鈍感な恋のフラグ[2]
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その翌日。
いつもより少しだけ寝坊した朝、起きて一番にスマホを確認する。
そうすれば案の定、あいつからのメールが入っていた。


土方さん、おはようございます。
昨夜はありがとうございました。
お酒もお食事も、とても美味しかったです。ご馳走様でした。
また送って頂いてしまい、すみませんでした。
つい、楽しくて飲みすぎてしまいました。
こんな私でもよければ、また連れて行って頂けると嬉しいです。
素敵な週末をお過ごし下さい。


多分、俺がたとえ何をされてもあいつに嫌気が差さねえのは、このメールのせいでもあるだろう。
飲んだ翌日のこのメールは、毎回少しずつ文面を変え、必ず届く。
それこそ、最初の一回目からずっとだ。

流石の俺だって、あいつが毎回散々飲むだけ飲んで終わりな女だったら、途中で嫌になったかもしんねえ。
だがあいつは、必ず謝罪と感謝のメールを寄越してくる。
酔っ払った時とは全く違う、殊勝な態度で。
最初なんて、誰か別の人間が間違えて送ってきたのかと思ったほどだった。

あいつはあいつなりに、酒癖の悪さを自覚してるんだろう。
欠かさずに送られてくるメールは、毎回申し訳ないという気持ちが滲み出ていた。
それに絆されて全部許しちまうどころか、最近じゃ酔っ払った姿すら愛しく思えちまう俺は、もうどうしようもねえ。
毎回送られてくるメールを、特別に作った専用のフォルダに分類している時点で末期なんだ。

メールを二回読んでから、フォルダを移動させてスマホをベッドに放り出した。

想いを告げてえとは、いつも思っている。
それこそ、飲みに行く度に今日こそはと思っている。
だが結局毎回、あいつのあまりに無防備な態度に決意を挫かれる。
告白すんのは、別に構わねえ。
だが、あいつの返事が否だったら。
恐らくもう二度と、俺と二人きりで飲みに行きはしねえだろう。
いくら警戒心のねえあいつだって、流石に告白してきた男とのサシ飲みはしねえはずだ。
勝算の薄い賭けをするには、代償が大き過ぎた。

せめて、あの時間は。
他の誰にも邪魔されず、二人きりでいられる時間だけは。
失くしたくねえ。
そう思って攻めに出られねえ俺は、ただの臆病者だ。

だが、あいつも今年で25になる。
そろそろ本気で考えねえと、手遅れになってからじゃ遅えんだ。
あいつは今のところ好きな男なんざいねえ様子だが、いつまでもそうだとは限んねえ。
そもそも、酒癖の悪さを除けば非常にいい女の部類に入るんだ。
周りの男が放っておくはずもねえ。
そんなことは、ここ数年あいつに近付く男を裏から手を回して遠ざけている俺が一番良く知っている。
だが、それもいつまで保つかは分かんねえ。
今さら他の男に掻っ攫われるなんざ、死んでも御免だ。

「ったく、どうしろってんだよ」

手前に興味のない女を振り向かせるには、どうすればいい。
生憎俺は、散々追いかけられる恋愛なら山ほど経験したが、手前で追いかける恋愛は一度もしたことがねえ。
この年になって、告白の仕方すら知らねえ。
アプローチの仕方だって、恐らくこうだろうと実践してみちゃいるが、一向に効果が現れる気配はねえ。
俺のやり方が間違ってんのか、それともあいつが特殊なのか。
両方、か。

だが、もうこのままじゃいられねえ。
外的な懸念事項はもちろんのこと、そろそろ俺が限界だ。
毎度毎度、他愛のねえ会話に終始する飲み会。
せいぜい頭を撫でることでしか触れられねえ身体。
送り届けて帰るだけの、決して共に明かすことが出来ねえ夜。

もう、限界なんだよ。



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