いつまでも輝き続ける貴方色[1]
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「此れで良かったか、」

その問いは、唐突に降ってきた。



朝餉の後、部屋に戻り簡単な身繕いを整えた。
首の横で軽く縛っていた髪を一度解き、結い上げて簪を挿す。
真紅から茜色、緋色、鉛丹色、黄丹、萱草色、花葉色、そして金色へ。
千景様に買って頂いた、あの簪だ。

一度、これを挿して一人で町に出た時に男の人に襲われ、恐怖と絶望を知ったけれど。
千景様は私を見つけ、救い出してくれた。
だからもう、怖いものなんて何もなかった。
そもそもあの一件以来、千景様は私に一人で出歩くことを許してはくれなかった。
そして千景様と想いを通わせた私ももう、一人で外出しようなどとは思わなかった。


「お待たせしました」

屋敷の門の外で待ってくれていた千景様のもとへ、小走りに近寄る。
千景様は私の姿を認め、その紅い瞳をす、と細めた。

「何処に行きたい、」

以前は、千景様の気の向くままに無言で出歩くだけだったのに。
今はこうして、私に行きたい所を訊ねてくれる。

「そうですね。天気も良いですし、鴨川の辺りまで行ってみませんか?」

冬の終わり。
まだ肌寒いが、お日様の射す場所はほんのりと暖かかった。
千景様は無言で頷き、ゆったりとした足取りで歩き出す。
もう、その三歩後ろ小走りに追い掛ける必要なんてない。
千景様の半歩後ろを、同じ歩調で歩いた。
私が時折小間物や景色に気を引かれて立ち止まれば、必ず千景様も立ち止まってくれる。
そこに、言葉はない。
けれども、私を急かすような素振りもない。
穏やかに目を細め、待っていてくれる。
その優しさが、私には嬉しかった。


鴨川の畔は静かで、川のせせらぎが心地良く耳に響く。
いつだったか千景様が見せてくれた夕焼けは、本当に美しかった。
あの時、私は決めたのだ。
この人に、着いて行こうと。
この人と、共に生きようと。
夕焼けに輝く金糸を見つめながら、そう誓った。

「ナマエ」

あの時とは異なる、昼前の穏やかな陽射しの中。
千景様が私を振り返る。
一歩近寄れば、千景様は私の頭に手を伸ばした。
しゃらん、と響いた音が、千景様が私の簪に触れたのだと教えてくれる。

「…此れで、良かったか?」

何だろうか、とその顔を見上げていると。
不意に、そう訊ねられた。



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