明かされる真実[1]
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この関係に名前を付けるならば、それは浮気、ということになるのだろうか。


彼女と出逢ってから、半年が経った。
しかし、俺と彼女の関係性は出逢った頃からあまり変わっていない。

二週に一度くらいの頻度で、仕事の後に飲みに行く。
大抵は彼女の選ぶレストランや居酒屋で食事をとり、その後いつものバーで酒を飲む。
そして必ず終電があるうちに別れ、それぞれ帰宅する。

触れ合いは、口付けまで。
その場所はバーの店内であったり、ひと気のない夜道であったり、はたまた二人きりの会議室であったり。
過去の俺ならばあり得ぬような状況ばかりだが、彼女とはそれが当たり前だった。
そして、口付け以上のことはしない。

連絡先は、半年経った今でも互いに知らぬままだ。
喫煙所付近で顔を合わせた時に、次の約束をする。
それが、俺たちの暗黙の了解になりつつあった。
きっと彼女は、俺が彼女に会いたいがためにわざわざ喫煙所に足を運んでいることに気付いているのだろう。
だが、それを悟られたとて、やめるわけにはいかなかった。
それ以外に、彼女に会う術はないのだから。

俺と彼女の会話は、そう色気のあるものでもなかった。
仕事の話、お互いの家族の話、学生時代の思い出話。
そんなところだ。
口付けさえしていなければ、俺は彼女との関係について何の躊躇いもなく、上司であり時々飲みに行く友人、と言えただろう。
そのくらい、俺と彼女の間には、互いをどう思っているか、という男女特有の話題がなかった。

勿論俺は、彼女を一人の女性として好いている。
だがそれを伝えたことはない。
そして、彼女が俺をどう思っているのかは知らぬままだ。
これは俺の推測でしかないが、恐らくは、たまたま少し遊んでみた男が意外と話の合う人物だったから、飲み友達になってみた、といったところだろう。

交わされる口付けは、彼女にとってはオマケみたいなものなのかもしれぬ。
勿論俺にとっては、これ以上ないほど甘美な誘惑だ。
だがそれに負けて手を出せば全てが終わると分かっている故に、毎回理性を総動員して耐えているという状態だった。

しかし、この関係を他人が見れば、恐らくは浮気をしている、と捉えられるのだろう。
浮気の定義は人それぞれだと言われているが、恋人がいながら他の男と口付けをすれば、恐らくは浮気になるはずだ。
つまるところ俺は、彼女の浮気相手ということになる。

それ故に、彼女との関係を決して他人には知られぬよう、注意を払ってきたつもりであった。
彼女もそうであったように思う。
彼女が俺の連絡先を聞かぬのは、万が一スマートフォンが土方部長の目に触れた時のことを考えた故ではないだろうかとも思っている。

しかし彼女は、そんな心算とは裏腹に、大胆極まりない場所での口付けを好んだ。
俺としては、ここでは不味いと止めなければならぬような場所も多かった。
勿論彼女の甘い唇を前にそんな理性が働くはずもなく、窘めたことなど一度もないのだが。

こんなことを続けていれば、いつか事が露見してしまうかもしれぬ、と。
頭では分かっていた。
だが、関係を断つことなど出来なかった。


そしてついに、その時は訪れた。


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