絡み合う熱情[5]「ナマエ、さん…」
唇に乗せた、愛おしい名前。
彼女は目を細めた。
「呼び捨てて、いいよ」
「……ナマエ、」
許された一線に、心が震える。
こうして一歩ずつ、近付いていけるのかもしれぬ。
「…あんたも、俺の名を、」
「うん」
彼女の声で、呼んでほしかった。
斎藤君、などという他人行儀な呼び方ではなく。
俺の名をその唇が紡ぐ様を、見たかった。
彼女の瞳を見つめながら、左手をネクタイの結び目に掛ける。
勢い良く引き下ろして首から外し、ワイシャツも脱ぎ捨てた。
次いでベルトを外し、スラックスを脚から引き抜く。
そうして彼女に覆い被されば、素肌が触れ合った。
体重を掛けないように気をつけながら、彼女を抱き締める。
額に、頬に、瞼の上に。
顔中に口づけを降らしていると、彼女の脚が俺の脚に絡み付いてきた。
触れる素肌の温もりに、胸が苦しいほど締め付けられる。
熱っぽく漏れた吐息は、果たしてどちらのものだったのか。
左手を下ろして彼女の太腿を弄った。
吸い付くような、柔らかな感触に酔う。
そうしているうちに、彼女は俺の耳元に唇を寄せてきた。
「…ん、」
微かな声と吐息が、直接耳に掛かる。
項の後ろが総毛立ち、脳が甘く痺れていく。
淫靡な音と共に耳の中に舌が入り込み、脳内を直接犯されているような錯覚を起こす。
耐え切れなくなり、下肢を彼女の太腿に押し付けた。
彼女のすぐ隣に寝転がると、すぐさま二人向かい合う。
片手で彼女を抱き寄せ、もう一方の手で下着の上から秘部をなぞった。
生地の上からでも分かる明らかなぬかるみに、無上の喜びが沸き起こる。
彼女が俺の手で感じてくれた証拠だった。
「…ひぅ…ん、ん…っ」
割れ目をなぞるように指を往復させると、彼女の喘ぎ声がより艶を増す。
俺の欲望は、既に痛いほど張り詰めていた。
身体を起こし、彼女の脚からショーツを剥ぎ取る。
そうして現れた秘められた場所に、俺は何の躊躇いもなく顔を寄せた。
これまで、この行為には若干の嫌悪感があった。
故に、指で慣らすのが殆どだった。
しかしそれが彼女のものだと思うと、溢れていく蜜の一滴すらも零したくはなかった。
全てが欲しかった。
「…ひゃあんっ、ん、ああ、」
しとどに濡れたその場所に、唇を寄せて口付ける。
溢れた蜜を吸い上げれば、彼女の喉から嬌声が迸った。
苦手に感じていたことが嘘のように、流れ落ちてくる蜜を啜る。
彼女の蜜は甘かった。
過去の味など覚えてはいないが、少なくともこのように美味なものではなかったように思う。
それとも、狂おしいほどの愛おしさがそう感じさせるのか。
伸ばした舌で立ち上がった粒を転がせば、彼女の腰が跳ねた。
「…あ、あ、あんっ、やあ…っ」
吸っても吸っても溢れ出てくる蜜を舐め取り、淫靡な音を立てる。
彼女の声と、彼女が感じてくれているという事実に、神経は灼き切れる寸前だった。
「ひゃああっ、んああ、ふ、ぅ…っ」
溢れ出た蜜を舌先に絡めて粒を擦れば、彼女の腰が逃げを打つ。
彼女の脚を己の肩に掛けてそれを阻止し、一層激しくむしゃぶった。
シーツにまで蜜が染み込み、秘部はしどけなく濡れている。
蜜壺が誘うように蠢くのを見、俺は人差し指を咥えて唾液を絡めてから中に差し込んだ。
「ああんっ、」
彼女の中は熱く、襞が俺の指を締め付ける。
この中に欲望を突き立てる想像をするだけで、血の巡りが一層勢いを増した。
指を奥まで押し込み、関節を少し曲げながら徐々に引き抜いて彼女の良い場所を探す。
「ひぅ…っ、あ、ああ…っ」
彼女の乱れる姿を見たいと思い、手をついてうつ伏せていた身体を起こした。
中を暴く指はそのままに、彼女を見下ろす。
そこには、髪をシーツに散らし、半開きになった唇から嬌声を上げてしどけなく乱れる姿があった。
濡れた双眸の先は宙を彷徨い、跳ねる腰と共に白い胸が震える。
彼女の右手は顔の側に投げ出され、もう一方の手は俺が先程脱ぎ捨てたワイシャツを握り締めていた。
「ナマエ…っ」
彼女の中に埋めた指の抽送が、より激しさを増す。
人差し指に加えて中指も共に差し入れると、彼女は顔を背けて背を浮かせた。
「や、ああっ、だめ、ああんっ」
喘ぎ声の中に拒絶の言葉を聞きつけ、思わず手を止める。
たとえ如何に彼女を乱し滅茶苦茶にしてしまいたいと思っていたとて、そこに加虐の意思は微塵もない。
痛い思いだけはさせたくないと、顔を覗き込んだ。
「痛むか?」
その時ばかりは正常に機能した理性はしかし、次の瞬間呆気なく霧散した。
「ちが…っ、も、ほしっ、いの…っ」
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