明かされる真実[3]
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「………は?」

その時俺は、相当間抜けな面を晒したことだろう。

土方部長の明らかに困惑しきった声が、頭の中でリフレインする。

付き合っていない、だと。
どういうことだ。
彼女は土方部長の恋人のはずだ。

二の句も継げなくなって立ち尽くした俺の背後、不意に小さな笑い声が聞こえて振り向けば。
そこには、堪え切れなくなったとばかりに口元を手で押さえ、それでも肩を震わせて笑う彼女がいた。

「ったく、なんだってそんな誤解をしてんだ。俺とナマエが付き合ってるだあ?勘弁しろよ」
「ちょっと。それ、どういう意味」
「お前みたいな大酒飲みは御免だって言ってんだよ」
「私だって、トシ君みたいな鬼と付き合う趣味はありませんー」

心底うんざりしたような、土方部長の声。
それに答える、明らかに笑いを抑えきれていない彼女の声。
どちらも本気で、互いが恋人同士だという話を否定している。

「…あんた。大学時代からの、付き合いだ、と」

ついには笑いすぎて浮かんだ涙まで拭い始めた彼女に、やっとのことで声を取り戻した俺がそう言えば。

「え?ああ、確かに大学の同期だけど。付き合ったことなんてないよ?」

あっけらかんとした答えが返ってきた。

少しずつ、冷静さを取り戻し始めた頭の中。
必死に記憶を辿っていく。

そう言われてみると、彼女や土方部長の口から直接、交際をしていると聞いたことはないかもしれぬ。
もしかするとこれは、最初に二人が揃っている所を見かけた時に、俺が勝手に交際をしているのだと決め付けてしまっただけなのか。
その後ずっと、付き合っているものだとばかり思っていたが故に、それ以外の見方が出来ずに誤解を深め続けていたということか。

全て俺の、勘違いだと言うのか。

そう気付いた瞬間、膝から力が抜けた。
危うく路上で崩れ落ちそうになり、俺は咄嗟に側にあった電柱に手をついた。

「斎藤君っ」

慌てたように、彼女が俺の身体を支えようと腰に腕を回してくる。
情けなくもその細い腕に縋り、俺は何とか体勢を立て直した。

その時俺が抱いた感情を、どう表現すれば良かったのか。
それは、人生で五本の指に入るほど、複雑な感情を持て余した瞬間だった。

彼女が土方部長と交際をしていなかったという、驚きと幸福感。
彼女に危害が加えられることがなくて良かったという、安堵。
土方部長の信頼を裏切ってはいなかったのだと知った、安心。
そして、そんな二人の前でとんでもない醜態を晒したという、羞恥心。

もしも可能ならば、今すぐに地面に穴を掘って逃げ出したいと本気で思った。
が、勿論俺にそんな特技はない。

「申し訳ありません…」

居た堪れなくなり、俺はもう一度頭を下げた。
しかし、己が一体何について謝罪しているのかは分かっていなかった。
顔を上げると、土方部長が苦笑している。

「いや。俺も、声かけるタイミングが悪かったな。すまなかった」
「い、いえ…」

そうだ。
俺は先ほどこの人に、彼女に口付けている瞬間を見られたのだ。
そう思うと、いよいよ顔が上げられなくなり俯いた。

「あー…じゃあ、俺はもう行くからな。ナマエ、斎藤のことは頼んだぞ」

土方部長は気まずげにそう言い残し、その場を歩き去った。
俺は碌に挨拶も出来ず、頭を下げただけだった。


そうして、俺と彼女がこの場に残された。


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