明かされる真実[2]
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「お前ら…!」


とある金曜日の夜。

いつものバーを出て、彼女と共に駅に向かう途中。
人通りの少ない夜道で、別れを惜しむように自然と唇を合わせた。
アルコールと煙草と、彼女の匂い。
それらを一度に感じながら、次に会えるのはいつになるだろうか、と。
そんなことを考えつつ、身体を離したその時。

耳に飛び込んできた聞き慣れた声に、心臓が凍り付いた。

はっとして声の主を辿れば案の定、そこには俺と彼女の関係を一番知られてはならぬ相手が立っていた。
街灯の下に、愕然と立ち尽くした姿が浮かび上がる。

「土方部長…」

このような事態を、頭のどこかではずっと想定していた。
だが実際にその瞬間が訪れてみると、身体中から冷や汗が噴き出すようだった。

それでも、俺は彼女の身体を背後に庇って土方部長に向かい合った。

覚悟はあった。
それこそ、半年前からずっと。

彼女と過ごす時間を作るための覚悟。
もしいつか彼女が俺を見てくれたならば、その時は彼女を土方部長から奪う覚悟。
土方部長からの信頼を、失うことになろうとも。
俺は彼女を選んでいた。

だが、それはあくまでも俺の話だ。
彼女の話では決してない。
俺は、殴られてもよい。
何を言われても構わぬ。
謹慎処分になろうが、減給されようが、左遷されようが、クビになろうが。
その覚悟は出来ている。

だが、彼女に害が及ぶ事態だけは避けねばならなかった。


唖然とした顔の土方部長を前に、俺はゆっくりと進み出た。
そして、先手を打たれる前にと彼女のための釈明を切り出した。

「申し訳ありません、土方部長。お察しの通り、自分は彼女に特別な関係を迫りました」

困惑の色が強い紫紺の双眸を、真っ直ぐに見据える。

「しかし彼女ははっきりと拒絶しました。強引に迫ったのは自分です。彼女は何も悪くありません。この責任は自分が取ります故、彼女を責めないと約束しては頂けませんか」

俺が責められる分には構わなかった。
むしろ責められて当然だ。
だが、土方部長の怒りの矛先が彼女に向くようなことがあってはならない。
これで万が一別れ話になど発展しようものなら、俺は彼女にどう謝罪すればよい。

確かに俺は、彼女が土方部長ではなく俺を選んでくれたならば幸せだとは思っている。
だがそれは、彼女の意志でもって決めてほしいことだ。
俺のせいで、土方部長から別れを切り出されるようなことがあってはならぬ。
それは俺の本意ではない。

「土方部長の恋人と知りながらこのようなことをしてしまい、申し訳ありません」

だからその怒りは全て、俺に向けてほしい。
そう願って、深く頭を下げた。

長い、沈黙だった。

俺は足元のアスファルトを見つめながら、次の展開を予想していた。

俺の女に手を出しやがって、と怒鳴られるだろうか。
それとも、問答無用で殴られるだろうか。
もし土方部長が俺ではなく彼女の方を見た時は、何があっても守らなければならぬ。
そんな覚悟を固めながら、俺は頭を下げ続けた。

沈黙を破ったのは、土方部長だった。

「あー…斎藤?」

その声は俺の予想に反し、怒りの色というよりも困惑の色を多く含んでいるように聞こえた。

「斎藤。とりあえず、頭上げろ」

そう言われ、ゆっくりと上体を起こす。
再び向かい合った土方部長から、しかし鋭い視線は飛んで来なかった。
それこそ鬼の形相で睨みつけられるだろうと踏んでいた俺は、予想とはあまりに異なる状況に内心で首を傾げる。

そんな俺にとって、土方部長の次の発言はこれ以上ないほど衝撃的だった。


「その、な。何を勘違いしてんだか知らねえが、俺はそいつと付き合ってなんかねえぞ」



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