永遠に続く愛の形[4]
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それを、俺はどう解釈すれば良いのだろうか。

恋人に別れを告げられ傷心した、ということならば理解出来る。
だがナマエの場合、他に好いた男がいたナマエの場合、これは当て嵌まらない。

「何故、あんたが傷付くのだ…」

傷付いたのは、俺の方だ。
しかしそれは、言葉にならなかった。

「何でって。ねえ、何でって!どういうことなの。そりゃ、はじめにとってはもうどうでもいい存在だったかもしれないけど!事情も説明せずに捨てたって気にもならないような存在だったかもしれないけど!」

突然激昂したナマエが、勢い良くベンチから立ち上がって。

「捨てた後まで馬鹿にしなくたっていいでしょ!」

そう言い捨て、ナマエは踵を返した。
俺は唖然として走り去るその後ろ姿を見ていたが、我に返ると慌ててその背を追った。

ヒールにスカートのナマエと男の俺では、当然結果は目に見えていて。
俺は難なくナマエの手首を捕まえた。

「離して、よっ」

尚も俺から逃れようと、ナマエがもがく。
そんなナマエを、俺は思わず抱きしめていた。


「好きだ、ナマエ」


腕の中、ぴたりとナマエの抵抗が止む。
その隙に、俺はナマエをきつく抱え込んだ。

「ずっと好きだった。別れを告げたあの日も、この3年間も、ずっと。あんただけが、好きだ」

耳元に唇を寄せ、言葉を落とす。
深く息を吸い込めば、あの頃と同じナマエの匂いがした。

「…うそ。だったら、どうして…」

信じられないとばかりに、ナマエが頭を振る。

「…他に、好いた男がいたのだろう?」

あの日、怖くて聞けなかった。

本当は、誰だと問い質したかった。
どこの誰が、ナマエの心を奪っていったのか。
俺から離れたナマエは、誰の元へ行くのか。
手放したくなどなかった。
誰にも渡したくなどなかった。

だが、あの日の俺は。
ナマエの裏切りを知ってしまった俺は。
戦意を喪失して、諦めてしまった。
ナマエに愛されていると思って過ごした日々の全てを、疑って。
ナマエがくれた言葉の全てを疑って。

俺は何もせずに、ナマエの手を離したのだ。
そしてそのことを、死にたくなるほど後悔した。

「浮気を、していたのだろう?」

もう二度と、あのような後悔はしたくない。
もう一度、出逢えたのだ。
もう一度俺の前に、ナマエは現れた。
いまこの腕の中に、ナマエがいる。
例えいま誰と交際していたとしても、俺のことをどう思っていたとしても。

もう一度、俺の元へ。
必ず、振り向かせて見せる。

そう、思った矢先。

「…はじめの、ばかっ!」

静かな夜道に響いたナマエの声。
そして左足の脛に感じた衝撃。

「っ、」

ナマエに蹴られたのだ、と気付くまでに数秒の時間を要した。
思わぬ痛みに緩んだ腕から、ナマエが抜け出す。

「ナマエ、待て!」

鋭利なヒールの爪先で蹴り飛ばされた左脚を引き摺って、もう一度逃げ出したナマエの手首を捕らえた。

「してない…っ」
「…何、だと?」
「浮気なんてしてない…!」

強引に引いた、ナマエの手首。
無理矢理振り向かせた彼女は、その目いっぱいに涙を溜めて俺を睨んでいた。

「だが…あの日、電話で、」
「…電話って?」
「待ち合わせの公園で、電話をしていただろう。相手に、好きだ、と。恥ずかしいから何度も聞くな、と」

忘れもしない、あの言葉。
夢の中にまで出てきて俺を苦しめた、ナマエの告白。

「……あの電話、総司と話してたんだよ?」
「あんたは…っ、総司と浮気をしていたのか!」

沖田総司。
それは俺やナマエと共に同じ大学に通った、共通の友人の名。
俺と彼女の関係を知っていた上で、俺から彼女を奪ったというのか。

「ちがっ、も、ばか!はじめの話をしてたの!」
「………なに?」
「総司が面白がって、はじめのことをどのくらい好きかとか聞いてくるから!」


え、もう。やだなあ、大好きに決まってるじゃない。…ばか、何回も聞かないでよ。恥ずかしいから。


「……総司を、好いているのでは、」
「ただの友だち!」


世界が、音を立てて崩れた気がした。



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