[11]幸せと呼べる涙流せる場所
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R-18




斎藤の脳裏に、ふと原田の言葉が甦る。
それは、昼から夜伽の話をするなど、と反論した斎藤に向けられた言葉たち。


いいか斎藤。明るい部屋で話すことによってな、まずは雰囲気を艶事から遠ざけることが出来る。
そして、これにはもう一つの利点があるんだ。それは、もしそこでナマエと話がついて、共寝を許されたとする。それが夜だったら、お前間違いなくそのままやっちまうだろ?
だが真っ昼間だったら?流石にその場で押し倒す訳にゃいかねえ。となると、また場を改めてってことになる。そうすることで、身体目当てじゃないんだって印象がより強くなる。
どうだ?悪かねえだろ?


それは原田が提案した、斎藤の心象をより良くするための策だった。

だった、のだが。

すまぬ、左之。

斎藤は心の中で原田に一言詫び、ナマエの身体を抱き寄せて唇を重ねた。
ずっと触れたかった桜色の唇を食み、時折舌で擽る。
そうしているうちにナマエの歯列を割り、斎藤の舌は温かい口内へと導かれた。
見つけたナマエの舌を絡め取れば、濡れた音が唇から漏れる。

「…んぅ…」

水音と共に鼓膜を揺らした声に、斎藤は背筋を震わせた。
それは、普段の稽古姿や巡察の時の凛々しい雰囲気からは想像もつかないほどに艶やかで愛らしいナマエの声だった。

もっとその声が聞きたいと、斎藤は夢中でナマエの舌を攻め立てる。
その接吻は、息苦しくなったナマエが斎藤の胸元を叩いて助けを求めるまで続いた。

はあ、と荒い息が互いの口から漏れる。
斎藤の視線は、呼吸を奪われ涙目になったナマエが頬を赤らめる姿に釘付けだった。

「…今すぐ、あんたが欲しい」

羞恥と緊張に震えるナマエの耳元に、欲求を吹きかける。
僅かな沈黙の後、斎藤の目には縦に小さく頷いたナマエが映った。

初めて許された、その行為。

斎藤は手早く布団を敷くと、その上にナマエを押し倒した。
結い紐を解けば、白い布団に散る黒髪。
黒目がちの大きな瞳が、恥ずかしそうに泳ぎながらも斎藤を見上げてくる。

「綺麗だ」

斎藤は短くそう呟き、ナマエに覆い被さると再び口付けた。
角度を変え、深度を変え、斎藤はナマエの唇を貪る。
その甘さに、眩暈がしそうだった。

やがて斎藤の唇は、頬に、目元に、耳朶に、と。
ナマエの身体を彷徨う。
やがてその唇が、鎖骨を這って大きな傷痕の先端に触れた。

ひくり、と震えたナマエの身体。

無意識に上がったナマエの腕が、傷を隠そうと身体の前で交差する。
斎藤はその両手を己の手に繋ぎ、布団に縫い止めた。

「言ったはずだ、ナマエ。隠さないでほしい、と」

そう言って、斎藤は大きな傷痕の上に唇を降らす。
軽く触れ、かと思えば吸い付き、そして舌でなぞる。
それを繰り返しながら徐々に位置をずらし、最後に右の脇腹までを辿った。

ナマエがこの傷を、己の恥だと思わぬように。
そのせいで、自分は傷物だなどと言わぬように。
斎藤はその傷痕を愛でた。

そしてその想いは、恐らくナマエに届いていたのだろう。
ナマエは天井を見つめながら、静かに泣いていた。

斎藤がその涙を舐めとって視線を合わせれば、どちらからともなく笑みが零れた。


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