いつかこの優しい未来を[1]
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「はーじめーっ、お待たせー!」

そう言って駆け寄ってくる、白いワンピース姿のナマエを見て。
あまりの眩しさに、眩暈を起こすかと思った。




出会いは、高校時代まで遡る。

僕の幼馴染み、と総司に紹介され、初めてナマエと顔を合わせた。
小動物を連想させる、小柄であどけない女子生徒。
最初は、総司の幼馴染みにしては随分と可愛らしいのだな、という程度にしか思っていなかったように思う。
いつからだったろうか。
総司に押し切られる形で剣道部のマネージャーとなったナマエに対する思いが、友情から恋情へとその色を変えたのは。
ずっと、純真無垢で人を疑うことを知らぬナマエを守る、兄のような心境だと思っていたそれが。
一人の男として、彼女に焦がれているのだと気付いたのは。

恐らくは、卒業を意識するようになった頃だった。
気の置けない仲間と、ナマエと。
共に過ごす日々が間もなく終わるのだと、そう実感し始めた頃。
一抹の寂しさに紛れた、胸を焦がすような感情。
それは、生まれて初めて感じた恋心だった。

だが結局、卒業までに想いを告げることなど出来ぬまま。
俺は大学に、ナマエは服飾系の専門学校にそれぞれ進学した。
しかし卒業してからも、俺たちは頻繁に顔を合わせた。
無論、二人きりなどではない。
総司や平助といった同窓の友人らと共に、俺たちは良く食事に行ったり旅行に出掛けたりした。
全員が成人してからは、新八の経営する居酒屋に集い酒を飲むのが、金曜日の夜の恒例行事となった。
その席には、剣道部の先輩であった土方さんや左之も同席し、毎週賑やかだった。

機会は、数え上げれば切りがないほど幾度もあった。
無論それぞれの付き合いや仕事の都合もある故に、毎週必ず顔を合わせるわけではない。
だが、一ヶ月以上顔を見ないということはまずなかった。
今夜こそは、と。
それこそ毎度のように、そう決心して居酒屋の暖簾をくぐった。
そしてその度に、決意を挫かれてきたのだ。
ナマエの、誰とでも分け隔てなく接する無防備な態度によって。

剣道部の面々に、ナマエはとても懐いていた。
良くも悪くも人を疑うことを知らぬナマエは、警戒心など欠片も持たず、周囲が全員男だというこの飲み会で、毎回のように平気で酒を飲んだ。
極端に弱い方ではないが、そう強くもなかった。
酔っ払っては平助と肩を組んで歌い、総司に抱きつき、左之に甘え、そして土方さんの膝に乗って眠った。
皆、そのようなナマエに対して口先では呆れた言葉を吐きつつも、本当は心の底から大切に思っていた。
無論俺も、酔い潰れて俺の胸に凭れ掛かってくるナマエを、愛おしく思っていた。
本当は、抱きしめたかった。
抱きしめて、好きだと伝えたかった。
それでも臆病な俺は、その心地良い関係が崩れることを恐れた俺は、肩にそっと触れることしか出来なかった。




「遅くなってごめんね」
「いや、構わぬ。俺も今来たところだ」

本当は待ち合わせ時間の30分も前からここにいたことなど、到底明かせぬ。
高校を卒業し、大学を卒業し、そして就職し。
俺を取り巻く環境は、目まぐるしい勢いで変わっていったにも関わらず。
唯一、ずっと変わらぬものがある。

「行こっか」
「ああ、そうだな」

ナマエを、愛おしいと。
大切だ、と。
そう思うこの心だけは、きっとこの先何があっても、変わることはないのだろう。



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