとっては小さな事よ」

先程まで苦しかった胸は、より一層苦しくなって、涙が溢れた。今はただ、こうやって信じてくれている人に嘘を付いていた自分が悔しい。私の中で必要悪だったとしても、それは結局言葉を変えれば裏切りなのだ。

「きっと、ジェームズ達も同じ事を言うわよ?あの人達なんて、特に。きっと人間じゃなくても仲良くなれば友達なんだから」
「全部、嘘だったんだよ?病気の事とか、親の事とか…」
「仕方ないわよ、そうせざるを得なかったのだから。今ここで話してくれた。その事実の方が大切よ」
「うん、うん…リリー、ありがとう…」
「ふふ、泣いて目を腫らせてしまったら、私がリーマスに怒られちゃうわ」
「本当に有難う…リリー、大好き」
「ばかね、私の方が大好きよ」

このまま幸せな時が永遠に続いて欲しいと思うのは、間違いなのだろうか?私の体を蝕むものは、一体何なのか。未来を変える事は出来ないのだろうか。では、何故私がこの世界に来たのか―――リドルに…話を聞かなければならないのかもしれない。



すっかり泣き疲れていつの間にか眠っていたのだが、廊下に気配を感じ目が覚めた。まだ外は暗い。気配の正体を知るため、ドアを開けて廊下に顔を出すと、壁にもたれ掛かっているリーマスがいた。

「リーマス?」
「ああ、コウキ…もう起きたのかい?」
「今目が覚めて…どうしたの?」
「ちょっと、外に出ない?」
「外?」
「うん。少し、話をしないかい?」

みんなを起こしてしまわぬよう、静かに玄関から外へ体を滑り込ませた。広い玄関スペースに腰を下ろしたが、どちらとも口を開かず、風の音だけが耳をくすぐる。

「どうしたの?リーマス」
「…どうしたのかな」
「何か、あった?」

歯切れの悪いリーマスに不安が沸き立つ。彼だって普通の人なのだからそんな事は当たり前なのだけれど、体育座りの体制で頭を抱えたリーマスはどう見てもいつもとは違った。

「君が倒れたとき…ジェームズ達がね、僕とコウキはどこかで繋がっているんじゃないかって、言っていたんだ」
「ああ、私にも言ってた。私も、そんな気がした」
「コウキの声がずっと聞こえていたんだ。不思議な話だよね」
「うん…」

このまま、リリーに伝えたように私の事を話すべきなのだろうか。私が普通でない事など、きっとリーマスは気付いている。でも…まだ言えない、言いたくない。リーマスは、本当の事に気付いてしまう気がするから。

「コウキ、僕、君に話していない事があるんだ」
「リーマス…?」
「まだ、僕にはそれを言う勇気が無い。こんな話をして、ごめん」
「…いいの。待ってるから、ずっと」
「君ならそう言ってくれるだろうって、ずるいな僕は」
「あのね、リーマス」

互いに隠し事があり、互いにその事実に勘付いている。なのに、否定されるかもしれないという恐怖が言葉を喉元で止めてしまう。それだけ大きな存在になっているのだ。リーマスに拒絶されてしまったら、そう考えるだけで背筋が冷えるのを感じる。

「私もね、リーマスに言ってない事があるの」
「そ、っか」
「ごめん…」
「いいや、僕も待ってる。ずっと」
「ありがとう」

このままこの想いを伝えられたらどれだけ楽になれるんだろう。嘘を付くのも、真実を告げるのも、私がここからいなくなってしまうかもしれない事も。それなのに、この気持ちを伝えるなんて、当たって砕けるにしても卑怯だと思ってしまうのだ。

「コウキ、ちょっとこっちきて」

おいでと手招きされ、傍に寄ると後ろからリーマスに抱き締められた。少し驚いて肩が竦む。嬉しさと恥ずかしさで動けず、そのままリーマスの腕の中に包まれた。
二度目の沈黙。リーマスの香りを胸いっぱいに吸い込んで、このまま時が止まればいいと願った。

「ごめん、ありがとう。そろそろ入ろうか」
「うん…」
「じゃあ…おやすみ、コウキ」
「おやすみ、リーマス」

部屋のドアを閉めて、そのままドア伝いにずるずると腰を落す。まだ背中にリーマスの温もりが残っている。静かな空間に、私の鼓動だけが一定の音を刻んでいた。伝えたい、受け入れて欲しい。溢れそうになる感情を必死に抑える。

「リーマス…すき、だよ」


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