明かされる真実[4]再び、長い沈黙があった。
先ほどその空気を破ってくれた土方部長はもういない。
ということは、俺がこの沈黙を断ち切るしかなかった。
盛大に笑われることを覚悟して、俺は彼女に向き直る。
「その…すまなかった。俺は大変な誤解をしていたようだ」
しかし、何とか視界に入れた彼女の顔は、俺の想像に反して笑ってはいなかった。
真っ直ぐに見つめてくる視線は、思いの外真剣だった。
「庇ってくれたんだね」
それはいつもよく聞く、俺を揶揄する口調でもなければ、誘い込む蜜のような口調でもなかった。
ただ、穏やかで柔らかい音だった。
「ありがとう」
そう言って彼女は、大輪の花が咲くように笑った。
己でも驚くほどに、心臓が跳ねた。
土方部長と対峙した時よりも、血の巡りを激しく感じた。
「でも、そんな誤解させちゃってたなんて知らなかった。ごめんね」
「い、いや。あんたは何も悪くない。俺が勝手に勘違いをしていたに過ぎぬ」
互いに謝り合う。
その妙な状況に顔を見合わせて、そしてどちらからともなく笑った。
ここにきてようやく、感情が落ち着き始める。
胸のうちに残ったのは、彼女は土方部長と交際をしていない、という事実だった。
「その。この際というか、次こそ誤解をせぬために、聞いておきたいのだが」
「うん?」
「あんたは今、誰かと交際をしているのだろうか」
これで、土方部長ではなく別の男と交際していました、などという結末ではあまりに救われない。
それならば先に知っておきたい。
そう思っての問いに、彼女は首を横に振った。
「恋人はいないよ」
「そ、そうか」
その言葉に、安堵する。
彼女は誰とも付き合っていない。
つまるところ俺は、誰に遠慮することもなく彼女を好きでいて良いということだろう。
そう思うと、幾分か心が軽くなった。
そのまま、彼女に気持ちを伝えるべきかとも思った。
だが、それ以上は言葉にならなかった。
その代わりに、黙って彼女の身体を引き寄せた。
そしてその唇に、己の唇を重ね合わせた。
それは触れるだけの、いつもよりずっと浅い口付けだった。
しかし今までで一番、幸せな気分になれた。
いつか。
いつか彼女の恋人になりたいと。
この時、強くそう思った。
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