いつかこの涙が[6]
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「は、じめ…っ。はじめ、はじめ…っ」

他の言葉を全て忘れ去ったみたいに、ただひたすらその名前だけを口にする。
それに応えるように、はじめは私を強く抱き締めてくれた。
着痩せして見えるだけで、本当はその二の腕も胸板も、男の人らしく綺麗な筋肉がついている。
それを知っているのは、きっと私だけ。

はじめには私しかいなくて、そして私にははじめしかいないのだ。

「ごめん、ね…っ。ごめんなさい、はじめ、ごめ…っ」
「ナマエ…っ」

謝り続ける私を遮ったのは、切羽詰まったようなはじめの声だった。

「気が、狂うかと思った。あんたが無事でよかった…!」

いつもの淡々とした口調はどこに行ったのか、擦り切れるような叫び声が鼓膜を揺らす。
その言葉に、その声に、喉が詰まった。
胸の内側に込み上げた愛情を伝えたくてはじめの背中に手を回すと、彼はああ、と掠れた吐息を漏らした。

「ナマエ…、ナマエ…」

何度も何度も、繰り返される名前。
ようやく見つけたと、後頭部に回された手に抱き寄せられ、顔をはじめの肩に埋めた。
強く香ったはじめの匂いに、目眩がしそうだった。

「頼む、もうどこにも行かないでくれ…っ」

私を抱き締めた腕が、震えていた。
耳元に落とされる声も、震えていた。

そして。

「あんたがいないと、俺は生きていけぬ」

私の心も、震えた。
震えた心に、はじめの言葉が真っ直ぐ落ちてきた。
そして広がった。

「私も、はじめじゃなきゃだめなの…っ。他の誰でもない、はじめがいいの!」

信じて、と。
私を信じてよ、と。
顔を上げ、そして驚いた。

その深い碧色が、濡れていた。

す、とはじめが目を細めると、その縁から浮き上がった碧が滑り落ちた。
はじめの涙を見たのは、それが初めてだった。

「好き。大好き。だから、離さないで」

そう言って、もう一度はじめの胸に身を投げ出した。

「帰って来てくれるか、ナマエ。俺の元に」

そして、耳元に零された震える声に、必死で頷いた。

愛している、と。
嗚咽に交じってそう言われた気がした。



いつかこの涙が
- 愛の証とならんことを -


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