絡み合う熱情[2]
bookmark


寝室に鎮座したセミダブルサイズのベッドの端に、彼女が腰を下ろした。
ベッドサイドに置かれたナイトランプが淡い暖色の光を放ち、彼女の顔を映し出す。
陰影の中から俺を見上げてくる瞳の奥に、かつてないほどの欲情を見つけた気がして心臓が高鳴った。

彼女の太腿の脇に膝をつき、半身でベッドに乗り上げる。
左手を伸ばしかけ、ワイシャツの袖から覗く腕時計に気が付いた。
彼女を傷付けぬようにとそれを外し、無造作にサイドテーブルに乗せる。
改めて左手を頬に添えると、彼女は俯き気味に俺の手に擦り寄った。
その甘えたような仕草に、心臓を撃ち抜かれる。
顔を寄せれば、長い睫毛が影を落とす様までがはっきりと見えた。
左手を彼女の背に回し、右手をベッドに付いた。
奪うようにその唇に噛み付き、そのまま押し倒す。
白いシーツの上に、長い髪が散った。
彼女の太腿を跨ぐようにして乗り上げ、上からその身体を見下ろす。
ただベッドに寝かせただけで、彼女はまだブラウスもパンツも身につけたままだというのに、鼓動はすっかり落ち着きを失い暴れ回っていた。
まるで、心臓そのものが脳内に移動したかの如く、激しい心音を感じる。
彼女の頬に伸ばした手の先が、震えていた。

このようなことは、初めてだった。
まるで、性を覚えたての学生に戻ったような気分だ。
いや、その当時初めて女性と身体を重ねた時ですら、これほどまでに緊張してはいなかったように思う。
あの時感じた緊張は、初めて経験する物事に対する不安だった。
元来、物事には慎重に取り組む性質だ。
間違いがあってはならぬと、気を張っていた。
それは、交際をしている相手に対する欲情ではなかったように思う。

俺は元々、性欲に対して比較的淡白だったと自覚している。
女性と身体を重ねたことも、そう多くはない。
俺にとって性行為とは子孫を残すための手段であり、また女性と交際をする上で通過せねばならぬ段階の一つに過ぎなかった。
俺は行為に対し消極的であるばかりか、億劫にすら感じていたことは否めない。
もちろんだからといって、おざなりに事を片付けようとしたことはない。
女性を抱くときは相手を傷付けぬようにと注意したし、配慮を怠らぬようにと己に言い聞かせていた。
しかしそれは半ば義務感だったように思う。
セオリーとされる手順を踏み、型に嵌った終わらせ方をする。
そこに己の意思が混じることは殆どなく、また特別な感情もなかった。
男の生理現象として反応し、刺激が積み重なって射精に至る。
それは最早、定められた道を歩くに等しかった。

一人で処理をすることもまた、限られていた。
男である以上、時折持ち主の意思とは関係なく身体が反応することはある。
だがそれを処理する際も特別な興奮はなく、誰か特定の女性を思い浮かべることもなかった。
必要に迫られれば、溜まった老廃物を排泄する。
それだけのことだった。

長年そうして性からは程遠い生活をしていた俺の身体を根本から作り変えてしまったのは、彼女だった。
口づけという行為自体が快楽であることを、教え込まれた。
激しく舌を絡めるだけで、下肢が反応するようになった。
夢にまで彼女が現れ、その中で彼女と身体を重ねた。
剰え、いい年の大人が夢精までする始末だ。
そのようなことは、未成年の頃にさえ経験しなかったというのに。
彼女に出逢ってから幾度、堪えきれぬ衝動に身を任せて自身を慰めただろうか。
はしたない、情けない。
そう自覚しながらも手は止まらず、幾度も脳内で彼女を汚した。
罪悪感と興奮は尽きなかった。
身体も心も彼女を求める衝動に支配され、彼女は俺の核となる部分にまで入り込んできた。
しかもそれを、彼女は唇ひとつでやってのけたのだ。
無論、そのような浅ましい姿を知るのは己だけであり、彼女は俺が如何に彼女に耽溺しているのかなど、露ほども知らぬのだろう。



prev|next

[Back]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -