[5]どんな言葉を選んだとしても
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「斎藤。その断られた三度ってのは全部、時刻は夜だったのか?」
「…ああ、そうだが」

何故そのようなことを聞くのか、といった様子で斎藤が首を傾げる。
そんな斎藤に、原田は問いを重ねた。

「つまりそこでナマエが頷けば、そのままそういうことを出来る状況だったってことだな?」
「そうだ。いや、だが無理矢理事に及ぼうとしたわけでは…!」
「そんなこた分かってるさ」

心外だと声を荒げた斎藤に、原田は苦笑する。
むしろそんなことになっていれば、原田は間違いなく目の前の男を一発殴っているだろう。

「だが、例え男の側にそのつもりがなかろうと、女はそれを意識しちまう」

だから。

「お前、次の非番の日にな、昼間にこの話をしてみろ」
「…ひ、昼間にそのような…」

斎藤がいかにも、そんな破廉恥な、という顔をしたので、今度は原田が心外だとばかりに眉を寄せた。

「昼間のな、明るい部屋で布団なんて敷かずに話すんだ。そりゃ恥ずかしさは倍増するだろうがな、ナマエの恐怖心は緩和されるはずだ」
「…成る程、一理あるかもしれぬ」

そうだろ、と原田は得意げに笑う。

「で、理由を聞く。何度も聞いたり答えを急かしたりするなよ。一度聞いて、後は黙ってナマエが答えるまで待つんだ。押して駄目なら引いてみろって言ってな、色恋には定番の駆け引きだ」
「…押して駄目なら、引いてみろ」
「そうだ」

あの斎藤に色恋の技を伝授していると思うと、原田は妙に居心地の悪い気分になってきた。
だがその斎藤は、まるで土方に隊務の指示を仰ぐかのような真剣さで原田の話を聞いている。
余程、切羽詰まっているのだろう。
身体的にも、精神的にも。

「で、ナマエが理由を答えたら、それについて二人で話し合え。どうしても答えねえようなら…」
「答えぬようなら?」

にやり、と笑って。

「泣き落とせ」

原田は奥の手だと告げた。

「な…っ?」

斎藤が目を見開く。
そして、男が泣くなどと云々かんぬん反論をし始めたので、原田はそれを手で制した。

「本来の奥の手は、別の女を抱いて嫉妬させることだ。だが、お前にゃそんなの無理だろ?」
「なっ、当たり前だ!ナマエがいるというのに、他の女となど!」

そう、斎藤にそんな不実な真似は出来ない。
そして、その演技が出来るほど器用でもない。
ならば、後は泣き落とすのみだ。

「何も本当に泣く必要はねえさ。ただ、断られ続けると好かれてないように思えて苦しいんだって、素直に吐いちまえ」

弱味を見せろ、と原田は言った。
ナマエみたいな女には、それが効く、と。

「で、最後に大事なことが一つある」
「大事なこと?」

ああ、と原田はわざとらしく頷いた。


「この話しを始めてからナマエが共寝を許すと言うまで、あいつには指一本も触れるな」




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