輝く世界の中心に[1]
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「もしもし、」
『ナマエ、俺だ』

待ち合わせ、30分前。
駅のホームで電車を待っていたら、バッグの中でスマホが震えた。

「千景さん」
『今、どこにいる?』

風間千景さん。
私がつい一ヶ月前まで勤めていた会社の、代表取締役社長。

「駅にいます。電車を待っているところなんですけど」
『…やはりそうか、』

素直に答えると、回線の向こうから唸るような低音が返ってきた。
これは遅刻かな、と想像していると。

『すまない、急な案件が入った。間に合いそうにない』

苦虫を噛み潰したかのような口調で告げられ、思わず小さく笑ってしまった。
知り合った当初は、顔を見ていたって何を考えているのかさっぱり分からない人だったのに。
今ではその声の調子だけで、どんな顔をしているのかも、どんな思いでいるのかも分かる。
きっと、かなり不本意なトラブルに巻き込まれたのだろう。

「分かりました。どこかで時間を潰してますね」
『必ずどこかに入っていろ、外では待つな。今日は冷える』

今から家に帰るのも億劫だと思いそう言えば、千景さんはすかさず忠告してくる。

「はい、分かりました」

血も涙もない鬼社長、なんて言われているくせに。
一体どうして、私にはとんでもなく過保護なのか。
一度、そこまで心配してもらう必要はないと言ってみたことはあるのだけれど。
当然のことをしているだけだと一蹴されて終わった。

『片がついたら連絡する』
「はい、待っていますね」

そう言って切れる通話。
私はスマホをバッグに戻しながら、タイミング良くホームに滑り込んで来た電車に乗り込んだ。

待ち合わせの駅で電車を降り、改札を抜けて駅前のショッピングビルに向かう。
ウィンドウショッピングをしてもいいし、カフェでコーヒーを飲んでもいい。
それとも、暇潰し用に本を買おうか。
そんなことを考えながら、人混みを避けてのんびりと歩いた。

結局、前から気になっていた文庫本を一冊購入し、カフェでカフェラテを注文した。
袋には入れず、カバーだけ掛けて貰った文庫本の表紙を捲る。
そんな日常的な仕草が、今は特別に見える。
薬指に光る、指輪のおかげで。

一粒のダイヤが輝くそれは、いわゆる婚約指輪と呼ばれるもので。
俗に、給料3ヶ月分なんて言われているけれど、果たしてどうなのか。
オーダーメイドだというこの指輪の値段を正確には知らないけれど、普通の人なら3ヶ月分あっても手が届かない気がする代物。
貰った時は思わず、失くすのが怖い、と呟いてしまった。
千景さんはそんな私を見て、失くしたらまた買ってやる、なんて言ったけれど、とんでもない話だ。

結婚指輪はシンプルに、恐々つけなくても良いものがいい、と。
そんな私の訴えで、結婚指輪は二人で見に行くことになった。
それがまさに、今日なのだ。



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