いちごミルクの憂鬱
※7組というか水谷と阿部の話
「今日の練習メニューなんだけど」
「あぁそういえば朝モモカンに呼ばれてたな」
また始まった。
水谷は口に含んだいちごミルクをごくりと飲み込み目を細めた。
同じクラスの花井、阿部、水谷は基本的に一緒に行動している。
昼休みは一緒に弁当を食べながら他愛もない会話をし、クラス内でグループを作るときは同じグループになる。
しかし他に友人がいないわけではなく、別々の友人と行動しているときもあるのでべったりとした印象はない。
特に人当たりの良い水谷はクラス外にも友人が多かったりする。
水谷はつまらないオーラを全面に出して放課後の練習の話をする二人を見つめるが相変わらず蚊帳の外である。
たまにクラスの女子から「野球部って仲良いよね」なんて言われたりするのだが、こうやって二人の会話が始まってしまうと水谷は会話に入れない。
百枝の厳しい練習から脱落もせずに毎日頑張っているだけあって、周囲からすれば水谷もそれなりに野球バカだ。
しかしそれ以上に野球バカなのが花井であり、阿部だった。
花井は真面目な性格ゆえに主将・5番打者という大任をまっとうするため人一倍努力しているし、阿部は阿部で野球以外頭にないかのような野球一色人間である。
(俺だって野球好きだし、努力だってしてるつもりだけど…)
心の中で呟くが、やはり疎外感は否めなかった。
(花井も阿部も、俺のことどう思ってんだろ)
考えて、少し胸が痛んだ。
「おい、んな辛気臭ぇ顔されてたら迷惑なんだけど」
バシッと頭を叩かれる。
「痛っ」後頭部をさすりながら振り向くといつの間にか話を終えて自分の席に戻ってきていた阿部が「阿部ノート」と表紙に書かれたノートを手に持ちこちらを見ている。
ごめん、と言って視線を伏せた水谷に眉を顰めた。
「どうせまたツマンネーこと考えてたんだろ」
阿部の言葉にムッとした。
お前にとってはつまんねーことかもしれないけど、俺にとってはけっこう重大なことなんだ、と口から出かけた言葉を飲み込む。
「俺さ、いつもヘラヘラしてるって思われてんだろうけど、悩みくらいあんだよ」
阿部の目を見て言う。阿部に打ち明けて、何を言ってほしいんだろう。
水谷の目をまっすぐ見返した阿部が口を開く。
「お前がヘラヘラしてるとかそんなこと、べつに思ってねぇよ」
それより腹減ったな、なんて自分のカバンを漁りだした阿部の横顔を水谷はポカンとした表情で見つめた。
心臓がドクドクと脈打つ。顔が赤くなるのを感じた。
思い切って口を開く。
「あ、阿部も花井もさ、いっつも二人で難しい話してんじゃん。話に入れなくてフミキ寂しい!っていうかね、」
「は?」
再び交わった阿部との視線に言葉が詰まる。
「同じ野球部なんだから、おめーも入ってくればいいじゃん」
「むしろお前はもっとちゃんと話を聞け」
いちいちそんなこと言わせんなとばかりに面倒くさそうな顔をして言う阿部に、水谷は鼻の奥がツンとなるのを感じた。
(え、え、俺が勝手に仲間外れって思ってただけかよ!)
思わず口元が弛み、込み上げてくる笑いを堪えきれず笑いだした。ガバッと阿部に抱きつく。
「あはは、阿部ちょー大好き!阿部も俺んこと好きだよね!野球部仲良しだもんね!」
阿部は水谷のいきなりの行動に目を見開き「ハァ?!クソレなんか好きじゃねーよ!」と水谷を引き離しにかかるがなかなかしぶとい。
「おい教室で暴れんな!それと水谷は誤解招くようなこと大声で言ってんなよ!」
慌てて近づいてくる花井に、水谷の笑顔はさらに深まるのだった。
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花井が空気
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