絡み合う熱情[1]
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R-18





角度を変え、唇は幾度も重なった。

僅か一時間前程までは不安に駆られていたことがまるで嘘のように、伝わる温度が胸の内を満たしていく。
浅く重ねるだけの口づけだというのに、その羽根のような柔らかな温もりが触れる度に心が震えた。

高嶺の花だと思っていた。
戯れに触れてくることはあっても、決して己のものには出来ぬと、半ば諦観していた。
それでも、いくら見苦しく映ろうとも。
無駄な足掻きだと思われようとも。
必死で手を伸ばした。

その、腕の中に。
文字通り、彼女は飛び込んできてくれた。

ソファの背凭れに身体を預けて座る俺の太腿の上に、彼女が跨っている。
俺の上に彼女が乗っているのは、実は二度目だ。
一度目は、会社の会議室だった。
あの時はまだ、されるがまま。
降り注ぐ口づけを受け止める以外、何も出来なかった。
だが今は、彼女は俺のものだ。
俺だけの、ものなのだ。

あの日は宙を掻くだけだった両手を、彼女の身体に回した。
左手を華奢な背中に、右手を括れたウエストに。
隙間を埋めるように抱き寄せた。
ブラウス越しに伝わってくる温もりに、眩暈がしそうだった。

この腕の中に、彼女がいる。
その事実だけで、狂おしいほどの衝動が身体を駆け巡る。
夢中で擦り合わせた唇は甘く、触れるだけで電気が流れたように痺れた。

もっと、もっと欲しい。
彼女の奥底を暴き、そしてまた俺の全てを受け止めてほしい。
意識せぬまま、思いは行動となった。

舌を伸ばし、彼女の歯列を突つく。
乞うようになぞれば、俺の舌を招き入れるかの如く彼女が入口を開けた。
咥内に侵入を果たした舌で、彼女のそれを探り当てる。
舌先を擦り付けると、腹の底からむず痒いような劣情が沸き起こった。

今までは、受け止めるだけだった。
唇が降ってくれば己のそれを差し出し、舌を絡められればそれに応えた。
常に先に動くのは彼女で、俺はそれを鑑みて己の行動を選んでいた。
だが今はもう、躊躇う理由はなかった。

舌を伸ばし、彼女のそれを絡め取る。
唾液と吐息を混ぜ合わせて、咥内を縦横無尽に弄った。
彼女は逃げることなく、それを受け止めてくれる。
歯列をなぞり、上顎に舌先を擦り付け、頬の内側を突つき、味蕾を愛撫する。
彼女はそれらを全て許容し、臆することなく甘えさせてくれた。

「…ん、ぅ…」

鼻に抜けるような彼女の声に、淫欲を唆られる。
唇の端から、嚥下しきれなかったどちらのものともつかぬ唾液が零れて顎を伝い落ちた。

全て、奪ってしまいたかった。
呼吸も、唾液も、彼女が常に纏う余裕も。
全てを俺の目前に曝け出してほしかった。
己が彼女に溺れきっていることなど、疾うに自覚している。
今更そこから抜け出せるとも思っていない。
それよりも、彼女を同じ場所まで引き摺り込みたかった。
理性の働かぬ、底なし沼のような恋慕の中に。

唇がふやけてしまいそうなほど長い口づけを解くと、唾液の糸が細く互いを繋いだ。
彼女の赤い舌が、それを絡め取る。
その仕草に欲情せぬ男などいるのだろうか。
腕の力を強め、より一層彼女の身体を抱き寄せた。
背中に回した左手で、ブラウス越しに彼女の身体をなぞる。
肩胛骨に指を這わせ、髪に隠された項に触れた。
豊かな髪のダークブラウンは、染めているのか地毛なのか。
緩やかな曲線は指先に優しく馴染んだ。
艶やかな髪の合間に手を差し込み、後頭部を引き寄せて彼女の顔を肩口に押し付ける。
耳元を擽る呼気に、身体の芯が甘く疼いた。

自制すべきなのは、十分に理解していた。
彼女は以前から交際をしているつもりだったと言ってくれたが、互いに言葉で想いを確かめ合ったのはつい先程のことだ。
そのまま事に及ぶのは、決して褒められたことではないだろう。

しかし、この半年で繰り返された口づけに、感覚が麻痺していた。
いや、それすらも建前か。
単に俺の克己心が、彼女に対してだけは欠如していただけかもしれぬ。

「…構わぬか、」

気が付けば、髪の隙間から覗く小さな耳に、吐息を混ぜて希っていた。
それに対し彼女から返された言葉は、俺の僅かばかり残っていた理性を物の見事に粉砕して尚余りある威力を孕んでいた。

「続きはベッドで、ね?」



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