[6]青い鳥を探して
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そしてついに、その日がやってきた。

原田に相談を持ち掛けた翌々日、斎藤の非番の日である。

斎藤は朝から落ち着きなくあちこちをうろついては、頭の中でナマエと話し合う際の手順を繰り返し復習していた。
まず話があると部屋を訪れ、共寝を厭う理由を聞き、ナマエが答えるまで黙って待つ。
それでもどうしても回答が得られなければ、正直に己の想いを伝える。
避けられるとつらい、ということを。

幾度目かの反復の後、斎藤は大きく溜息を吐いた。
果たして上手くいくだろうか。
ナマエは共寝を拒む理由を話してくれるだろうか。
その上で、解決策を見出すことが出来るだろうか。
いくら理由を聞き出すことに成功したとて、その理由がもう好いてはいないから、では救いようがない。

斎藤は高まる緊張のせいで食事が碌に喉を通らず、結局朝に続き昼餉も殆どを永倉と藤堂に譲る形で広間を後にした。
そんな斎藤を、原田は心配しながら見送った。

昼餉の後、斎藤は脳内で最終確認を終えるとナマエの部屋に向かった。
本当はまだ心の準備が出来ていなかったが、あまり遅くなるわけにはいかなかったのだ。
それは、原田の助言による。

原田は言った。
昼間の明るい部屋で話せ、と。
そうすることによって艶事の雰囲気が緩和され、ナマエの恐怖心を抑えることが出来る、と。

よって、話し合いは昼間の内に済ませなければならない。
長引いて日が暮れてしまってはいけない。
そう判断した斎藤は、昼八ツにナマエの部屋を訪れた。

「ナマエ、話がしたいのだが、入っても構わぬか」
「はい、どうぞ」

襖越しに声を掛ける。
返ってきた声に、特段嫌がる雰囲気はない。
斎藤は逸る鼓動を抑えようと大きく深呼吸をしてから、襖に手をかけた。

中には、畳の上に正座をしたナマエがいた。
斎藤と同じく非番の彼女は袴を穿いていない。
着流しこそ男物だが、いつもの男装姿よりずっと女らしさが滲み出ていた。
そんな姿に視線を惹きつけられ、斎藤はナマエをじっと見つめる。

「斎藤さん?」

不自然な沈黙を破ったのは、ナマエの訝しげな声だった。
はっと我に返った斎藤は、誤魔化すように小さく咳払いをして畳の上に腰を下ろした。
あえて、ナマエとは少し離れた場所に、である。

これもまた、原田の助言だった。

最後に大事なことがある、と言った原田は、話し合いの最中にナマエには触れないようにと斎藤に忠告した。
ナマエは、男女間の行為を怖がっている可能性がある。
だから、そのような話をしている最中に身体的な接触をすると、その恐怖心を助長してしまう恐れがある。
それを防ぐためにも、まずはいつもより離れた位置に座れ。

というのが原田の言葉だった。


「お話というのは?込み入ったことでしたら、お茶を淹れて参りましょうか」

こてん、と小首を傾げたナマエに、斎藤は正座をした膝の上で拳を握り締めた。

触れるな、触れるな、触れるな。

心の中で繰り返す。

「いや、茶はよい。話を聞いてもらえるだろうか」
「もちろんです」

まさかナマエも、真っ昼間から夜伽の話をされるなど思ってもいないのだろう。
何の翳りもない目で斎藤を見ている。
その視線の先、斎藤は意を決して口を開いた。


「その…話というのは、だな。いや、そのようなことを昼間からあんたに話すべきではないのだと分かってはいるのだが。つまり、その…変な意味では決してないのだ。その、それ故に、あまり構えずに聞いてほしいのだが。いや…は、話というのは、その、夜…の、俺とあんたの、よ…とぎのこと、なのだ」



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