いつかこの涙が[2]
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はじめとの出会いは、まだ私たちが大学に通っていた時のことだった。

たまたま同じ授業を選択していて、たまたま隣同士に座った。
その日、レポートに追われて寝不足だった私は講義の最中に思いっきり爆睡してしまい、気が付けば授業は終わっていた。
やってしまったと、白紙のルーズリーフを見下ろして頭の中まで真っ白になった私に。
隣に座っていたはじめが、彼自身のノートを差し出してきて。
目の縁を赤く染めながら、あんたさえ良ければ貸すが、と言ってくれた。

それが、私とはじめの出会いだった。

そんなはじめが私に告白をしてくれたのは、一年生の冬だった。
やっぱり目の縁を、正確には頬や耳までをも真っ赤にして、私を好きだと言ってくれた。

そうして私たちは、大学を卒業するまでいつも一緒に過ごした。

就職は、お互いに違う企業へと進んだ。
一緒にいられる時間が少なくなってしまうからと、大学卒業と同時に私たちは元々はじめが一人暮らしをしていた家で同棲を始めた。

最初の頃は、上手くいっていたと思う。
でも途中から、はじめはおかしくなった。



「ナマエ、紅茶で大丈夫?」
「うん、ごめん。ありがと」

家を飛び出した私は、高校時代からの友人である千鶴に助けを求めた。
幸い仕事用のバッグを持ったままだったから、タクシーを捕まえて千鶴のアパートまで来た。

「大丈夫だよ、気にしないで」
「でも、金曜だし。彼氏とか、」

必死に階段を駆け下りてマンションを飛び出して暗い夜道に出た時、真っ先に思い浮かんだのが千鶴だった。
つい何も考えずに来てしまったが、何か約束があったのではないだろうか。
今さらになってそんなことを思ったが、カップを二つ持ってリビングに戻って来た千鶴は全く気にしていない様子で笑ってくれた。

「彼氏はね、平助君っていうんだけど。今日は友だちと飲み会だって言ってたから大丈夫だよ」

その笑顔に、胸がズキンと痛みを訴える。
恋人の話題になり、自然と笑った千鶴。
それはきっと当たり前のことのはずなのに。

「そっ、か」

私は今、はじめの話をして笑える自信なんてない。

「それで、何があったの?」

心配そうに顔を覗き込まれ、言葉に詰まった。
何と答えるべきか迷い、誤魔化すように紅茶のカップを口に運んだ。
甘かった。
そういえば、千鶴は甘党だ。
普段ストレートかレモンでしか飲まない私にとっては、甘すぎた。
でもその甘さが、私の無茶苦茶になった心に沁みた。

「ざっくり言うとね。彼氏と揉めた…んだと思う」

自信のない口調になるのは、揉めたという言い方がしっくりこないから。
正確には、彼氏から逃げて来た、と言った方が正しいのかもしれない。

「揉めたって…え、彼氏ってあの斎藤さんだよね?」

千鶴は大学が違ったから、はじめとの面識はない。
でも、はじめの話は何度もしたことがあった。
私を大切にしてくれるとても素敵な人だと、大学時代の私ははじめのことをそんな風に説明していたはずだ。

「喧嘩したの?」
「喧嘩っていうか。一方的に怒られて、逃げて来ちゃったっていうか…」

良くわからない、という顔をした千鶴に、私は今日の出来事も含めてここ最近の事情を説明した。
嫉妬と束縛が酷くなり、私の自由がなくなり、すぐに浮気を疑われるようになったこと。
今日仕事を辞めろと言われ、ずっと我慢していた感情が溢れてしまったこと。

私が全てを話し終えるまで、千鶴は黙って聞いてくれた。



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