the beginning.03




 雨が降っていた。霧のようなそれは一見気にならないくらいの量だったが、じわじわと少しずつ身体を湿らせていった。
肌に張り付くTシャツが不快だ。額から頬を伝い流れるものが、雨なのか汗なのか区別がつかない。
いつの間にか髪の毛はびっしょりと濡れ、毛先からしずくが落ちた。
榛名は左手で前髪をかき上げる。
 ペースを崩さず、淡々と走りながらも視線はあの黒髪を探していた。
土手にはレインコートを着て犬を散歩させる人が二人、左手に見える住宅街の路地には赤と黄色の傘がひとつずつ見えるだけだった。

(雨降ってるし、今日はいないか)

 若干気落ちしながらも足は澱みなく動く。土のうえにできはじめた小さな水溜りを跨いだ。


 帰宅してすぐに風呂場へ直行した。それなりに長い時間、距離を走っていたが、雨に濡れた身体は冷えていた。
脱いだ服を洗濯機へ放り込み、すぐにシャワーを浴びる。熱いお湯が心地良く、肩の力が抜けていった。
湯船に浸かってふくらはぎをマッサージしながら、今日はあいつに会えなかったなと思った。
 初対面の、しかも名前も知らない男がここまで気になるなんて、と自分でも驚いていた。
つい気になってキョロキョロと辺りを見回してしまう。ランニングの邪魔とまでは言わないが、集中力が欠けているのは否めなかった。
ただ走るだけとはいえ余計なことばかり考えていてはケガに繋がりかねない。
このままじゃダメだと思いながらも、明日は会えるといいなと考えてしまった。
こめかみを伝うお湯が、音をたてて湯船に落ちた。





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