欠けていた最後のピース[1]
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「……ナマエ、か?」

その瞬間、実に4年振りの再会。


「…ち、かげ……?」

日本人離れした、金髪紅眼。
明らかにフルオーダーだと思われるブラックスーツに、ボルドーのネクタイ。
頭の天辺から磨き上げられた革靴まで、全てが高級感に溢れている。
これを普通の人が着たら、間違いなく分不相応に見えるだろう。
千景はそれを、あまりに卒なく自然に着こなしていた。

「久しぶり、だね」

相変わらず、年齢を推察しづらい容姿をしている。
20代前半と言われても、30代後半と言われても、どちらでも納得出来てしまう。
千景は以前から、年齢なんていう世俗的な物差しを超越した人だった。
それでも、あの頃よりも精悍さを増した顔つきに年月の流れを感じた。

「仕事か?」
「うん、そっちも?」

風間グループの頂点。
政界にまで影響を及ぼす、日本を代表する大手企業の社長ともなれば、この会場にいても何ら不思議ではなかった。

「愚劣極まりないパーティだが、これも仕事のうちだ」

その歯に衣着せぬ物言いに、懐かしさが込み上げる。
千景は自分の物差しで物事を測り、そして容赦なく取捨選択する人だった。

「…この後は?」
「………え?」

馬鹿馬鹿しい、と吐き捨てんばかりだった口調が、突然色を変える。
緩慢な喋り方には変わりないけれど、どこか含みを持たせた問い。
意味を推し量りきれずに聞き返せば、千景は顔を顰めた。

「パーティの後の予定は、と聞いたつもりだが?」

放っておけば、その耳は装飾品らしいな、とか、貴様の脳は随分と粗末な造りになっているようだな、とか。
そんな侮蔑を並べ立てられそうで、慌てて首を横に振った。

「分からない。どこまで引っ張り回されるか、」
「時間を取れるな?」

私は確かに、分からないと答えたはずなのだけれど。
人の話を聞いていないのか、聞いていたのに受け流したのか。

「いや、だからちょっとまだ、」
「空けておけ」

二度目の分からないは、千景の高圧的な命令口調に遮られた。
そう言い残し、千景は私に背を向けて歩き去る。
人混みに紛れたその後ろ姿を見送って、思わず溜息を吐き出した。

そういうところも、変わっていない。
いつだって、決定権を握っているのは千景だった。
強引で横暴で、自分勝手だった。
それでも彼が好きだった。
そう、好きだったのだ。

付き合っていた頃、確かにその頑なな性格が原因で喧嘩もしたけれど、でもそれが千景を嫌う理由にはならなかった。
私もたまにその独断で物事を進めるやり方に不満を持つことはあったけれど、言い換えれば彼のその判断力と行動力は長所でもあり、頼もしさを感じていた。

だけど4年前のあの日、私と彼の関係にはピリオドが打たれたのだ。



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