愛をなぞる言葉[2]
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彼女が土方先輩と交際を始めたのは丁度一年前、夏休みが明けてから少し経った頃のことだった。
本人から直接この話を聞いたことはない。
風の噂で、彼女が土方先輩に告白したことを知った。

一学年上の土方先輩は俺と同じ剣道部で、この夏に引退を迎えた。
本来であれば三年生は今からが大学受験へ向けてのラストスパートとなるのだろうが、土方先輩は既に推薦により進学が決まっている。
故に、最近は毎日放課後になると彼女を迎えに来る姿が見られた。

そのためだろうか。
夏休みが明けてからの彼女は、

「一君?どうかした?」
「っ、総司か」

不意に顔を覗き込まれ、俺は微かに仰け反った。
そんな俺の反応を見て、総司は竹刀を片手に目を瞬かせた。

「大丈夫なの?随分ぼーっとしてたみたいだけど」
「あ、ああ。問題ない」

そう答え、立て掛けてあった竹刀を手に取る。

「…ならいいんだけど。土方さんたちが引退して、張り合いないんでしょ」
「そのようなことはない」

主将だった近藤先輩、そして副将だった土方先輩。
確かに、名実共に全国レベルだった二人の引退は、この剣道部にとって大きな喪失感があった。
しかし俺は、その近藤先輩から主将の座を受け継いだ身。
張り合いがないなどと言っている場合ではない。

だが。

夏休み前までは、毎日のように部活に出ていた土方先輩。
その部活を引退した今、あの人はこの放課後という自由時間に何をしているのか。
聞くまでもない。
恐らく毎日、彼女と共にいるのだ。
俺が稽古をしている間ずっと、二人は一緒に帰ったり、どこかへ出掛けたりしているはずだ。

俺の知らないところで、二人は着実にその仲を深めていく。
土方先輩は恐らく、俺の知らない彼女をたくさん知っているのだろう。
土方先輩にだけ向けられる、笑った顔、華やかな声。

どのような話をするのだろうか。
土方先輩の言動に、恥ずかしがって顔を赤くしたりするのだろうか。
甘えた仕草で身体を寄せるのだろうか。
そんな、知りもしないことを勝手に想像し、そして勝手に嫉妬心に駆られるのだ。

邪推ばかりして、どうにも稽古に身が入らなかった。
このようなことでは、主将失格だ。
俺は気を鎮めるように深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。
集中、心の中でそう唱えた途端。

「そういえばその土方さんのことだけどね、」

耳に飛び込んできた総司の言葉に、呆気なく俺の集中力は霧散した。

「…土方先輩が、何だ」
「うん、それがね、」

意味深長に笑って話し始めた総司。
その内容に、俺は愕然となって立ち尽くした。


土方さんって、二股かけてるんだってね。




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