永遠に続く愛の形[5]
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「それならば、何故あの時に…」
「はじめが何も言わせてくれなかったんじゃない。メールもシカトして」

確かに、その通りだ。
問答無用で別れを告げてその場から立ち去り、呼ばれても振り返らなかった。
メールも返さなかった。

「…それにね。何となく、もう駄目なのかもって思ってたの」
「駄目、とは」
「あの頃のはじめ、様子がおかしかったっていうか。心ここに在らずで。私といても、楽しそうじゃなくて」

だから、ああやっぱりって思ったの、と。
ナマエは悲痛に笑った。


全て、俺の誤解だったというのか。
ナマエは誰か他の男を好いているのだと勝手に決めつけ、本当はそうではなかった彼女を俺が手酷く捨てた、と。
そういうことなのか。


「…すまない、すまなかった、ナマエ」

謝って済むことではなかった。
ナマエは苦しんだ。
選りに選って誕生日に、待ち合わせをして会って早々、理由もなく恋人に別れを告げられ。
送ったメールも返って来ず、失意に沈んだのだろう。
別れを告げた俺もまた、どん底まで落ち込んだのだから。

「あんたはもう、俺のことなど好いてはおらぬのだと…っ、そう、思ったのだ。他に好いた男がいるのだと、」

すまなかった、と。
何度も謝罪を繰り返す俺を、遮ったのはナマエだった。

「…もう、いいの。終わったこと、だから。もういい」

そう言って、俺に背を向ける。
その、華奢な後ろ姿。
あの日ナマエは、どのような想いで俺の背を見送ったのだろうか。
どのような想いで、俺の名を呼んだのだろうか。

「ナマエ…っ」

背後から、その身体を抱きしめた。
震えているのは、ナマエではなく俺の方だった。

「もういいよ、はじめ。理由は、分かったから。それに、あの頃私のこと、あんまり好きじゃなかったでしょう?」
「違う!」

己でも驚くほど大きな声が出た。
耳元で叫ばれたナマエが、肩を揺らす。

「違う、そうではないのだ」

あの頃。
ナマエの誕生日の前。
彼女が言うには俺が心ここに在らずだった、という期間。

「あの頃、あんたに言いたいことがあった。本当はあんたの誕生日に、言うはずだった」

今、聞いてくれぬか。
あの日、俺の弱さ故に言えなかった言葉を。
今、伝えさせては貰えぬか。


「俺と、結婚してほしい」


ナマエの耳元に囁いた、3年越しのプロポーズ。
ゆっくりと彼女が俺を振り返る。
見開かれた目が、信じられない、と言っていた。

「…ほ、んき、なの…?」

ナマエの唇が戦慄く。
俺は左手の指をネクタイの結び目に掛けた。

「あんたは、女々しいと笑うやもしれぬが、」

ワイシャツの下から引っ張り上げたシルバーのチェーン。
俺は両手を首の後ろに回し、そのチェーンを外した。

ナマエの目の前にかざしたチェーン。
その、先端に。
揺れる、華奢な指輪。

どう見ても女物のそれに、ナマエが目を瞠った。

「…あの日、あんたに渡すつもりだった」

チェーンから、そっと指輪を抜き取る。
恥ずかしさで消え入りそうになりながらもジュエリーショップで選んだ、指輪だった。

「何度も捨てようとした。だが、捨てられなかった」

彼女の薬指に通すはずだった指輪は、用済みになった。
幸せの象徴だったそれは、ただのがらくたになった。

「いつも、身につけていた。こうすればあんたが…っ、あんたが戻って来てくれるのではないか、と」

俺の指には通らぬ、小さな指輪。

「…受け取っては、もらえぬか」




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