何度でも貴方に恋をする[3]
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鎌倉駅に着いたのは、丁度お昼時だった。
お互いに朝食を食べていないことが分かり、だったらまずはランチにしようと決まる。
小町通りを歩き、土方さんの好みに合わせて和食をメインに扱う隠れ家風のレストランに入った。

お客さんの入りは七割程度で、空いていた奥のテーブル席に通される。
店内は和洋折衷の内装で、所々に配われた調度品がお洒落だった。

「楽しみですね」

注文を終えてから土方さんにだけ聞こえるようにそう言えば、穏やかな微笑が返ってきた。

「ごはんの後は、どこに行きましょうか」
「お前の、…ナマエの、行きたい所でいい」

照れ臭そうに言い直してくれた名前に、擽ったさが込み上げる。

「そうですねえ。せっかく鎌倉に来たんですし、鶴岡八幡宮は外せませんよね。あとは…」

歩いて行ける距離にあるお寺を、頭に思い浮かべる。
大巧寺に宝戒寺、浄光明寺もいいかもしれない。

「あ…土方さんは、甘いものは苦手ですか?」
「甘いもん?ケーキの類は好きじゃねえが、和菓子なら、」
「だったら、少し歩くんですけど、お勧めの甘味屋さんがあるんです。そこの餡蜜が…って、」

和菓子なら大丈夫と聞いて、すぐさまお気に入りの甘味屋の話を始めると。
不意に、土方さんが喉を鳴らして楽しげに笑った。

「私、何かおかしなこと言いました?」
「くく…っ、いや、な。今から昼飯を食おうって時に甘味の話かと思ってよ、」

笑い声に混じってそう言われ、一気に恥ずかしさが込み上げてきて咄嗟に俯いた。
確かにその通りだ。
これじゃ、ただの食い意地を張った女みたいだ。

「…ナマエ、」

名前を呼ばれても、熱を持った頬が気になって顔を上げられない。

「ナマエ、笑って悪かった。行こうな、そこ」
「……え?」

穏やかな口調につられるようにして、恐る恐る顔を上げれば。
土方さんが、愛おしいものを見るような目で私を見ていた。

「連れて行ってくれんだろ?」

その表情に、なぜか胸が締め付けられて。
言葉にならない思いの代わりに、必死で頷いた。

鎌倉野菜と魚をメインとしたランチセットは、とても美味しくて。
食後のお茶まで堪能してから、店を後にした。

「すみません、ご馳走さまでした」
「こんくらい気にすんじゃねえよ」
「ありがとうございます」

自分の分は払うと言っても、土方さんは聞いてくれなくて。
結局、ご馳走になってしまった。
お礼を言ってから、歩き出そうとして。
視界の端、土方さんが一瞬だけ顔を顰めた。
何だろう、と訝しんでから、思い当たる節に辿り着く。

「煙草、ですか?」

そう聞くと、土方さんは驚いたように私を見下ろした。

「何で…知って、」

確かに土方さんは、私の前でまだ一度も煙草を吸っていない。
きっと、気を遣ってくれているのだろう。

「…匂い、か」
「はい、少しだけ」
「悪い。落としたつもりだったんだが、」
「吸わない人の方が、敏感ですからね」

こっちです、と。
反対方向に歩き出す。

「ナマエ?」
「西口広場に喫煙所があるんです」
「……すまねえな」
「大丈夫ですよ」

心底申し訳なさそうな顔をされ、思わず笑ってしまった。

「それにね、ちょっと見てみたいんです」
「何をだ?」
「土方さんが、煙草を吸うところ」
「何だそりゃ。別に何も面白いもんじゃねえぞ?」

きっと本当に、意味が分かっていないのだろう。
土方さんは、さっきからすれ違う女の人が十中八九振り返るようなイケメンなのに、本人はまるで自分のことに無頓着だ。

「きっと、格好いいだろうなあって。そう、思うんですよ」

健康を考えたら、禁煙も検討してみてほしいとは思うけれど。
でもきっと、この人には煙草が似合う。
そう、思ったままを口にしたら。

土方さんは絶句して固まった。

「どうかしました?」

足を止めてしまった土方さんに倣って立ち止まり、その顔を見上げる。
涼しげな目元が、不意に赤く染まった。

「土方さん?」
「…………ああ、ったく、」

吐き出されたのは、小さな文句。
だけどその口調とは裏腹に、とても優しい目をしていて。

「お前にゃ敵わねえよ、ナマエ」

そう言って、土方さんは苦笑した。




何度でも貴方に恋をする
- いつか、それが愛に変わるまで -



あとがき


れいさあんっっ、ど…どうでしょうか?ドキドキ。
「一目惚れ連鎖」の続編とのことで、時系列的にどの辺りにしようか色々悩みまして。結婚前か結婚後か。結婚前なら、付き合いたて、結婚目前。結婚後なら、新婚時代、妊婦時代、子どもも一緒に。とか、色々なパターンを考えたのですが、結局土方さんを一番ヘタレな状態にするには付き合いたてがベストかと思いまして(そんなリクエストじゃなかったww)、初デートの様子を書いてみました。
視点もどちらで固定するか、散々悩んで。土方さん視点で、彼のヘタレな心の声ダダ漏れでいこうかとも思ったのですが。さすがにやりすぎかと思い、ちょっと鈍いヒロインちゃん視点で土方さんのもだもだを演出してみました。
お気に召して頂けると良いのですが…。

この度は、ファーストリクエストをありがとうございました(^^)




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