[7]一筋の光明その、斎藤が直前まで脳内で練習していた台詞とは打って変わって非常にまどろっこしい説明を、ナマエが理解するまでに数秒の時間を要した。
そして当然、それを理解したナマエは顔を強張らせて固まった。
「いや!その、無理強いをするだとか、決してそのようなつもりはない。あんたが嫌がることはせぬ。それは、信じてほしい」
ナマエの表情を見た斎藤が、慌てて言葉を続ける。
ナマエは一度目を閉じてから、恐る恐る頷いた。
斎藤はその仕草を、続きを話しても良いという意味に捉えた。
「あんたは…その、どうやら俺とそのようなことをしたくはないようだ。ということは理解した」
斎藤は慎重に言葉を選んだ。
原田から、決してナマエを責めるような表現をするなときつく言い聞かされていた。
「だが、その理由が分からぬのだ。俺はあんたに、何かしてしまったのだろうか。その、嫌だと思う理由を、教えてはくれぬか」
そう言って、斎藤は口を噤んだ。
何度も聞いたり答えを急かしたりするな。
一度聞いて、後は黙ってナマエが答えるまで待つ。
押して駄目なら引いてみろ。
斎藤は頭の中で原田の助言を反芻しながら、ひたすらにナマエの反応を待った。
斎藤の言葉を聞いたナマエは驚いた顔をし、そして思い悩むように俯いたまま固まってしまっていた。
斎藤は考える。
原田は、それでもナマエが答えないならば奥の手だと言った。
だがこのそれでも、は一体どのくらい待った後のことを言うのか。
それが分からなかった。
正確な時間を聞いておけば良かったと後悔するが、もう遅い。
斎藤は自信のないまま、次の段階を踏む決意を固めた。
「俺は、あんたを…す、好いている。故に、あんたに触れたいと、そう思うのだ」
心も身体も、その全てを。
見せて、触れさせてほしい、と。
「だが、あんたはそれを厭う。ということは、それはつまり、あんたは俺のことを好いてはおらぬ、ということなのかと…そう、思ってしまうのだ」
故に、共寝を断られるのはつらい、と続くはずだった斎藤の言葉は、しかしそこで途切れた。
「ち、違いますっ!」
ナマエの、泣き出しそうな声に遮られて。
突然の反応に、斎藤は固まった。
だが、その意味を理解するにつれ、胸の内に一先ずの安堵が広がっていった。
ナマエが違う、と否定したもの。
それは斎藤の、あんたは俺を好いてはおらぬのではないか、という言葉だ。
つまり、嫌いだから行為を拒否しているわけではない、ということ。
それが分かっただけでも、斎藤にとっては大きな収穫だった。
しかしならば、何故。
何故、触れさせて貰えぬのか。
斎藤の疑問は残ったまま、再び部屋に沈黙が落ちた。
原田の言う奥の手は半分成功したが、この先はどうすれば良いのか。
助言に続きはない。
斎藤は恐る恐る、もう一度同じ問いを重ねてみた。
「それならば何故…あんたは俺を拒むのだ」
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